今国会において、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が一部改正されました。
参政党では、本法案の賛否を検討するにあたり、党員とサポーターの建設業従事者及び関係者向けに労働環境改善の実態などを把握するためのアンケートを実施し、全国123名(うち建設業現職者84名)から回答を得ました。特に、資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止については賛同する意見が多くありました。その他、様々な視点から総合的に判断し、党として法案に賛成の立場を取りました。
寄せられた回答では示唆に富む意見が多かったことから、結果を公表します。
アンケート結果の概要
●回答者について
現職で建設業に従事している回答者の男女比は9:1で、回答者の7割が40代と50代でした。
●処遇についての現状を尋ねたところ、次のような回答がありました。
給与については、それなりに収入がある、地方であるが周りの水準よりも高収入であるから満足しているという意見の一方で、物価高と税金が多い、元請企業のピンハネ率が高い、労働に見合った対価が支払われない、インボイス制度によって収入が低下したという意見もありました。
また、下記のような問題点も指摘されました。
■業界内の問題点
逆オークションでの単価下げ
ピンハネ率の高さ
大企業が黒字を続けるために下請け企業が犠牲になっている
他業種に比べ経費が大きく、損害も大きい
■競争および業界の発展に関連する問題点
過度な競争が請負代金に影響
デフレの影響で給与が上がらない
経営状態の不安定さ
■労働条件と負担
残業しないと生活できない
サービス残業と過度なプレッシャー
残業時間の規制により、会社に隠れて休日に仕事をしなければならないことがある
希望する者には残業の制約を設けないでほしい。法的な労働条件と現実が合っておらず、守れる状態にない。無理な工期が常態化している
もっと良い仕事がしたいのに残業ができない
3K(きつい、汚い、危険)の業種で若者に人気がない
高い離職率と根本的な解決策の不足
労働災害の罹患
冬に仕事が激減する
将来に不安があるため転職を考えている
●処遇改善に関する意見には、下記のような回答がありました。
現場の労働環境向上をしなければ、担い手が不足する
一人親方など技能を持った人材を潰さないようにしてほしい
職人が弟子を持てる環境にしないと建設業は危機である
専門職種の技術・技能労務の賃金が低すぎるので後継者が育たない
モノ作りへの偏見をなくし、誇りを持てる教育を行わなければ、若者の興味が湧かず、人手不足や活気の欠如が解消されない
建設労働者は悪いイメージが根強く、若者に選ばれず担い手不足。公共インフラは国防に直結し、災害対応にも必要。地位とイメージの改善が重要。
過剰な安全対策や講習会が多く、規則で縛っても事故は減らない。労働時間の厳格化で仕事に対する責任感が低下している
現場監督は、昼は現場、夕方から内業をするため、時間外労働の規制や週休二日制を歓迎する人は少ないのではないか
職人は天候に左右されるため、柔軟に働ける方が良い
●次に、資材価格の高騰が労務費に影響を与える場面があったかを尋ねたところ、全体の7割弱の人が「あり」「大いにあり」と回答しました。具体的には下記のような意見がありました。
資材高騰についての意見
資材費が1.6倍くらい上がった。
メーカー仕入金額の高騰。
輸入建築資材の高騰。
発注単価よりも納入単価の方が高い材料があった。
燃料費高騰がボディーブローとなっている。
ソフトウェアの価格が毎年10%も値上がりしている。
労務費と人件費の抑制に関する意見
資材費高騰のしわ寄せを労務費(給与)の抑制で抑えている。
労務費は資材費に比べUP率が低くなりがち。
資材費が上がっても見積価格への上乗せが難しい場面では、人件費を削らざるを得ない。
人数を掛けられなくなる場面が出てきた。
労務単価を確認しないと人も増えないし後継者が入ってこないため、人材育成もできない。
資材価格高騰により労務費が抑制され、過重労働やサービス残業の温床を作り上げる。
材料費と労務費は同時には価格をあげられない傾向がある。
現場の粗利と原価の影響に関する意見
現場の粗利が下がった。
原価に影響する。
建設会社も仕入先もギリギリのところでやっている。
コストカットが人件費に影響する。
利益が圧迫され仮設費を低減すべく内製で完結させることが増え、業務改善につながりにくい。
発注者・元請けの対応に関する意見
元請の資材高騰で資金のやり繰りが厳しいからと取引価格の値上げを断られた。
大手より赤字明確なコストで契約を強要される。
過去の単価にこだわる施主が多い。
リース会社や運送会社が値上げを要求してくる中、元請けには今まで通りの金額でやってもらいたいと懇願される。
工期と納期の影響に関する意見
