2023.10.20
【質問主意書】 水産業における「新たな資源管理」に関する質問主意書
令和5年10月20日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『水産業における「新たな資源管理」に関する質問主意書』
我が国の漁獲量は、昭和五十九年の最高水準千二百八十二万トンから減少の一途をたどり、令和二年には、四百二十三万トンとなり、ピーク時から六十七パーセントも減少した。また、海面養殖業による生産量も、昭和六十三年の百三十四万トンをピークに減少を続け、令和四年には九十一万トンにまで減少している。
一方、過去三十年における世界の天然漁獲量は、九千万トン程度で安定しており、養殖による生産量は十年前に漁獲量を超え、増加傾向を維持していることから、世界の総水揚げ量は、右肩上がりで増加している。日本とは異なり、世界的にみると、水産業は成長産業となっている。
世界の水揚げ量、漁獲量の推移が示す傾向に対して、日本だけが漁獲量の減少を続けている現実は「食料安全保障」の観点から見ても由々しき問題であり、政府としては現状の分析と改善施策の策定、実施が急務となっている。
この点でのひとつのあり方として、ノルウェーを始めとする漁業先進国が、乱獲により水産資源を減少させた過去の反省から、水産資源の持続可能な管理に重点を置き、科学的根拠に基づく水産資源管理を推進し、着実な成果を上げてきたことは大いに注目すべき事例と考える。この過程でノルウェーは漁業補助金を全面的に廃止した。水産資源の持続可能な管理アプローチは、科学的な調査、データ収集、データ分析、そして管理計画の策定といったプロセスから成り立っている。収集されたデータを漁業監督機関が集積し、研究機関と共同で分析して管理計画が立案されている。
他方、我が国では、「排他的経済水域内の水産資源は国民共通の財産であるとの理念の下…水産資源の回復に向けた資源管理の強化を実現する」(平成二十三年七月二十二日閣議決定)とされたものの、実際は「資源管理の強化」の明らかな効果は現れておらず、依然として漁獲量の減少傾向に歯止めがかからない状況である。
我が国の食料安全保障上の観点から、国民に安定的な食料確保をする上での役割を永続的に果たし得る持続可能な漁業の将来を考えるとき、日本も他の漁業先進国のように、水産資源を国民全体の共有財産とし、国民の負託を受けて国が管理するという方法を模索すべき時期にきている。
以上を踏まえ質問する。
一 政府は、水産基本計画(令和四年三月二十五日閣議決定)に基づき、令和二年度より「新たな資源管理」の推進を掲げ、同十二年度に漁獲量を四百四十四万トンまで回復させることを目指しているが、これはいかなる調査データ及び分析によって担保された目標なのか。目標達成のための施策の推進方向、予算的裏付けまで具体的に示されたい。
二 科学的根拠に基づく資源調査のベースとなる資源監視・取締り・調査のための予算に関して、アメリカでは、総トン数あたりの水産予算額のうち約八割、OECD諸国の平均ではグロストン当たりの水産関係支出の五割弱がこれらに充てられているのに対し、日本では、水産関係予算全体の予算の一割程度しか充てられていない。令和六年度の概算要求額もわずか三百十四億円程度にとどまっている。インフラ整備への予算配分以上に、科学的研究・データの収集・分析・取締りに関する予算割当を増やすことが「新たな資源管理」に資するものと考えるが、令和十二年度までのこれらに対する予算配分の見通しについて、どのような想定をもって考えているか。
三 令和四年のWTOの合意において、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)に対する補助金の禁止や濫獲状態の資源に関し、資源回復の取組を伴わずに供与される補助金が禁止された。この点、我が国では、漁業共済・漁業経営安定対策として、「積立ぷらす」を経由した国庫補助が行われているところ、政府は、同制度の審査にあたって、漁業者が資源回復の取組を行っていることをどのような方法で把握しているか。また、同制度が利用された後、政府は、漁業者が計画的に資源管理を行っていることについて、どのような方法で実態を把握し、評価を行っているか。
四 我が国では、平成九年からTAC管理が導入されているが、例えば、令和三年度のサバのTACの消化率は五十三%、マイワシは六十二%、ズワイガニは四十六%、サンマは僅か十二%であるなど、漁獲量の実績に対して割り当てられているTACの値が大きすぎであり、漁獲枠として機能していないと思われる。TACの消化率の実態に見合った評価を検討すべきではないのか。また、今後、適正にTAC管理を運用していくために考えられるプロセスを示されたい。
五 資源の適切な管理の推進のためには、ITQ方式(譲渡可能漁獲割当量)の導入が有効なのではないか。限られた漁獲枠の中で水揚げ高を意識した計画的な操業が促され、かつ価値の低い幼魚や若魚などの漁獲を抑制する効果が期待できると思われる。我が国においては、ITQ方式の導入について具体的な検討は進められているのか。
六 持続可能な漁業を行うためには、混獲や幼魚の混入について管理・制限を行い、非食用の魚の漁獲を減らすことも方法の一つであると考えられる。我が国における混獲、幼魚混入の管理、制限の具体的な取組と今後の方向性について示されたい。
七 我が国の養殖業が全体として世界の趨勢と逆行して衰退している原因について、いかなる認識を有しているのか、示されたい。
右質問する。