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払い損なし?シンガポールのお得な年金制度

払い損なし?シンガポールのお得な年金制度

2024年6月10日
大下千恵(シンガポール在住)

 
前回はシンガポールの歴史や、政府が強いリーダーシップを発揮させて、資源のない国シンガポールがどのようにして先進国レベルまで急激な勢いで発展したかについて触れました。今回はシンガポールの年金制度、中央積立年金 (CPF) Central Provident Fundについてです。
 
まず日本とシンガポールの年金制度の違いですが、日本の場合は『賦課方式』で、 現役世代が支払った年金が、今のリタイア世代の年金支払いに使用されています。
一方でシンガポール は、『積立方式』で、自分で積み立てたお金に利子がついて自分に戻ってくる仕組みになっています。
 
払い損なし?シンガポールのお得な年金制度
CPF積立方式とは、雇用主と従業員が給料に応じた一定額を強制的に積み立てさせ、それをCPFボードという政府機関が運用し、老後の年金として支給する制度*です。
 
給料から雇用者は20%、雇用主は17%天引きされ、 CPFボードのポータルサイトに個人が国⺠ID(日本で言うマイナンバー)でログインし、今の積立額を受給者一人一人が確認でき、またリタイヤまでにいくらの支給額があるかも同時に分かるので、日本と違って受給年齢になっても本当に年金がもらえるのかどうかの心配は不要です。
 
払い損なし?シンガポールのお得な年金制度
源泉徴収されたCPFは、まず3つの各個人の口座に規定の配分で振り分けられ、それぞれ利回りが異なります。
 

1. Ordinary Account(OA) 2.5% – 住宅の購入費及び住宅のローン、子供の教育費、保険、投資 (投資先はCPFの将来の受け取り額を多くするために、政府が定めた投資商品のみ運用が可能)

 

2. Special Account (SA) 4% – 老後の年金、緊急時の一時支出に限定して使用されます

 

3. Medisave Account(MA) 4% – 入院保険でカバーしきれない分をここから支払えて、家族間で使用できます

 

(4). Retirement Account (RA) 4% -55歳になった時点で、OAとSAの残高をさらに高い利回りが得られるリタイアメントアカウントにシフトできます

 
利回りは年によって異なるようですが、最低でも2.5%の利息は保証されており、更に積立金と利子については非課税です。
 
Retirement Account (RA) 口座の残高は55歳から引き出し可能ですが、引き出し額は$5000(日本円で50万程度) までです。これはシンガポールでも、カジノができてから問題になっている、ギャンブル依存で破産する高齢者を防ぐためなど、安易に老後の資金を引き出しをさせないように足枷を設けているようです。これもシンガポールらしく国民をしっかり管理している一例かと思います。
 
そして老後資金を引き出せるのは65歳からで、65歳から受給の意思表示をするとCPF payoutという年金支給が開始されます。ここで意思表示をしない場合は、70歳から自動的に支給が始まります。自分が支払った金額よりも受け取る金額が少なくなることは無く、2.5%以上の利回りを 政府が保証しているので、日本のように今後少子化が加速し、年金を払える働き手が激減した場合についても受給の心配はないとされます。
またCPFポータルにログインするといくら積み立て金があるか、それをいつからいくら受給できるかも確認できるので安心感もあります。
シンガポール人のほとんどの方が30歳前後でこの CPFという資金を使用して、公団住宅(HDB)を購入しますので、シンガポールの持ち家率は9割、大多数のシンガポール人は一定の生活水準が維持されています。
 
これは国がしっかりと舵を取り30代前後の早い段階でCPFの資金を使用させ、まずは生活の基盤である持ち家を持たせ、国民の生活を安定させているシンガポールならではの制度ではないかと思います。
 
CPF制度の問題
 
非常に優れたように見えるCPF制度ですが、いくつか問題点も抱えています。
 
そのうちの1つにシンガポールの物価の高騰が挙げられます。今やシンガポールの物価はニューヨークを超えて世界一*です。先述した持ち家というのは、シンガポール政府が日本で言う公団住宅(HDB)をシンガポール国民に手頃な価格で提供し、シンガポール国民の80%の方がこのHDBという公団住宅に住んでいます。しかしここ2、3年でシンガポールの不動産、賃貸の値段が高騰しており、例えばこのHDBの価格も中心のオーチャードロードから電車で30分程度の場所であればS$40万ドル(4500万円)程度まで上がっていますので決して安くはありません。
 
またシンガポールは車の購入価格が世界一高いです。これは国土が狭いので政府が自家用車の所有を制限し「COE(Certificate of Entitlement)」と呼ばれる「車の権利証明書」制度を採用していて、その権利書購入がとても高いという理由があります。
1例として、トヨタ カローラクラスの新車価格は約S$16万 (約1800万円)程度しますので、車の所有率は人口の15%程度*に留まっています。これもシンガポール政府が 狭い国土が車でいっぱいになり、渋滞だらけになる状況を強制的に避けさせようとコントロールしている1例です。

 
またシンガポールの外食費はとても高いです。例えば日本で有名なラーメン屋さんがこちらにも出店していますが、同じお店のラーメンが日本では1,000円弱だと思いますが、シンガポールではS$25程度(2,500円)それにGST(消費税)9%とサービス税が10%かかりますので日本円で3000円近くになります。
 
では現地の人々はどうしているのかと言いますと、こちらの方はほとんど自炊をされないので、街中あちらこちらにあるホーカーセンターという屋外のフードコートのようなところで安価に食事をしています。例えば、シンガポールで有名なチキンライスはS$5(500円)くらいです。ただ少し前までは地元の方も手軽に食べていたホーカーセンターでさえ$2から$3程度値上がりしているようです。
 
払い損なし?シンガポールのお得な年金制度
実際シンガポールで生活するのはとてもお金がかかります。国が国⺠の老後にしっかり備え、徴収した年金を運用、そしてそれを国民に還元していくというシステムは、日本の不透明な年金制度より安心できる国民ファーストの制度の1つであるかと思います。
 

参考文献

* 厚生年金、国民年金(基礎年金)の財源と給付の内訳

* Central provident Fund Board

* 世界で最も生活費が高い都市2023、1位はシンガポールとチューリッヒ、上昇率トップは「食品」

* シンガポールの交通事情

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