2023.06.16
【質問主意書】 トランス脂肪酸に関する情報発信と含有量表示等に関する質問主意書
令和5年6月16日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『トランス脂肪酸に関する情報発信と含有量表示等に関する質問主意書』
近年、科学的研究により、トランス脂肪酸、飽和脂肪酸、コレステロールの過剰摂取が心疾患リスクと関連していることが明らかになっている。二〇〇三年のWHOとFAOの合同会合では、トランス脂肪酸の摂取を極めて低く抑え、総摂取エネルギー量に対して、最大でも一%未満とすることが勧告された(以下「WHO勧告」という。)。
これに基づき、デンマーク、スイス、オーストリアでは百グラム当たり二グラム以上のトランス脂肪酸を含む油脂の国内流通が禁止され、米国、カナダ、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、韓国、香港、台湾、中国ではトランス脂肪酸の食品表示が義務付けられている。
米国の食品医薬品局は、二〇一八年以降、トランス脂肪酸を多く含む部分水素添加油脂の使用を禁止する方針を発表し、また、WHOは、各国に対し、二〇二三年までに加工食品のトランス脂肪酸を減らすよう呼びかけており、行動計画も公表している。
このように、世界的にトランス脂肪酸に対する規制や表示義務化が広がっている。
一方、我が国では、二〇一二年に食品安全委員会が公表した「食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価」(以下「本件報告一」という。)に基づくと、日本人の大多数がWHO勧告を下回り、通常の食生活では、トランス脂肪酸の健康への影響は小さいとして、現在、トランス脂肪酸の表示は任意とされ、食品事業者に委ねられている状況である。
この点、二〇二〇年に消費者庁が公表したトランス脂肪酸の情報開示に関する調査事業報告書(以下「本件報告二」という。)によれば、トランス脂肪酸を含む商品を取り扱う事業者の約三割は、含有量を把握しておらず、八割以上の業者は、トランス脂肪酸に関する情報発信を行っていないという。報告によれば、今後も情報発信の予定がないとする事業者が半数近く存在することからすれば、現状が変わる可能性は低い。
ところで、本件報告一によれば、トランス脂肪酸は、ヒトに不可欠なものではないことから、できるだけ摂取を少なくすることが望まれるが、脂質に偏った食事をしている人は、トランス脂肪酸摂取量がWHO勧告を超えている場合があることが指摘されている。
この点、農林水産省のデータによれば、日本人の平均的な一日のエネルギー摂取量は、約千九百キロカロリーであり、この量に相当するトランス脂肪酸の量は約二グラムとされている。
本件報告一が引用する調査によれば、二〇〇五年から二〇〇六年に二十歳前後の女子学生二十五人を対象に調査をしたところ、二十五人のうち三人が一日の食事でWHO基準を大きく上回る約三グラムのトランス脂肪酸を摂取していたことが報告されている。
また、二〇〇二年から二〇〇三年に二百二十五人の三十歳以上の成人を対象に調査をしたところ、男性の五・七%、女性の二十四・四%がWHO勧告以上のトランス脂肪酸を摂取していたこと、特に都市部に住む三十歳から四十九歳の女性のトランス脂肪酸摂取量が多かったことが報告されている。
このように、トランス脂肪酸の摂取量は、年齢、性別、食事の好み、生活環境などによって、大きな差があることが分かる。
以上のことを踏まえると、国民の健康意識向上のため、また、消費者が安心して生活できるようにするため、現状を踏まえ、消費者が求めている情報を的確に発信し、含有量表示を行うことが重要である。
以上を前提に、以下質問する。
一 本件報告一以降、食品に含まれるトランス脂肪酸に関する食品健康影響評価は行われていない。本件報告一から、既に十数年が経過しているところ、国民の米や魚の消費量が年々減少していることから、国民の食生活が変化している可能性がある。
このような状況を考慮し、政府は、国民の健康保持増進のため、国民のトランス脂肪酸摂取量について、現状を調査し、再評価を行うことを検討しているか。
二 本件報告一が引用している過去の調査事例を見れば、若年層を中心に脂質に偏った食生活をしている場合があり、WHO勧告を超えた食生活を送っている国民も一定数存在するようである。この点、本件報告一では、「脂質に偏った食事」の例示がなく、一日当たり、具体的にどのような食生活を送った場合に、どの程度のトランス脂肪酸を摂取することになるのかが明確でない。
