2024.04.12
日本の水道事業の民営化・外資開放への懸念に関する質問主意書
令和6年4月12日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『日本の水道事業の民営化・外資開放への懸念に関する質問主意書』
日本の水道普及率は、一九五〇年の約二十六%から現在は約九十八%まで達するとともに世界的にも高い水質を維持している。この成果は、国や自治体による公共事業としての水道サービスの提供と、約九十九・九%に達する高い水道料金の回収率あってのことといえる。水道法は、「清浄で豊富かつ低廉な水の供給を通じて、公衆衛生の向上と生活環境の改善に寄与する」ことを目的としており、公営水道が安定して高品質な水を供給することの重要性を強調している。
日本水道協会が二〇〇九年三月に出した「水道の安全保障に関する検討会」報告書でも、「水道は極めて公共財的性格が強い」としたうえで、①水は代替物が無く、食糧、エネルギーと並び、国家の安全保障にとって極めて重要なものである、②水道は国民の健康を維持し、公衆衛生の根幹を成すものである、③水道は国民生活、経済産業活動に不可欠なライフラインである、④水道は地域独占企業であり、他の企業に委ねることが出来ない、としている。同報告書では、これに基づき、水道事業の経営権、財産権を公が保持し、最終的な責任を公が負う形態を今後も維持すべきだと結論付けている。
しかし、二〇一八年に成立した改正水道法は、この報告書の立場から大きく離れるものとなった。この法律により、水道事業の運営を民間に委託する「コンセッション方式」導入の動きが加速しており、政府は、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和五年改定版)」を策定し、「ウォーターPPP」として水道百件、工業用水道二十五件、下水道百件の合計二百二十五件についてコンセッション方式に段階的に移行することを目指している。加えて、今年度からは、厚生労働省が担ってきた水道行政が国土交通省に移管され、上下水道が一元化されることも、この施策の強い後押しとなっている。
民間企業の事業目的で優先されるものは利益であり、公益性の観点から見るなら利益バランス・採算性重視と引き換えに水道料金の高騰や水質の低下、災害対応上の懸念、財務管理の透明性確保の困難さなど、様々な問題を生じさせる可能性がある。このため、水道事業民間委託には、国民の不安の声が非常に強い。特に、宮城県では、民間共同出資による水道事業体「みずむすびマネジメントみやぎ」が水道事業運営権を獲得したが、この中にはフランスのヴェオリア・ジェネッツ社(以下「ヴェオリア社」という。)が議決権の過半数を持つなど、いわゆる「水メジャー」と呼ばれる外国企業が参入し、水道事業の支配権を掌中に収める状況が現実に出てきている。県は、民営化により三百三十七億円のコスト削減が可能で、低価格の水道供給につながるとしている。しかし、水量や水質に問題が発生した場合や不可抗力が生じた場合には県が増加費用を負担することが契約書に明記されており、事実上事業者主導で協議が行われることを懸念する声もある。
こうした状況が全国的に広がれば、運営が外資の意向に左右されかねないことから、国民の不安は、一層増大するであろう。
一方、フランス、イギリス、ドイツでは、水道利用料金の上昇や水質の低下など、民営化に伴う問題が顕在化しており、これらの国々では公営化への再転換を図る動きが見られる。特にイギリスでは、民営化された水道会社が経営に苦しんでおり、大雨時に未処理の下水を川に直接排出するケースが増えた結果、川の汚染が深刻化し、公衆衛生に対する懸念が高まっていることが報道されている。さらに、水道にかかわるPFI(民間資金と経営力を活用する公共事業)についても、会計検査院や下院による検証が行われ、その結果、財政節約の積極的な効果が認められず、PFIが水道サービスの質と効率性の向上に寄与していないとの見解が示されている。
これらの国際事例は、民営化が必ずしも公共サービスの改善に繋がらず、求められる質の確保について問題があることを示している。
水道事業は国家の経済的安全保障にとっても極めて重要なものである。しかしながら、近年の国際情勢や国民負担率の上昇、再エネ賦課金による電気料金の上昇、物価の高騰が国民を疲弊させている状況にある。さらに、地震や台風などの自然災害も頻発する状況に鑑みれば、水道事業の民営化はリスクを伴う。水道事業に関しては、国家の経済的安全保障と国民生活の維持を最優先に考え、従来通りの公営が望ましいと考える。
以上を踏まえ、質問する。
一
水道は国民生活に不可欠なライフラインであり、国家の安全保障にとっても重要であるのに、「コンセッション方式」による水道事業の民間委託を導入するメリットはどこにあるのか。また、想定されるデメリットは何で、それをどう担保する考え方を持っているのか。特に供給価格の安定、水質の保全、確実な給水体制の確保や災害対応など国民へのサービス提供に係るあらゆる面についての影響を明らかにされたい。
二
宮城県での事例のように民間委託された水道事業における外資系企業が過半数の議決権を持つことによるリスク、経済安全保障上の観点からの得失について、政府はどう考えるか。また、現在、外資系企業が水道事業に参入している自治体について、政府は全て把握しているか、具体的な自治体名を示されたい。
三
二〇一八年の国会審議において、ヴェオリア社の日本法人から内閣府への社員の出向の事実が指摘された。また、官房長官補佐官がフランスへの出張時に、ヴェオリア社の副社長と食事をし、同じく水メジャーであるスエズ・エンバイロメント社から、移動用の車を提供されたりするなど、利益供与の疑念が指摘されていた。後に宮城県のコンセッション方式において、ヴェオリア社が支配株主となっている状況下で、このような疑念は重大であり、こうした官民癒着と見られかねない状況を政府はどう評価しているのか。
四
政府は、外資系企業の水道事業へ参加することによる国民の水へのアクセス、水質保持、そして料金設定の上でマイナスとなる影響を及ぼす可能性を考えていないのか。フランス、イギリス、ドイツの民営化では結局、利用料金の上昇や水質の低下が指摘されたことから、公営に戻る方向を進めつつあるところ、こうした国の企業が日本の水道事業に参画し、なかんずく支配株主になる状況は国民の利益の観点で決して望ましくないと思うのが普通のはずだが、政府はそれでも問題ないとするのか。
五
イギリスの研究機関PSIRU(Public Services International Research Unit)の報告によると、二〇〇〇年から二〇一五年の間に世界で水道の再公営化が加速し、その理由として、水道料金の高騰、民間企業による財務透明性の欠如、人員削減による水質やサービスの質の低下などの問題が指摘されている。政府は、英国等での経験に照らして、我が国ではこのような問題が生じないようにする対策を検討する考えはあるのか。
六
水道を含む公共事業の民営化には様々な課題があり、談合排除や高水準の水質の確保のための最低価格落札方式だけでは不十分という指摘があるが、政府はどう考えるか。
右質問する。