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2024.05.01

ジュネーブにおける人知れぬ闘い〜沖縄先住民族問題②

ジュネーブにおける人知れぬ闘い〜沖縄先住民族問題②国連人権理事会本会議場 公式HPより

2024年4月30日 吉岡綾子(ドイツ在住)

 
◯ 最初の国連勧告が出されるまで
 
先住民族の国連的定義が無い状態で沖縄の人(ウチナーンチュ、定義の無い地方人名)は弾圧、迫害、差別を受けているとの決議勧告が出された。それはそのような訴えをわざわざスイスまで出向いてスピーチしてきた団体① が存在するからだ。これらの動きは2000年に入って以降、活発化していた模様だ。国連のシステムとして、先住民族の訴えがなされた場合、対日審査が行われる。ここでなんら反対意見が無ければ訴えは認められ、国連から最初の「沖縄先住民族決議勧告」が国連自由権規約委員会から出される。最初の勧告が出されたのは2008年のことだった。一度勧告が出されると、先住民族の報告者が国連へやって来て訴える度に国連側は「既に出された勧告を無視している」と捉え自動的に次の勧告が出されるというシステムだ。現在のカウンターグループ② がこの動きを察知したのはようやく2014年、4度目の勧告が出された時であったという。
 
この4月に「沖縄先住民族決議勧告撤回を求める派遣団」がジュネーブを訪れた背景には、前年の沖縄県知事である玉城デニー氏の国連スピーチが前段にある。玉城知事は「知事として」国連に訴えに行ったと様々な媒体で述べているし、スピーチの内容自体は米軍基地移設問題(政府方針と異なる)ではある③。が、ここには巧妙なテーマのすり替えが隠されていたのだ。国連人権理事会スピーチ枠に知事としての発言機会は無く、実際には民間国連NGO団体のメンバーとして玉城知事はスピーチを行っている。この団体は日本語名を「市民外交センター」というものだが、英語名は「先住民族」を表す’indigenous’ を冠したCitizens’ Diplomatic Centre for the Rights of indigenous Peoples’(先住民族の権利のための市民センター)であり、実際にスピーチに先立って『次に先住民族の権利のための市民センターです』と紹介されている。聴衆は沖縄駐留米軍基地の弊害によって先住民族である沖縄人(県民ではない)がその存在を脅かされている、という「先住民族問題の」訴えであると理解してしまう仕掛けになっている④。
 
○琉球王は独立派?日本派?
 
因みに琉球国王の末裔である尚衛(しょうまもる)氏(「琉球歴史文化継承振興会」代表理事)は現在も健在であり、沖縄には関して明確に琉球独立を否定している。
 
「沖縄の先人は、米軍統治下も琉球の独立も選ばず、自らの選択により日本への復帰を果たしたのです」「日本に復帰したことにより、あらゆる課題を解決する能力が飛躍的に拡大したのです」「皆様方の中には琉球民族としてのアイデンティティーを大切にしたいと願われる方々がいらっしゃるかもしれません。その想いは私も大切にして頂きたいと思います」「琉球國は歴史の一部分であります」「昔琉球國があり、私共の祖先は琉球の民として生きてきたこともありましたが、新たに日本人として生きる選択をした、というのが現在までの歴史であります」⑤
 
3月20日、国連ルームXXVにおけるサイドイベントで仲村覚氏のプレゼンが進み、尚氏のこの部分に差し掛かった時、聴衆にどよめきが起こった。先入観を持たぬ者には琉球独立派とそれがフェイクであると主張する者のどちらを是とすべきか判断に悩む。しかし王自ら独立を望まぬという意思を示したという事実は非常に重く説得力があったのだ。歴史と血筋に敬意を払う人々が世界にはまだたくさんいることに安堵を覚えた瞬間だった。
 
◯ 場外乱闘の場、国連
 
慰安婦、捕鯨、南京、アイヌ、、、日本がその歴史的解釈や戦後問題その他で国際的不利益を被っている諸問題はそのほとんど全ての震源地を国連(又はその付属機関)に依っている。むしろ国連そのものが被害者を創り出し、その被害者を護っているかのごとくに装い、各国に分担金の増額を要請し組織を太らせているなどという例をいくつも思いつけないだろうか?メリークリスマスも言えない社会がある。あなたは男らしいと言えば問題になる学校がある。ブラックライヴズマター、LGBT問題、、沖縄先住民族決議勧告もまた、それらと構造的に無関係ではない。
国連とは戦後、特にここ2〜30年の間に世界に蔓延るようになったキャンセルカルチャーと密接に結びついている組織だ。キャンセルカルチャーとは、特定の人物・団体の発言や行動を問題視し、集中的な批判や不買運動などによってその対象を表舞台から排除しようとする動きのことだ⑥。国連はそれらキャンセルカルチャーの発生地であると同時にその影響の及んだ地域から再び場外乱闘にもつれ込む戦いの場でもあるのである。
 

① 例えば「琉球民族独立総合研究学会(ACSILs)」又は「琉球平和連盟HPには日本語表記無し
② 例えば「日本沖縄政策フォーラム
“Okinawa Goverment Deny Tamaki seeks groval attentions on U.B. Base concentration”
玉城知事国連スピーチ
琉球王家の現当主、沖縄復帰50年で初めて見解示す
キャンセルカルチャーとは?

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