2024.11.28
我が国の薬物乱用実態とそれが国家安全保障に与える影響に対する認識に関する質問主意書
令和6年11月28日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『我が国の薬物乱用実態とそれが国家安全保障に与える影響に対する認識に関する質問主意書』
提出者 神谷宗幣
私が令和六年四月九日に提出した「我が国の薬物乱用実態とそれが国家安全保障に与える影響に対する認識に関する質問主意書」(第二百十三回国会質問第一〇四号)(以下「本件質問主意書」という。)に対する答弁書(内閣参質二一三第一〇四号)(以下「本件答弁書」という。)では、本件質問主意書の四問のうち、三問に関して、質問の「意味するところが必ずしも明らかではない」等との理由により、具体的な答弁が得られなかった。
政府は、国会法(昭和二十二年法律第七十九号)の趣旨に照らせば、転送された質問主意書に対して誠実に答弁することが求められている。本件質問主意書は、我が国における薬物乱用の深刻な状況や、海外の薬物犯罪組織が深く関与しているという警察庁組織犯罪対策部の見解を踏まえ、薬物犯罪組織の実態について政府の認識を確認し、その答弁を通じて広く国民に警鐘を鳴らすことを意図している。また、あへんや覚せい剤などが国家間の戦争や国際政治の道具として利用されてきた歴史を踏まえ、こうした薬物の危険性について政府の認識を問うものである。
しかしながら、このような国の安全や国民の生命に関わる重大な問いに対し、「意味するところが必ずしも明らかではない」といった表現を多用し、「木で鼻をくくる」ような答弁で済ませる態度は、国民の負託を受けた国会議員に質問権を認めた国会法の趣旨に鑑みれば、極めて不誠実であると言わざるを得ない。また、国の安全や国民の生命に関わる問題に対する危機意識や当事者意識も欠如しており、国民の不安を煽るものである。質問主意書は禅問答ではなく、その本来の意義を踏まえ、質問の目的や意図を理解し、政府が誠実に答えるべきものである。真摯な答弁を期待して、改めて質問する。
一
本件答弁書では「御指摘の「こうした中国の薬物への姿勢」の意味するところが必ずしも明らかではない」としている。しかし、本件質問主意書では「中国の薬物への姿勢」は、「中国がメタンフェタミン製造にかかる前駆体化学物質の主な供給国であるが、米中関係が改善することがなければ対米薬物対策協力を強化する可能性は低い」という、中国の消極的な取組姿勢を指している。我が国における覚せい剤の押収量は、平成二十五年から令和四年の十年間で一万六百六十一キログラムであり、これは日本全国で毎日九万七千三百六十人が使用可能な量に相当する。
こうした深刻な事態を踏まえ「我が国は、薬物対策において、(中略)中国に対して、どのような働きかけ、要請をしているのか」という質問に対し、本件答弁書が「相手国との関係もあり、お答えすることは差し控えたい」として具体的な内容を一切示さないことは、国民に対する説明責任を放棄していると言わざるを得ない。
我が国は、薬物対策において、国際会議等の場などで各国にどのような協力要請を行っているのか。また、メタンフェタミンの主要な原料供給国とされる中国には、その規制を促すためにどのような働きかけや要請を行っているのか。さらに、実際に中国からどのような協力を得て、どのような効果があったのか、そもそも中国は我が国に対して協力的であるか。それぞれについて回答されたい。
二
本件答弁書では「「悪用状況」の意味するところが必ずしも明らかではない」としているが、「悪用状況」とは文字どおり、「薬物の悪用状況」を指し、我が国における薬物乱用の深刻な状況を意味することは、通常の読解力があれば明白である。改めて、本件質問主意書の質問二に対して、真摯な答弁を求めたい。
三
本件答弁書では「「海外通販サイトから我が国に持ち込まれる薬物の流通実態」については、把握していない」としているが、本年一月十六日、テレビ朝日は「中国人が運営するとみられる薬の通販サイトで、注文したものとは違う違法な成分を含んだ薬が送られてくるなどのトラブルが複数起きている。」とし、都内の男性が通販で合法な薬を注文したにもかかわらず、覚せい剤と似た症状が出る違法薬物を含んだものが配達され、税関で摘発されたと報じている。また、「中国などからの違法薬物の密輸が増えていることから、税関が郵便物を調べて発覚した」旨報じている。このように、中国の薬の通販サイトによる被害が増加しているにもかかわらず、本件答弁書が、「「海外通販サイトから我が国に持ち込まれる薬物の流通実態」については、把握していない」とするならば、同種事案の取締りや未然防止をどのように図るのか、政府の見解を示されたい。
四
本件答弁書では「「フェンタニルが混入された非合法薬物」の意味するところが必ずしも明らかではない」としているが、本件質問主意書では、フェンタニルが混入された抗不安薬等の偽造薬が海外通販サイトから我が国に持ち込まれる懸念について述べており、「フェンタニルが混入された非合法薬物」とは「フェンタニルが混入された抗不安薬」だけでなく他の偽造薬も含むものである。これらの取締りや押収実績について、改めて回答されたい。
五
本件質問主意書では「令和四年における組織犯罪の情勢」において、薬物密輸入事犯に海外の薬物犯罪組織が深く関与していることがうかがわれるとの指摘を踏まえて、これら組織についての情報を求めた。しかし、本件答弁書では「これを明らかにすることにより、今後の警察活動に支障を来すおそれがある」として回答を拒否している。
警察法第二条には、「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」とあり、海外の薬物犯罪組織について情報を公開し、国民が犯罪に巻き込まれないよう警鐘を鳴らすことは、犯罪の予防を責務とする警察の重要な役割である。捜査中の事案について一定の配慮が必要であることは理解するが、薬物犯罪組織については、米国等の司法警察機関やシンクタンクが報告書やウェブサイトで最新情報を積極的に公開しているように、我が国においてもこれら犯罪組織やそのフロント団体の概要を公開することが、犯罪予防において極めて重要である。
以上を踏まえ、具体的にどのような犯罪組織があるのか、その名称、規模、拠点国を含めて概要を示されたい。
六
本件答弁書では「お尋ねの「超限戦の一環としての「薬物戦」を展開している」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である」としているが、「超限戦」については、本件質問主意書で既に説明しており、補足すれば、防衛省の政策研究の中核的機関である防衛研究所発行の「中国安全保障レポート二〇二一」においても詳細に解説されている。レポートによれば、「超限戦」は、一九九九年に人民解放軍上級大佐が提起した新しい戦争のモデルを指した造語であり、軍事以外の手段を組み合わせる戦略が含まれる。この超限戦の概念は、中国の戦略思想の一環として重要視されており、情報化戦争に適した「三戦」の手法も含まれているとされている。また、前述の人民解放軍上級大佐の著作「超限戦二十一世紀の「新しい戦争」」(角川新書)の中で、麻薬戦について「他国民に災いを与えぼろ儲けをする麻薬戦」と説明されている。
超限戦は、安全保障やインテリジェンスに関わる各国政府機関やシンクタンクが久しく注目する広く知られた概念であるが、本件答弁書で、「意味するところが明らかではない」と答弁することは、政府に超限戦に関する知見がないとの誤解を与え、関係国からの信頼を損なうおそれがあると言わざるを得ない。改めて、中国が超限戦の一環として薬物戦を展開している可能性について、政府関係機関での検討、議論、提言があるか、ある場合はその具体的内容を示されたい。
右質問する。