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2024.06.02

【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について

令和6年5月30日、神谷宗幣 参議院議員が
財政金融委員会で国会質疑を行いました。
 

今回は、
「事業性融資の推進等に関する法律案」
についての参考人質疑でした。
 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

本法律案では、
「事業者が、不動産担保や経営者保証等によらず、
 事業の実態や将来性に着目した融資を受けやすくなるよう」、
次のように「企業価値担保権」が定められています。
 

・有形資産に乏しいスタートアップや、
 経営者保証により事業承継や
 思い切った事業展開を躊躇している事業者等の
 資金調達を円滑化するため、
 無形資産を含む事業全体を担保とする制度
 (企業価値担保権)を創設する。
 

・企業価値担保権を活用する場合、
 債務者の粉飾等の例外を除き、経営者保証の利用を制限する。
 

・企業価値担保権の設定に伴う権利義務に関する適切な理解や
 取引先等の一般債権者保護等、担保権の適切な活用を確保するため、
 新たに創設する信託業の免許を受けた者を担保権者とする。
 

・担保権実行時には、企業価値を損うことがないよう、
 事業継続に不可欠な費用(商取引債権・労働債権等)について
 優先的に弁済し、事業譲渡の対価を融資の返済に充てる。

(引用:金融庁HP 「第213回国会における金融庁関連法律案」 事業性融資の推進等に関する法律案

 
 

参考人は、
井上聡 弁護士(長島・大野・常松法律事務所)と
竹村和也 弁護士(日本労働弁護団事務局長)でした。
 
 

動画はコチラから視聴できます。
https://youtu.be/zBFJPTeWWz4

 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

金利、外国人投資家による買収… リスクは?

神谷議員は、
「少し見通しがあれば、それによって
 リスクの高さなども予想ができるので、
 先生の個人の考えで良いので教えて下さい」
と、井上聡 弁護士に質問を始めました。
 

貸し手には制限がない事に関連し、どういった方が貸し手になるのか?
貸付けを行われる時の金利は、どのくらいになりそうなのか?
 
 

井上氏は、「予想が難しい」としながらも、
想定される貸し手を次のように挙げました。
 

地域の成長企業に貸す地域金融機関や、
東京の成長企業に貸す大手の金融機関。
プロジェクトファイナンスやLBOなどに使われるとすれば、
大規模な金融機関。
比較的早い段階の成長企業に貸す貸金業者であるファンドが、
ベンチャーデットを供給する形で利用が進むことも期待される。

※プロジェクトファイナンスとは、
 対象とするプロジェクト・事業から生じる
 キャッシュフローを返済の原資にする手法。
 (参考:日本政策投資銀行HP「ストレクチャードファイナンス」
※LBO(Leveraged Buyout、レバレッジド・バイアウト)とは、
 買収する事業から生じる資産等を担保に借り入れし、
 その借入金を活用して買収する手法。
 (参考:日本政策投資銀行HP 「LBO/MBO」
※ベンチャーデット(Venture Debt)とは、新株予約権付融資のこと。
 (新活予約権とは、株式を前もって
  決められた金額で取得できる権利のこと)
 有形固定資産や無形固定資産を持たない
 スタートアップやベンチャーにとって有効な資金調達手段といえる。
 (参考:東大IPCホームページ「ベンチャーデットとは?特徴や必要とされる背景、注意点を解説」

 

そして、金利については、
「何とも分かりませんが…」と前置きし、
ある程度リスクに応じた金利が取れる
という世界にならないとWin-Winの関係を築けないため、
金利が今後ある程度上がっていく事になる
と見通しを述べました。

 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

つづけて神谷議員が、井上氏の
「スタートアップにはまだ向かないんじゃないか?」
という趣旨の発言について確認すると、
井上氏は次のように答えました。
 

まず最初、
レイターステージのスタートアップをどこまで広げていけるかは
実務の工夫、借りる側のスキルの向上次第である。

※レイターステージ(Later Stage)とは、
 スタートアップにおける成長ステージの最終段階に位置し、
 事業が軌道に乗って安定的な成長や収益化を実現している状態。
 (参考:東大IPCホームページ「レイターステージとは?スタートアップの成長ステージ、資金調達を解説」

 

ワラントという形で新株引受権のようなものを組み合わせることで、
金利とは別にアップサイド(成長の余地・事業の伸びしろ)を
取ることが出来れば、
リスクの高いアーリーステージのスタートアップにも
利用されていく可能性はある。

※ワラントとは、新株予約権証券のこと。
 発行会社の株式を、期間内であれば、一定の価格で取得できる。
 (参考:日本取引所グループHP 「用語集‐新株予約権証券(ワラント)」
※アーリーステージ(Early Stage)とは、
 スタートアップにおける成長ステージの起業前後の段階に位置し、
 事業を開始したものの軌道に乗るまでの間は
 赤字を計上するスタートアップが少なくないため、
 追加の資金調達が必要。
 (参考:東大IPCホームページ「アーリーステージとは?スタートアップの成長ステージ、資金調達を解説」

 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

次に神谷議員は、資料にある下記の記述について、
「高校生ぐらいが聞いても分かるように」と、
一般の方が分かりやすい説明を求めました。
 

(記述)
「プロジェクトファイナンスや事業継承ないし
M&Aに伴うアクイジョン・ファイナンス(買収)など、
新設会社を借主として全資産担保に近い形で
現在すでに行われているシンジケート・ローンなどにおいては、
現在の実務の延長線上でこれを使うことができる場面が
比較的あるのではないか?」
 