資材が手に入らず工期が延びた。それに伴い建設機器のリースや道路使用許可の期間も延びて経費がかさんだ。
熊本に建設中の台湾の半導体工場を優先させるため、電源線などが枯渇して全国的に納品されない、もしくは材料の納品時期が今までよりも何倍かかかる。
見積もりと受注の影響に関する意見
今までの見積金額と比較されてしまい、工事内容が縮小される。
下請け業者の見積もりが予算取り時と発注時でかなり上がっていることが多い。
競争が激しく資材の値上がり分を売り上げに転嫁できない。
発注者は総額でしか判断しない。消費増税のときも同様であった。
公共工事と政府の対応に関する意見
公共工事は、物価の上昇にスライドして契約金額を上げれば良い。
公共事業に係る価格は、官庁が監督するかその分のコストを見るか、何らかの対策が必要。
国が定めたインフレスライドは非常に難解で行政側も理解できていないと感じる場面がある。わかりにくい制度を解消してほしい。
公共事業ではインフレスライド等の対策は取られている。
資材供給の問題に関する意見
特に電源線が枯渇しており、納品時期が不確定のため、希望の納期に間に合わない。
トンネル設備機材を扱っているが、部品の価格は上昇し納期も大きく伸びている。
価格は高止まり状態。着工しにくい状態。また資材によっては手に入りにくいもの(電線等)があるようである。
高騰に便乗して値上げをしている分野もあると聞く。
政策提言と政府の対応に関する意見
円安の影響が強いと思う。政府はもっと考えるべき。
消費税の廃止などで物価高騰の影響を抑える必要がある。
政府が補助金を出す、あるいは減税が必要。
賃金上昇によるコストアップインフレにすべき。
国民に直接給付という形で金の流通量を徐々に増やす事が求められる。
●ダンピング行為の実態について尋ねたところ、5割弱の人が「大いに悪影響」「悪影響」と答えました。また、下記のような意見がありました。
ダンピング行為の現状に関する意見
相見積もりを必ず取る風潮が、ダンピングを加速させている。
発注者の言いなりとなっているが、元請けとしては、仕事がなくなっては死活問題のためなかなか交渉出来ない。
ダンピングは市場原理なので、ある程度は仕方ないと思う。
民間工事でダンピング行為を排除するのは難しいのでは。
安くやれば安全面にも影響が出るし事故も増えて余計建設業は人材不足になる。
元請け・下請けに関する意見
元請企業の安ければそれでよい、という営業利益至上主義は改めるべき。
元請の立場が強い為、どうしても金額が安いところを使おうとする。
元請けが受注した仕事を実際に行うのは3次、4次下請けの場合が多い。
契約書は形式的には問題ないが、実際には元請けが作成した契約書に下請けが署名するだけで、最初の見積条件は反映されていない。
その他の意見
買い叩きに繋がると思うので、やめてほしい。
仕事を取りたいがために安い単価にして価値を下げていくだけであるから絶対やらないほうがいい。
ダンピング行為はないが、公共団体積算の経費率が低すぎる。
規模の大きい同業者が安値で見積りをしている。
現状はダンピングができる程の労力が各社ないのでは。
繁忙期は職人の奪い合いになるが、閑散期は仕事がない。重要なのは年間を通して一定の仕事量を確保することであり、年度末の工事集中を改善すべき。
●ICTの活用や現場管理の効率化に関する取り組みについて尋ねたところ、導入すべきとする意見が半数でした
ICTと技術革新
ICTは点検業務では有効かもしれないが、新規の工事では役に立たない。
3Dプリンターで家を作る時代になる。
AI技術の活用が必要だが、管理できるか疑問。
不要な安全対策や書類の増加で作業に支障がある。
現場監督や企業が現場にいる時間が減り、コミュニケーションが取れない。
ICT活用や現場管理の効率化は必要だが、実際には導入の難しさがある。
現在の建設業においてのICT化は急速に普及しているが、これを使えるのは一部の大手企業に限られている。
ICTを取り入れても、現場に監督がいないと効率が悪くなる。
作業のロボット化や省人化を目指し、職人もいろんな業種の工事を多能化してできるようにするべき。
また、次のような意見がありました。
●建設業界全般について次のような意見がありました
1. 労働環境と休暇制度
日本全体で、GWや盆正月に休みが集中するのではなく、できる範囲で自由に休みが取れるようにするべき。
休みを増やしただけで業界は良くならないし、中小、零細企業はやっていけなくなる。
休みたくない職人もいるため、働き方改革に柔軟性を持つべき。
働き方改革や業務改善は名ばかり。大手は書類上では労働条件を守っているように見せかけているが、下請けはサービス残業や無給の休日出勤が当たり前になっている。
肉体的には楽だが、残業代がないので生活は厳しい。
働き方改革で残業時間を厳しく管理されているので、残業がしづらい。
