2024.10.06
電気自動車は本当に環境にやさしいのか|森島こうすけ
愛知県刈谷市議会議員の森島こうすけです。
私の住む刈谷市には、最先端の技術力を持つトヨタグループの本社が6社あり、市の基幹産業となっています。今回は、環境にやさしく経済的だと誤解されがちな電気自動車について考えると、必ずしもそのように言い切れないのではないか、という私の考えを4つの視点から申し上げます。
電気自動車には様々な問題があるのですが、今回は最もわかりやすい例を一つ挙げます。電気自動車の評価指標としてLCA(ライフサイクルアセスメント)があります。LCAは、「製品の製造から廃車まで、全てのプロセスを通じて環境影響を定量評価する」と説明があります。
このように環境配慮について保証する指標のはずですが、実は、ここに仕掛けがあるように思います。製造から廃車までをチェックしているため、まるで「ゆりかごから墓場まで」とでも言われているような錯覚を起こします。しかし、この指標は、電気自動車を製造するための資源を調達する過程で破壊される環境や生態系が全く考慮されていないのです。
電気自動車のバッテリー製造に欠かせないニッケルを例に説明します。結論から申し上げると、ニッケル鉱山での採掘は、熱帯雨林や生態系を根こそぎ消滅させた上に、大量の二酸化炭素を排出します。インドネシアのスラウェシ島南東部では、世界のニッケル生産の30%を占める採掘が行われています。ニッケル鉱山は森林伐採だけでなく、土壌も地層も全て破壊します。さらにニッケル採掘は年間約8,000万トンの二酸化炭素を排出します。これは、日本全体の自家用自動車が年間で排出する二酸化炭素量と同等です。
電気自動車製造の資源を調達する段階で既にこれほどの二酸化炭素を排出しているわけです。二酸化炭素を吸収し酸素を排出することで「地球の肺」とも言われる熱帯雨林を消滅させた上に、そこに根差す生物多様性も失われるのですから、ここに多角的に重大な問題があることは疑いえません。
このように考えると、電気自動車が環境に良いのかわからなくなってきますね。すでに世界中で確立されている内燃機関の自動車製造に加えて、「環境にやさしいから」という理由で電気自動車を開発する理由は、見つけられそうにありません。
バッテリー資源を豊富に持っている国の偏りもスポットライトを当てておきたい視点です。バッテリー資源国は、チリ、アルゼンチン、ボリビア、アメリカ、中国、オーストラリア、インドといわれています。特にリチウム資源に注目してみると、その30%を中国が持っています。
また、中国はバッテリー材料の重量ベースで最も多くを占める黒鉛にも強いです。中国は、精製黒鉛の一種であるコーティングのない高純度の球状化黒鉛のシェアが100%です。電気自動車の価格の40%はバッテリー代と言われています。国で電気自動車を優遇し支援し続けるのは、国民の税金を海外に送っているにも等しい行為と言えそうです。
こういった視点で見ると、電気自動車が、どこの国にとって「経済的(に有意)」なのかわからなくなります。
2023年8月の帝国データバンクの調査によると、自動車関連企業のうち電気自動車の普及が業績にマイナスの影響があると答えたのは、49.2%、約半数です。日本自動車工業会の調べによると自動車産業関連就業人口は554万人であるとされ、これは日本全体の就業人口の1割に相当する数です。
1886年に創業した世界最古の経営戦略コンサルティング企業のアーサーDリトルによると、このまま電気自動車を推し進めると、国内部品メーカーの約300万人の就業者の内、30万人の雇用が失われる見込みだそうです。
世界で内燃機関を設計・製造できるのは、日本とアメリカとドイツだけと言われています。
そういった自国の強みを活かす方向への舵取りが「日本の国益を守る」ことに繋がるのではないでしょうか。
国内自動車産業最大手のトヨタは、カーボンニュートラルを達成するために、マルチパスウェイという方針(全方位戦略)を掲げています。世界でこれだけエネルギー環境が違うのだからカーボンニュートラルはワンソリューションで解決できる問題ではない、だからこそ選択肢に幅を持たせ、可能性を探りながら解決をしていくという方針です。
この考え方は、自然環境や生物多様性を包括的に捉える本質的な意味でのカーボンニュートラルの考えとも潜在的に共通していると思います。カーボンニュートラルの是非についてはここで申し上げませんが、現在行うべきは技術の選択肢を増やすことである点には賛成です。
今回は、電気自動車について申し上げましたが、より本質的なテーマは、「どのように自然と共生していくか」という観点だと思います。そのための新しい道を探ることが現在求められているのではないでしょうか。個人的には、世界一の100万都市でありながら見事に自然との共生を果たしていた江戸時代の価値観にそのヒントがあるように思われます。
これからの時代は、確かに国や企業の様々な取組やそれに伴う新技術の導入が必要でしょうが、それ以上に人々の価値観の転換が必要不可欠と考えます。資金力のある多国籍企業が資本を右や左に動かして行う政治よりも、私たち国民の気づきや価値観の見直しによって行われる政治が、豊かな暮らしの契機になると信じています。
「現代や近未来の社会において自然と共生する方法とは」こういったテーマでも、議論を深める必要がありそうです。
地元産業と手を取り合って、刈谷市の未来や日本の未来を描いていきたいと思います。
最後までご覧くださり、ありがとうございました。
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森島 こうすけ
Morishima Kosuke
所属議会
刈谷市議会議員(愛知県)
経歴
京都大学大学院 人間・環境学研究科 修了
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