 

井上氏の説明はこうです。
 

一般的な事業会社がお金を借りる時は、全資産担保ではなく、
”抵当権をつけてA銀行、別の動産担保をつけてB銀行”
というパターンが多い。
現時点ですでに行われている全資産担保融資として、
プロジェクトファイナンスあるいはLBOファイナンスがある。
 

プロジェクトファイナンスでは新たに会社を作って、
一部プロジェクトだけを動かすその会社にお金を貸す時、
持っているもの全てに担保をつけて融資をする
ということが行われる。
また買収の時、新たに買収専用の会社を作って、
その会社にお金を貸しそのお金で事業や株を買う
といった形で使われる場合、
他の事業や従業員を考慮しなくても良いので、
もっぱら全資産を担保にして融資するということが行われる。
 

こういったタイプのものは、
全資産担保といっても個別にベタベタと積み上げていく。
そうなると、実際に担保権を実行すると
バラバラに切り売りをする形になって、
一括して事業として譲渡できない。
(担保権を実行するということは滅多に起こらないが)
 

全資産担保をとって企業価値をつかまえているつもりが、
実は ”のれん” に相当する企業価値はとれていない担保になる。
それよりはこの制度を利用することで、
より大きな価値をつかまえて貸せる金額を増やす
といったことに使われるのではないか?
 

「…という観点で議論されているのだと思います」

 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

神谷議員はこの説明を受け、
「この制度はそういう風に
 使い勝手が良いものにもなっているという事が分かる」
と述べ、質問を続けました。
 

「悪用しないように
 信託会社をかませているという形になるんですけども、
 信託会社とお金を貸す側が結託するという事はないでしょうか?」
と、チェックが働かないケースがあり得ないかを問いました。
 
 

井上氏は回答しました。
 

信託の受託者と貸付け人が同一であっても良いという制度になっており、
その人自身が悪い人だとすると信託による歯止めは効かない。
 

ただ、同一になるという事は、逆に言えば
貸付け人が信託免許を持っているという事になり、
信託会社・信託銀行・銀行自身が簡易な免許を取っているため、
金融監督が十分に効く範囲で同一になるということ。
そういう意味では、結託しようがしまいが、
少なくとも受託者に対するコントロールは効く
という点で一定の意味はある。
 
 

神谷議員は、視点を変えて質問を投げかけました。
 

日本には長寿企業が世界一多く100年企業もたくさんあるが、
外国人投資家がそういった企業ブランドを欲っして
買収のためにこの制度を使うというリスクは考えられるか?
 
 

井上氏は答えました。
 

それがまさに乗っ取り目的という悪用で、
別の言い方をすれば、融資者という立場で強引なことをすれば、
現時点でも起こり得るリスクである。
 

その点では、
この制度の利用に際して担保権を実行しようとすると、
担保権者である信託会社のみならず、
実行管財人が別途出て裁判所の監督下に事業譲渡が行われるので、
乗っ取りをするというのはむしろ考えにくく、
危険が増すということはない。

 
【国会 5/30】事業性融資の推進等に関する法律案について
 

事業譲渡による労働者への不利益は?

次に神谷議員は、竹村和也 弁護士へ質問を始めました。
 

労働者の保護を考える立場として、
過去に事業譲渡などが起こって労働者が不利益を被った
事例があるか尋ねました。
 
 

竹村氏は回答しました。
 

多数に上る中で最たるものは、 ”取り残されてしまう労働者”。
 

平時であればそれほど問題にならないことも多いが、
経営局面が悪化してる時には、場合によっては
破産精算局面に行ってそのまま解雇、職を失うということになる。
そういう事例は多数ある。
乱用的な事例だと、
労働組合を敵視してその労働組合員だけを排除してしまう
不当労働行為的なケースもある。
 

事業譲渡時に移ることまでは認めるものの、
労働条件を悪化させるスキームを用いられることも多くある。
そういう時、労働者としては受け入れざるを得ず、
労働条件が低下してしまう。
 
 

神谷議員は、次のように見解を示し、
竹村氏の意見を求めました。
 

この制度を使って、
借りた方も事業が上手く回り貸した方も利益が取れる
というWin-Winで関係者みんなが良い状態になるには、
やはり事業をしっかりと継続させていくことが大事。
 

井上氏との質疑では
「あえてそんな面倒くさい事はやらないでしょ」
といった話があったが、
企業買収時にさらに労働者の権利も強ければさらに手間がかかるので、
「それだったら違う方法でやろう」
となって歯止めになるんじゃないか?
 

「労働者の権利を強くする方策として、
 『この制度設計を自由にやって良いよ』と言われたら
 『こういう制度は入れておく』というのがあれば、
 最後にお聞かせ下さい」
 
 

竹村氏は、「夢のようなご質問」だと笑顔をみせて回答しました。
 

1点目は、労働組合からの意見聴取であったり、
情報提供・協議というのを各場面において充実させる事。
2点目は、事業譲渡の局面において、換価時の局面において、
主として働いている労働者がしっかり承継されるルールを設計する事。
 

「この制度に限らず幅広く一般的に、
 是非、規定して頂きたいなという風に思っています」
 
 

神谷議員は竹村氏の意見を聴き、
「この制度だけじゃなくて、他の制度も広く捉えて制度の改善が必要」
だとし、新たな学びが得られた有意義な質疑であった
と締めくくりました。

 
 
詳細は動画をご視聴下さい。

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