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2024.11.23

新しい公立学校の制度、「義務教育学校」は今後の教育制度の柱になるのか?|えびさわ 征剛

私の住む三鷹市では、現在、「義務教育学校」の設置に関する政策が進められています。
これは、平成27年に学校教育法の一部が改正された後に設置が可能になった新しい学校の在り方で、多くの現場の教職員もあまり馴染みのない制度であり、初めて聞いたという方が多いと思います。
 
三鷹市では、長い間、小中一貫教育に取り組んできた経緯があり、その発展した形として進めようとしていますが、私の教職員としての経験や現場視察を通して感じたことは、よい側面があるものの、一方で、現状の学校が直面している教育的な課題や教職員の職場環境が改善されるとは思えない制度でした。
新しい公立学校の制度、「義務教育学校」は今後の教育制度の柱になるのか?|えびさわ 征剛

義務教育学校とは?

簡単に説明すると、小学校から中学校までの9年間の教育課程を編成し、学校長は1人で、小中学校合わせた教職員が組織された施設一体型の学校です。

 

法改正の背景については、中央教育審議会からの「子ども達の発達や意欲、能力に応じた柔軟で効果的な教育システムの構築」が提言されたことから始まりです。
さらに遡ると、平成12年頃から小中一貫教育(小学校と中学校の施設は別)の研究・実践が始まり、広島の呉市の取組を始まりとして、東京の品川区や三鷹市においても制度が作られてきました。

 

そして、平成27年の学校教育法の一部改正によって、小中一貫教育を実施する新たな義務教育学校の制度が創設され、学校制度の多様化・弾力化を進めることが可能になりました。

 

※小中一貫教育とは、9年間を見越した教育課程の編成、中一ギャップの解消、学力向上などを目指して導入された考え方です。

 

新しい公立学校の制度、「義務教育学校」は今後の教育制度の柱になるのか?|えびさわ 征剛

義務教育学校のメリットとデメリット

(メリット)

・9年間の教育課程を編成することができ、新たな教科を新設することも可能。

 

・施設一体型により環境の変化が最小限に抑えられることによる「中一ギャップの解消、緩和」が期待できる。

 

・多様な年代との交流が可能になり、異学年交流の充実が図ることができる。

 

・児童・生徒に関する情報や学習状況の共有化が図れるとともに、中学校教諭の専門性を活かした指導も可能になる。

 

(デメリット)

・9年間、人の入れ替わりがない制度のため人間関係が固定化してしまう。

 

・6年生での区切りが無いため、学校行事などをリードしてリーダーとしての自覚や責任感を養える機会が無くなる。

 

・義務教育学校でも小学校の学習課程の終了という区切りはあるものの、卒業という達成感や新たな世界へ進むという気持ちの切り替えをする機会が無くなる。

 

・学校長が一人になることによって、現場の教職員のサポートが手薄になるだけでなく、学校規模が大きくなることにより児童・生徒へ接する機会も減少する。

※私の経験では、学校長のサポートのおかげで多くの困難を乗り越えることができたので、学校長が一人というのは大きなデメリットではないかと思います。

 

このようにメリット・デメリットの双方ある義務教育学校ですが、政府統計ポータルサイトのe-Statの学校基本調査(文部科学省)によると、令和5年度時点で小中一貫教育を行っている学校は900校以上、義務教育学校も230校を超え、徐々に広まっている現状があります。
 

義務教育学校の実情

先日、「義務教育学校」の施設見学をさせていただき、実情について伺うことができました。
 
既存の公立学校と比べて義務教育学校の一番のメリットをお伺いしたところ、異学年交流が充実していることが最大のメリットだそうです。交流スペースも充実していて、異学年での関わり合いや行事などに力を入れているようでした。ただ、異学年交流がもたらす成果については客観的に評価することは難しいとのことでした。
 
基本的には学習指導要領の大筋から外れることはなく、教科ごとの系統性を明確に分かりやすく示した内容になっているということですので、この辺りは小中一貫教育(施設分離型)でも実践することは可能です。
 
また、デメリットで指摘されているリーダーシップや責任感を養う取り組みとして、独自の学年の区切り(4・3・2)を設け、行事などでの活躍の場を創出するなどの工夫をされているとのことです。これらの取組は、義務教育学校ならではの特徴です。
 
それから、小中一貫教育や義務教育学校ならではの取組で、中学校の教員が専門性を活かして小学生の指導にあたる、いわゆる「乗り入れ」という制度についてです。専門的な指導を受けられるという側面もありますが、実際には教職員の負担増は否めないと、正直にデメリットについても言及されていました。
 
施設についてですが、小中一体型のため校庭が一つしかないことで、休み時間の外遊びの制限がかかってしまうという現実もあるそうです。
 
最後に不登校の現状について伺ったところ、必ずしも人数が少ないとは言えないようです。現状では、登校することを是とするわけではないですが、義務教育学校でも通常の公立学校と同様の課題を抱えているということが分かりました。
新しい公立学校の制度、「義務教育学校」は今後の教育制度の柱になるのか?|えびさわ 征剛

終わりに

今回、お伺いした校長先生は現状をありのままに答えて下さいました。義務教育学校だからといってすべてが良いわけではなく、学校の特色を活かして教育活動を進めていくことが大事であるとおっしゃっていました。
今回は義務教育学校の制度の在り方を中心にまとめてきたので、あまり触れませんでしたが、学校の特色を生かした地域と連携した取組など、様々な素晴らしい実践をしている面もありました。
 
そもそもの小学校と中学校の歴史を振り返ってみると、中学校は戦後に教育基本法や学校教育法が制定された後にできました。
文部科学省の義務教育に関する提言では、発達段階に応じた教育内容が以下のように示されています
小学校では「社会生活を営むために資質や能力を身につける」
中学校では「社会的自立のために資質や能力の育成を図る」
 
このことから、小学校・中学校にはそれぞれ異なる発達段階に応じた目標があり、それぞれの段階に合わせた教育内容を充実させていくことが重要です。
制度改革も大切ですが、より本質的なのは教育の内容であり、それを実践する教職員の存在です。
 
目の前の子供たちとどう向き合うかという現場の課題に直接関わるのは教職員であり、彼らが能力を存分に発揮できる環境づくりが急務です。日本の教育の未来を見据えた時、現場で実践される教育の質を高めるためには、
「教職員の働く環境を整え、優れた人材を確保・育成していくこと」
が根本的な解決策となるのではないでしょうか。

 

えびさわ 征剛
Ebisawa Seigo
新しい公立学校の制度、「義務教育学校」は今後の教育制度の柱になるのか?|えびさわ 征剛
所属議会
三鷹市議会議員(東京都)
経歴
日本大学文理学部 体育学科 卒業 東京都公立小学校にて約15年勤務・退職

 
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