この点、二〇二三年六月二日、食品安全委員会の二十年周年記念企画として発表された連載コラムにおいても、トランス脂肪酸についていまだ国民の不安や国への不信があることに関し、「一般の人たちや報道関係者向けのわかりやすい情報発信が足りない、と正直に言って感じました。やっぱり、食品安全委員会の情報発信は難解でした。」と述べられている。
この点について、政府は、国民に対して、より分かり易い情報発信を行う準備があるか。
三 健康増進法第二条によれば、国民の責務として、「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」と規定されている。国民がこのような責務を果たすためには、自らが口にする食品にどのような成分が含まれているかを把握することは、重要である。
このことから、国民が一日当たりの総摂取エネルギー量に対して、一%未満のトランス脂肪酸を摂取しないように心がけることができるよう、表示の義務化について検討すべきであると考えるが、政府の見解如何。
四 前述のとおり、本件報告一では、「トランス脂肪酸は、ヒトに不可欠なものではないことから、できるだけ摂取を少なくすることが望まれるとされており、食品事業者においては、食品中のトランス脂肪酸含有量の低減に努める必要がある」とされている。
それにもかかわらず、本件報告二では、トランス脂肪酸を含む商品を取り扱う食品製造事業者のうち、その含有量を把握していない食品製造事業者は約三割、情報発信を行っていない業者が八割、今後情報発信の予定がないとする業者は、半数近くに上ることが判明している。
このような現状を踏まえれば、事業者に対し、トランス脂肪酸の含有量を把握することをより推奨し、情報発信を行う環境整備を行う必要があると思われるが、政府は本件報告二を踏まえ、どのような対策を講じるか。
五 政府は、トランス脂肪酸の含有量の食品表示に関し、トランス脂肪酸の規制等に関する質問主意書(第百九十二回国会質問第四七号)に対する答弁(内閣参質一九二第四七号)において、「食品表示法(平成二十五年法律第七十号)第四条第一項の規定により定められた食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号)においては、消費者の摂取状況等を踏まえた消費者への表示の必要性があること、事業者にとって表示が実行可能であること及び国際基準と整合していることの三点を全て満たす栄養成分の量及び熱量の表示を、内閣総理大臣が同法第四条第二項(同条第六項において準用する場合を含む。)の規定に基づき消費者委員会の意見を聴いた上で、同基準第三条第一項に規定する食品関連事業者が容器包装に入れられた加工食品(業務用加工食品を除く。)を販売する際(設備を設けて飲食させる場合を除く。)に表示されなければならない事項(以下「義務表示事項」という。)として定めている。
トランス脂肪酸の量の表示については、現時点において当該三点いずれも満たしているとは言えない」としている。
このうち、「事業者にとって表示が実行可能であること」の要件を満たしていない理由如何。
六 消費者庁の「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」によれば、「〇グラムと表示できるのは、原則としてトランス脂肪酸が含まれない場合に限られる」としつつも、「食品百グラム当たり(清涼飲料水等にあっては百ミリリットル当たり)のトランス脂肪酸の含有量が〇・三グラム未満である場合には、〇グラムと表示しても差し支えない」という。
この点、トランス脂肪酸を約二グラム摂取すれば、エネルギー比一%を超えることになるところ、例えば、百グラム又は百ミリリットル当たり〇・二グラムのトランス脂肪酸を含有する菓子や、一・五リットルのペットボトル飲料を一本飲めば、エネルギー比一%を超えることとなる。
このように、トランス脂肪酸の含有量が〇・三グラム未満の場合でも、消費者が一日に摂取する量がエネルギー比一%を超えてしまうことが想定できる食品の場合には、表示を行うべきではないかと思われる。
このような場合に、「〇グラム」、「フリー」などと表示することは、一般消費者の誤認を誘うのではないか。これらの点について、政府はどのように考えているか。
右質問する。