2024.04.02
日米軍事指揮統制の罠
2024/3/30 山下 政治
「日本を取り巻く安全保障環境はかつてないほど悪化している。チャイナは近年東シナ海で軍事活動を活発化させており、2022年8月のナンシー・ペロシ米下院議長の訪日以降台湾付近の領空にも進入している。北朝鮮は弾道ミサイル防衛(BMD)システムを突破するための不規則な軌道を含む技術的能力を進歩させながら記録的な頻度で弾道ミサイルを発射している。そしてロシアはウクライナ侵攻という力による現状変更を試みており、この戦争がアジアの安全保障に及ぼす潜在的な影響について、日本や他の国々の懸念を高めている。」(i)
米国のシンクタンクCSIC(戦略国際問題研究所)の昨年7月の“日米同盟の指揮統制関係の強化”と題したレポートの冒頭に書かれている。筆者からみると日本を貶めようとする内容だと読み取ることができる。
確かに日本を取り巻く安全保障環境はその通りだ。だがこのようなお膳立てをしているのは全てアメリカではないか、と筆者は感じている。チャイナの本音は一度でいいから日本に攻め込み日本をギャフンと言わせたいといったところだろう。そうであれば日本へ照準を合わせている400発とも500発とも言われる核ミサイルを打てば日本はギャフンとなる。だが日本全国に点在する米軍基地があるためチャイナはそう簡単にはミサイルを日本に向けて発射できない。なので東シナ海や尖閣諸島周辺で暴れているのだと思ってしまう。ナンシー・ペロシ米下院議長の訪日もチャイナの暴れる口実となっただけだ。北朝鮮が不規則軌道ロケットを飛ばす技術を本当に持っているのか、疑問だ。おそらくはロシアから仕入れたロケット技術だろう。「そしてロシアはウクライナ侵攻という力による現状変更…..」実際にはロシアがウクライナに仕掛けられた戦争であることは明白である。そしてウクライナに戦争を持ちかけたのはアメリカだ。そのウクライナ(アメリカ)が負けたことをカモフラージュするためにハマスを使い数千発のロケット弾をイスラエルに向けて打たせた。舞台はイスラエル・ハマス戦争に切り替わり世界の注目はウクライナからイスラエルに移り変わった。
日本の国家安全保障戦略、防衛戦略、防衛力整備計画の戦略文書の中で「敵基地攻撃能力」とされた反撃能力を導入し防衛力を抜本的に強化し抑止力を強化する、としている。日本がカウンターストライク能力を獲得するということは歓迎すべきことだ。しかしアメリカはそれを懸念しているようにも思える。
「日本がカウンターストライク能力を獲得しようとしているのにもかかわらず日米同盟の役割分担は変わらないとしている。これは日本が独自の対攻撃能力を認めた後も自衛隊の主要な役割は日本の防衛であり続けることを暗示しているように思われる。日本は既に複数の超距離ミサイルを調達・開発し始めており、程度の差こそあれ自衛隊は照準など多くの分野で米軍と協力する必要がある。(その代表的な例が、日本が最近トマホークミサイルの購入を決定したことである。)」(i)
ここで「米軍と協力する必要がある」と言っているがその協力とは米軍のミサイルを購入しなさい、ということだろうか?日本は独自に開発するな、と言いたいのではないだろうか?日本には既に非常に高精度なロケット技術がある。筆者の2021年9月の「ASAT(対衛星兵器)技術」と題した記事に記載したが、イプシロン、H-IA, H-IIA, H-IIIという様々な用途に応じたロケット技術がある。十分にミサイルは独自開発でいるのである。トマホークのような旧式ミサイルを米国内の価格のおよそ2倍で購入する必要はない。
本レポートではさらに「日米協力がより強固になれば、どのような状況下でも共同作戦が向上し、抑止力の強化につながる。したがって、日米の指揮統制関係の連携を強化することは、日米同盟が取り組むべき最も重要な分野の一つである。」(i)と指摘する。果たしてそうなのだろうか?指揮統制関係の連携は米軍が自衛隊をコントロールすることが可能になるのではないだろうか?「日米同盟が取り組むべき最も重要な分野」とは筆者に言わせれば大きなお世話だ。在日米軍の役割は日本の防衛に在らず。日本有事の際に在日米国人を日本国内から避難させ、避難が終了すれば在日米軍も引き上げることにある。在日米国人を日本から避難させる時に敵を斃すことはあるだろう。でもそれが本懐ではない。米軍が自衛隊の指揮統制をすれば自衛隊も在日米国人救出の手助けに使われるのは明らかだ。そして米軍が去った後は、日本は敵国の餌食になるだけではないか。
日米間では「二国間および多国間ベースでいくつかの合同演習が実施されている。2022年11月、自衛隊と米軍は、日本の地対地ミサイル(SSM)と米国の高機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)を使用した海上作戦に焦点を当てたキーン・ソード23を実施したが、これは同盟国のより強力な能力を示すとともに、反撃作戦の調整の可能性を示唆している。」(i)
抑止力という点では合同演習の実施はおおいに効果的である。合同演習は定期的に続けたい。しかしここまでだ。また同盟国であっても手の内を明かすことはできない。この先に待ち構えるのは;
「二国間同盟協力は、並行する指揮統制構造の下で行われている。同盟の指揮統制関係をよりよく統合する方法を検討する際に最初に思い浮かぶ疑問は、特定の有事において一方の同盟国から他方の同盟国へ作戦統制権を移転することによって、両軍の作戦統制権を統合できるかだ。」(i)このレポートの指摘には罠が隠されている。二国間同盟協力が並行する指揮統制構造の下で行われるのは両国による指揮統制であるので理解できるのだが、特定の有事において一方の同盟国から他方の同盟国へ作戦統制権が移転する場合には、完全にパートナー国に作戦は依存してしまうのである。自国を防衛するための軍事作戦を他国に依存することは自国の自主防衛を放棄することを意味する。同盟国、何をか言わんやだ。
「法的な課題もまた、反撃能力の行使を複雑にする可能性がある。日本の憲法では、武力の行使は『必要最小限度』の範囲にとどめなければならないとされており、これは反撃能力についても例外ではない。」(i)との記載があるが、「日本の憲法では、、、」とはよくも言ったものだ。米国が作った憲法ではないか。それを日本の責任に押し付け反撃ができないようにしていることをいいことに作戦統制権は米国が握ろうとしているのだ。
以上の日米軍事指揮統制の提案は、日米同盟の強化により日本に強力な抑止を加えようとしているように聞こえる。日本の自衛隊を米国が完全に管理してしまう構造なのではないか、と筆者は考える。
日本にはデュアルユース技術が豊富にあり軍事兵器の開発の門戸が開かれれば小型で高性能な兵器を開発するであろう。米軍はそんな自衛隊を管理下に置きたいと考えているのではないだろうか?
了
参考文献
(i) CSIS July 6, 2023
https://www.csis.org/analysis/enhancing-us-japan-alliance-command-and-control-relationships
画像
https://www.asahi.com/edua/article/14787002