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2023.06.14

【質問主意書】 LGBT理解増進法の施行に当たり懸念される事項に関する質問主意書

令和5年6月14日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
 
『LGBT理解増進法の施行に当たり懸念される事項に関する質問主意書』
 
 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」(第二百十一回国会衆第一三号)は、G7に間に合わせることを目的に拙速な議論が与党でなされたに過ぎないものであり、この課題が抱える多くの論点について慎重な検討が欠けていると思われる。本来、様々な立場からの指摘を取り上げて慎重に審議していくべき本法案は、二〇二三年六月九日、衆議院内閣委員会で審議入りし、三案が乱立する状況にもかかわらず短時間で審議を終え、同日早朝に新たに提出された修正案が即日採決されるという極めて異例な経過をたどっている(以下、衆議院において修正議決された案を「本法案」という。)。
 
 本法案の内容は、政府が基本計画を策定するとともに、国及び地方公共団体が施策を策定・実施することを求めている。それだけではなく、事業者には、普及啓発、就業環境の整備を求めているほか、国や地方公共団体が行う施策に協力するよう求め、学校にも教育、啓発、教育環境の整備、国や地方公共団体が行う施策への協力を求めている。加えて、学校における教育や啓発は、家庭、地域住民、その他の関係者の協力を得ることとされている。本法案は、社会全体に極めて大きな影響を及ぼすものであることは明らかである。
 
 本法案について、国民からは、性犯罪の増加など女性の権利侵害、スポーツ界におけるジェンダー問題、そして、アイデンティティの確立していない子供の発達への悪影響など、諸外国が直面してきた社会的混乱が日本でも生じるのではないかという強い懸念の声、男系による皇位継承を定める皇室存続の危機につながるのではないかという不安の声が多数上がっている。しかし、前出のように衆議院では拙速な審議を経て採択され、こうした懸念、危惧に正面から応えることになっていない。
 
 当事者団体からも、「揺らぎのあるアイデンティティをカテゴライズされることが不快感を覚える」、「これまで生活者の立場で、医療機関や金融機関、行政で差別を受けたことはなかった」、「LGBT活動家は当事者の代表ではない。一部の活動家だけではなく、当事者のリアルな声も報道してほしい」と、マスコミが一部の活動家による主張ばかりを取り上げ、本当のマイノリティの声がかき消されている現実がある、と立法化そのものへの疑問の声が上がっている。
 
 このように、理解増進を目的にしていたはずの本法案は、かえって当事者に対するタブー意識を強めるという皮肉な結果を招いている。本法案の成立によって、現在平穏の中で生活している「そっとしておいてほしい」と考える当事者の願いに背を向けることにもなりかねず、ひいては国民全体を不幸にすることになってしまう。
 
 政治に必要なのは、形式的な法制化ばかりではなく、当事者や周辺が抱える具体的な問題に焦点を当て、解決への道筋を探ることである。しかし、本来、慎重な審議の中でこれらの重要な役割を果たすべき衆議院内閣委員会で、当事者不在のまま、議論らしい議論を行わず採決に至った。
 
 岸田総理は、六月八日の参議院財政金融委員会において、本法案について、「様々な国民の皆さんの声を受け止めながら取組を進めていかなければならない」と答弁しているが、様々な国民の声は、法制化の前に十分に受け止められるべきものであり、岸田総理の答弁は、順序を取り違えている。
 
 性的指向を理由に性的少数者を差別することが許されないのは当然である。我が国では、憲法第十四条において、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、社会的関係において、差別されない」という平等原則を定めており、判例、学説上、「合理的区別」を除く「一切の差別」が禁止されている。報道で「G7の中で唯一、同性カップルに対して国として法的な権利を与えず、LGBTQに関する差別禁止規定を持たない」などとされていることは、完全な事実誤認である。
 
 もとより、性的少数者に対する過酷な差別の歴史を有する西洋とは異なり、日本は、マイノリティに寛容な国である。武士の生活文化の一部では同性愛が認められていた歴史があり、現在の芸能界でも女性的な男性タレントが活躍するなど、多様な性の形が受容されている。これらの歴史的事実や今日の実情に顧みるなら、あえて「理解増進」を法制化しなければならないような国柄ではないと言える。
 
 この問題で先行している欧米諸国では、行き過ぎた政策による混乱や弊害が生じ、歯止めをかけるなど見直しの動きが進んでいる国も多数ある。アメリカの人権団体であるヒューマンライツキャンペーンは、全米の州法全体で反LGBTQ法案が着実に増えており、二〇二三年には五百本超が提出されているとしており、また、アメリカ自由人権協会は、二〇二三年にアメリカで成立している反LGBTQ法案は、十九州六十四法案があることを指摘している。先行事例を見れば、拙速な法制化が健全な教育や社会常識を損ない、無用な社会の混乱・分断を招くことは明らかである。
 
