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2024.02.14

民間企業の日米連携

民間企業の日米連携 

2024/2/13山下 政治

 
日米間で民間企業が連携を取り始めている。
米国シンクタンクのWilson Centerが今年1月3日に「日米の信頼関係が試される日本企業によるUSスチール買収」(i)と題したブログを書いている。
「12月に日本企業がUSスチールを買収するという決定を下したことに対し、賛否両論の議員等が懸念と強い憤りを表明した。」(i)
日本製鉄によるピッツバーグに拠点を置くUSスチールの買収劇だ。
USスチールは1901年、銀行家のJ・P・モルガンとチャールズ・シュワブがアンドリュー・カーネギーの所有した鉄鋼会社を買収し、ライバルのフェデラル・スチールと合併させたことで誕生した。 新会社は時価総額で当時の米国家予算の2倍、世界初の10億ドル超の企業となった。 カーネギーはこの取引で世界一の富豪となった。
一企業が米国家予算の2倍の財力を持つとはとてつもなく巨大な企業である。
 
1980年代、日本企業はニューヨークマンハッタンの象徴であったクライスラービルの買収を始めとするさまざまな分野でアメリカの資産を買収しまくり米国の産業基盤を脅かしていた時代があった。前米国大統領のドナルド・トランプ氏はちょうどこのころバリバリのビジネスマンとして大成功を収めたが日本企業による米国資産買収劇はリアルタイムで経験していて、日本に対してはあまりいい感情を持っていなかった。しかし故安倍晋三氏の登場でトランプ氏の日本に対する感情は1980年代に抱いていたものとは異なり、以降は安倍-トランプの間では信頼関係を築き上げていた。返す返すも安倍晋三氏の暗殺は日本にとって大きな損失だけでなく世界のリーダーにとっても大損失だ。
しかしこの買収は「敵対的なものではなく、実際には鉄鋼メーカー自身だけでなく米国全体にとっても利益になるものだ。」(i)と同社のルレンコ・ゴンカルベス会長は述べ、「USスチールの発表を祝福し、日本製鉄との取引成立の幸運を祈る。」(i)と続け、最終的には日本製鉄の提案を歓迎した。
製鉄地域を代表する代議士や鉄鋼労働者は「米国産業の長い歴史を代表する企業を外国企業に売却することにいち早く反対している。」(i)がこれは既に予想されていた事だ。Wilson Centerによると「この買収は製鉄の将来にとって戦略的な動きであり、最終的にはUSスチールの世界的地位を強化するものであり、したがって米国の利益になる。」(i)と評価している。これで世界第2位の鉄鋼メーカーの誕生となった。因みに第1位の鉄鋼メーカーは韓国のPOSCO Holdings, Inc.である。(https://reinforz.co.jp/bizmedia/6013/
一方この記事では買収が進まなかった場合のリスクについても書かれている。
「米国の対日経済関係だけでなく米国の保護主義に対する懸念が高まるにつれて他の同盟国や信頼できるパートナーとの関係にも打撃を与えるだろう。」(i)との懸念を現している。そして「ワシントンが先頭に立って日本製鉄の買収を阻止しようとするのは近視眼的である。」(i)とも指摘している。
今回の日本製鉄によるUSスチール買収は総じて米国では歓迎する評価だ。
 
鉄鋼業界の他、半導体業界でも日米連携が見られる。半導体に関しては、筆者は昨年9月「21世紀は何を求める戦争になるのか」(ii)では、今後は半導体をめぐる戦争に発展するのではないか、と記事にした。同じく昨年6月「半導体技術をめぐる戦争」(iii)では台湾のTSMC社に焦点を当てた。半導体が如何に国防・安全保障の要なのかをテーマにした。
今回日本は米国IBMとの技術提携により世界最先端半導体の研究・開発を始め、最終的には量産製造をする計画だ。その計画をラピダスプロジェクトと言う。日本政府支援による半導体工場だが、トヨタ、デンソー、NEC、NTT等の出資により北海道千歳に工場建設を行う。そして米国が温存していたIBMの半導体技術をその提携先として選択したのは日本だった。いまや国防・安全保障上の戦略物資となった半導体の最先端技術は日米連携によるものとなった。1980年代日本の半導体は世界を席巻したが、今やその見る影もない。この日米連携の半導体プロジェクトは日本にとっては技術開発が20年遅れてしまったが、日の丸半導体復活の最後のチャンスである。何としても成功しなければならない。
 
また積水ハウスも米国企業買収に乗り出した。米国で一戸建て住宅事業を行うMDCホールディングス社を7200億円で買収することを発表した。これにより米国における積水ハウスの一戸建て住宅事業が全米5位になるとしている。
 
Wilson Centerの記事では、「米国の真の強みは、志を同じくする国同士の協力関係を強化しつづけることであり、それが結果的にサプライチェーンの強靭性を高めイノベーションを促進することになる。」(i)と結んでいる。
米国は日本を、志を同じくする国と認識したのだ。
 
70年前、日本は米国との間で太平洋において壮絶な戦いをした。大東亜戦争だ。終盤は特別攻撃隊を編成し日本の若者は特攻専用機を操縦し敵艦隊に体当たりしたのだ。飛行機だけではなく若者も木っ端微塵になるが、決して犬死にではない。この作戦があったからこそ今の日本があるのだ。靖国に祀られるおよそ230万柱の神々。尊い若い命が戦で亡くなり、大都市空襲と原爆投下で一般人も数十万人が命を落とした。悲惨な戦争だった。それでも戦後日本は復興し世界第2位(その後チャイナに抜かれ、執筆時はドイツに抜かれ第4位に転落)の経済大国にまで上り詰めた。日本は米国と日米同盟を結んだ。そして今、民間企業による日米連携が始まった。
しかしその米国も製造業は低下し急速に変化する世界経済の中で重要産業の混乱が生じている。米国の回復力を高める布石の一つとして志を同じくする国、日本との民間レベルでの連携を希望しているのではないだろうか?
混沌とした時代に突入している。もはや不甲斐ない政治家に頼っていてはこの混沌は抜け出すどころかますます泥沼に入り込んでしまう。民間レベルでのこの日米連携がこれからの希望となるよう応援したい。

 
参考文献
(i)Wilson Center January 3, 2024
https://www.wilsoncenter.org/blog-post/us-steel-bid-japanese-group-tests-us-japan-trust
(ii)参政党 Septeber 25, 2023
https://www.sanseito.jp/translation/9009/
(iii)参政党 June 23, 2023
https://www.sanseito.jp/translation/7832/
 

画像
https://www.ussteel.com/about-us/history

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