働き方改革をすることにより生産性が向上するとは思えない。
働き方改革はやめてほしい。日本の職人的な働き方には合っておらず、間違った方向に進んでいる。
働き方改革にもっと自由を取り入れてほしい。残業はダメで副業はOKという矛盾に気付いてほしい。
2. 労働環境と待遇の問題
建設業は技術者を特に必要とする業種なのに、待遇が他業種より圧倒的に悪い。
賃金を上げることも必要だが、技術者に対する社会的評価が低いことが最も深刻な問題。
建設業界の労働環境が厳しく、若者が敬遠している。
技術者に対する社会的評価が低いことが問題。
日本は災害が多い国なので、震災復旧に建設業は欠かせない。能登の復興が進まない原因の一つは労働者不足。国を守るためにも改善が必要。
3. 若者と高齢化
建設業は高齢化が進んでいて若者が少ない。
若い人が働きたいと思えるような改革が必要。
若い世代が誇りを持てるような社会構造に問題がある。
学校教育の中で、職業に貴賤はないことを徹底して教えるべき。
全体的に若い職人が育っていないので、10年後に職人がいなくなるのではないか。
インフラ整備は国防の一環だが、技術継承が進まず、優秀な技能が失われつつある。若者の参入は少ない。自国のインフラ整備は自国民で確保するため、労働環境や条件の改善が必要。
4. 大企業と中小企業の関係
大企業の利益を守るために、中小企業が犠牲になるようなことは避けるべき。
スーパーゼネコンから特許をすべてよこせと言われた。
大企業が独占する時代が近い。
元請けが圧倒的に強く価格交渉が難しい。
中間業者が見積もりの20%〜30%の上前をはねるため、下請けに手抜きが発生しやすい環境にある。
企業の利益目標が最優先され、ハウスメーカー、工務店、職人が分断されているため、一体感がなく、顧客に申し訳ないと感じる。
5. 資金と補助金
緊縮財政をやめない限り、法改正などしても意味がない。
建設業界の補助金申請が非常にややこしい。
地域再開発の予算が不足している地方自治体に対して積極的に税金を投入し、自治体に有益な公共事業や地域再開発を立案・実施させるべき。
空き家対策で民間事業へ補助金を拡大し、地元業者に発注を限るなどして地域経済を守るべき。
公共事業に使われる税金は国内経済を活性化するが、再生可能エネルギー事業では税金が海外に流出するため、何らかの規制が必要。地域の公共投資や将来の社会インフラ整備に重点を置くべき。
大きな災害に備えて耐震補強や老朽化補強が必要なコンクリート構造物が多数ある。インフラの保守管理は欠かせない。政治家には長期的視野で国家の未来を考えてほしい。
6. 法律と規制
法律化するより自由競争。
談合で議員に金が流れるのは言語道断だが、談合は必要悪だったのではないか。競争が平等という発想の中で、良いモノづくりが失われたように思う。
インボイス制度が中小企業にとって無茶な話。
昔なら当たり前のように残材を焼却出来たが今は環境にどうのこうのと言われて燃やせない。
外国人労働者を雇うなら、専用の社会保障を設け、受け入れ企業が最後まで責任を果たし、雇用終了時には帰国させるべき。日本の建築技術は世界に誇れるものであり、この技術を日本人に継承することが理想。
公共団体発注の工事は提出書類が多すぎるため、特に小規模工事では減らしてほしい。施工計画書は共通仕様書に従うため不必要ではないか。安全書類も簡素化してほしい。
監理技術者にはフリーランスも活用すべき。ルール改正が必要で、現状では大企業でないと大型案件を受注できない。仕組みの多くに無駄があり、エッセンシャルワーカーや末端業者にしわ寄せがきている。
総まとめ
今回のアンケート結果から、建設業界における多岐にわたる課題が明らかになりました。以下にその主なポイントを整理します。
まず、労働環境と待遇の改善が急務であることが浮き彫りになりました。柔軟な働き方改革や実質的な待遇改善を求める声が多く、技術者の社会的評価や待遇の向上が必要です。特に、若者の参入促進と震災復旧における労働者不足が重要な課題となっています。
次に、大企業と中小企業の関係について、中小企業が大企業のために犠牲になる現状を改善する必要があります。価格交渉の困難さや中間業者の影響を解消する対策が求められています。
また、技術革新とICTの活用に対する期待と懸念が示されました。ICTやAI技術の導入が求められる一方で、慎重な対応が必要です。
さらに、資金と補助金に関する問題も指摘されました。緊縮財政の問題点が建設業界においても浮き彫りとなり、また補助金申請の難しさに対する批判も多く、地方自治体や地域経済への積極的な支援が求められています。
現在まで脈々と受け継がれてきた高い技術力を更に発展させて未来に伝承していくことは、国土の強靭化など日本の国益にも直結します。これらの問題に対して党として引き続き取り組み、建設業界全体の発展と持続可能な労働環境の実現を目指してまいります。皆様のご協力に感謝申し上げます。