2024.02.26
ドーバー海峡を渡ってくる不法入国者をルワンダへ?
令和6年2月20日 松本裕子
イギリスと聞くと、故エリザベス女王を思い出す。2012年、ロンドンオリンピックの開会式で、女王が007ジェームスボンドと共に映像の中に現れたときは衝撃を覚えた。現在は、国王チャールズ3世が君主。保守党のリシ スナク氏が首相だ。
2020年、英国保守党の党首選でスナク氏は移民問題に関して公約を発表。『イギリスへの不法入国者をルワンダに送るという政策を維持する』と言った。それから4年、あのルワンダに送るという政策はどうなっているのだろうか。まず、ルワンダの難民受け入れとイギリスとの関係性を見ていこう。
ルワンダは内戦中多くの国民が難民になった経験があるので、隣国のコンゴ民主共和国やブルンジからの難民を受け入れ、近年は、他国で保護された難民の移送も受け入れている。このようにして、『他国で保護された難民を受け入れてきたルワンダは、2022年4月にイギリスとの間で移民・経済開発パートナーシップを交わした。』
このパートナーシップは、『小型船や貨物自動車に隠れるといった危険な方法でイギリスへ不法入国する移民の難民申請をルワンダで請け負うというものである。申請・認定を受けた難民にはルワンダでの再定住支援として、最大5年にわたり宿泊施設や医療、訓練の機会が提供され、ルワンダの経済発展のために約200億円を出資するとされている。』
この合意に対してはイギリス国内外から懸念が示された。『2022年6月、イギリスからルワンダへ最初の不法入国者の移送が予定されていたが、ヨーロッパ人権裁判所の判断で延期された。』しかし、イギリス政府は2023年12月5日に難民申請者をルワンダに移送する協定をルワンダ政府と締結した。また、上院での法案審議が残っているが、2024年1月17日に下院で不法入国者をルワンダに移送する法案が可決された。
なぜ、多くの懸念があるにもかかわらずイギリス政府はルワンダに不法入国者を送る協定を締結するのか。小さなボートに乗ってドーバー海峡を渡る不法入国者の意欲を削ぐ狙いがあったと言われている。なぜなら、難民審査や保護はイギリスではなくルワンダで行われるためイギリスに滞在出来なくなるからだ。さらに、スナク政権は、『犯罪組織が金銭と引き換えにドーバー海峡を渡るボートを手配している』とか、『渡航者も政情が比較的安定している国から来る若者など、実態は難民ではない人が多い』と指摘し、ドーバー海峡を渡ってくる不法入国者の難民申請を認めないという法律も成立させた。
イギリスがE Uを離脱したのは移民問題が大きいと言われている。無制限に移民や難民を受け入れると地元民と軋轢が起こる。日本では、まだ臨界点に来ていないので大きな問題にはなっていないのだが、ある点を超えると軋轢が起こり、社会不安が高まる。人手不足だとして、外国人の受け入れについて企業が有利になる政策を安易に打つと、イギリスのように別の国まで巻き込む対策になってしまう可能性が出てくる。どんな社会も急激な変化には対応できない。2018年には299人だったのが、2022年には4万5755人にまで人数が膨れ上がり、海峡を渡る不法入国者が急増したイギリスを参考にして、日本の外国人雇用政策を慎重に考えてほしいと思うのは、筆者だけではないと思う。
参考文献
People crossing the English Channel in small boats
What is the UK’s plan to send asylum seekers to Rwanda?
One-way ticket to Rwanda for some UK asylum seekers
Channel migrants: Almost 200 migrants cross Channel in small boats
Statement on UK Asylum Bill
参考動画
James Bond and The Queen London 2012 Performance