 以上を踏まえ、質問する。
 
  本法案の法制化について、当事者団体からは、本当のマイノリティの声がかき消されている現実がある、との声が上がっている。この点、「国民の理解が必ずしも十分でない現状」について、政府はどのように解釈しているか。
 
  本法案第二条では、「ジェンダーアイデンティティ」の定義として、「自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識をいう」とされている。これには、「性自認」を含むことになるのかについて、政府としてどう解釈し、運用するか。
 
  本法案第三条では、「ジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」と定められている。しかし、「差別」とされる内容は明示されていない。「差別」と「合理的区別」の定義について、政府はどのように解釈し、運用するか。
 
  本法案では、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く学校の児童及び生徒に対し、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する教育を行う旨が定められている。
 
この点、政府は、「学校教育法施行規則の一部を改正する省令案並びに幼稚園教育要領案、小学校学習指導要領案及び中学校学習指導要領案に対する意見公募手続き(パブリックコメント)に寄せられた御意見等について」の中で、
 
「性的マイノリティについて規定し、保健体育科などの「異性への関心」を削除すべき」との意見に対し、「体育科、保健体育科においては、個人差はあるものの、心身の発育・発達に伴い、「異性への関心が芽生えること」等は思春期の主な特徴の一つとして必要な指導内容です。また、体育科・保健体育科で、上記通知で言及されているいわゆる「性的マイノリティ」について指導内容として扱うことは、個々の児童生徒の発達の段階に応じた指導、保護者や国民の理解、教員の適切な指導の確保などを考慮すると難しいと考えています。」と回答している。
 
本法施行に当たっては、個々の児童生徒の発達の段階に応じた指導が行われることが確保されるという理解でよいか。また、保護者や国民の理解が進まない段階で実施されることはないということでよいか。政府の認識を示されたい。
 
  アメリカではLGBTを子供たちに教えるべきかどうかをめぐって、対立が深まっている。海外のLGBT対策の現状と問題点を踏まえ、日本社会にふさわしい施策について今後どのような方向性をもって決定していくのか。政府が考えるプロセスを示されたい。
 
  岩手県や愛媛県の職員対応マニュアルでは、性自認に基づいたトイレの使用で他の利用者から苦情が出た場合、「様々な方が利用するみんなの施設であることを説明し、苦情を出された方に理解を求めましょう」等と定められているという。
 
衆議院内閣委員会では、法案提出議員から「本法案は、理念法であり、個々人の行動を制限したりまた何か新しい権利を与えたりするようなものではない。したがって、女性トイレや公衆浴場の施設等の利用やスポーツ大会等への参加ルールについて現状の在り方を変えるものではない」と説明されていたが、岩手県や愛媛県の事例から分かるとおり、実際には、「理解増進」のためにトイレの利用を始め、社会の現状の在り方を変更する必要が生じることが想定されている。
 
本法案は、施行によって女性や子供の権利や安全が侵害される懸念があるとの指摘を受け、第十二条において「この法律に定める措置の実施等に当たっては(中略)全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」と規定しているが、政府としては、本法施行後、どのようなことに「留意する」ことが国民の懸念や不安に対して応えていくことになり、女性や子供の権利や安全を守ることになると考えるか、具体的に示されたい。
 
  衆議院内閣委員会では、本法案は「理念法」であり、「予算」を伴うものではないと説明されていたが、本法案では、事業者には、普及啓発、就業環境の整備を求めているほか、国や地方公共団体が行う施策に協力するよう求め、学校にも教育、啓発、教育環境の整備、国や地方公共団体が行う施策への協力を求めている。加えて、学校における教育、啓発は「家庭、地域住民、その他の関係者の協力を得ることとされていることからすれば、相当の予算措置が必要であることが明らかである。
 
本法案では、原案にあった「民間団体等の自発的な活動の推進」が削除された。しかし、法案説明の際には、「国地方公共団体が民間団体等と連携協力することがその場面も数多くあると考えておりますけれどもこれは数多くの民間団体がある中での施策の例示であると考えておりましてあえて明記をしなかったことでございます」とされていた。そうであるならば、施策を行うに当たり、相当の予算措置がされ、民間団体にも相当の公的資金が入ることが想定される。
 
同じようなスキームで民間団体へ公的資金が投入されていた事業で、 性暴力や虐待などの被害を受けた若年女性らを支援する東京都の事業を受託した一般社団法人「Colabo(コラボ)」をめぐり都監査委員が会計の一部に不当な点があるとして都に再調査を指示する事案が発生したばかりである。政府は、本法施行後、民間団体への委託事業の実施を想定しているのか。また、実施する場合、どのように公的資金の適正管理を図るのか。
 
右質問する。

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