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2024.07.03

「ドイツのための選択肢」〜顔を持たぬ新興勢力

「ドイツのための選択肢」〜顔を持たぬ新興勢力

令和6年7月2日 吉岡綾子(ドイツ在住)

 
6月6日〜9日にかけて行われた2024年欧州議会選挙において、各国の反グローバリズム政党が目を見張る躍進を遂げた。これらの勢力を定義する時、筆者は「反グローバリズム」という表現が最も適切であると感じているが、メディアはこの呼び名を使用しない。極右又はポピュリズム政党と呼ぶ。グローバリズムの弊害を大衆に意識させない意図がここには滲み出ている。
 
イタリアのメローニ、ハンガリーのオルバンなど、行き過ぎたEUのグローバル全体主義に反旗を翻し、家族や国家、民族の団結に回帰を促す指導者たちが注目される中、政党の名前こそ有名になったものの、看板となる「顔」を明確に思い浮かぶことが出来ない政党名がある。ドイツのAfD「ドイツのための選択肢」だ。AfDに対する国際的な関心が高まる中、今年結党11年を迎えるAfDは15.90%を取りドイツ第二党へと躍進した。
 
1. 結党の歴史
同党は反ユーロ政党として登場した。2009年末ギリシャの膨大な財政赤字に端を発する複数のユーロ加盟国債務危機を受け、EU、特にドイツを中心とした金融支援策が打ち出されていった。これらを受けてドイツでは債務国の救済に反対する様々な運動が展開していった。 ハンブルク大学の経済学教授B. ルッケは救済メカニズムへの反対表明として2010年10月、ネット上に経済学者の組織「経済学者総会」を設立。2012年にはユーロ救済メカニズムの制度化(ESM 欧州安定メカニズム) への反対の声が強まり、翌年の連邦議会選挙を視野に入れたESM に批判的な政党を支援するための足場として「選挙選択肢2013」が設立された。これが足掛かりとなり半年後に誕生したのがAfDである。2013年2月のことであった。
共同代表(B. ルッケ、K. アダム、F. ペトリ)は3名、実質上ルッケが党の「顔」であった。
 
2013年9月の連邦議会選では4.7%を獲得し「AfD現象」とまでいわれる風を起こしたが5%の議席要件は満たせなかった。続くヨーロッパ議会選挙では7.1%の得票率を記録し、ドイツに割り当てられている96議席中7議席を確保。更に旧東ドイツ3州における州議会選挙ではそれぞれ10%前後を獲得し、州議会進出を果たした。この背景には急激な移民受け入れやドイツのイスラム化に対する懸念がある。
同時に移民、EU、家族などの政治テーマを巡り党内対立も表立っていく。翌2015年には旧西ドイツ地域でも州議会にて議席確保。同年7月臨時党大会で党首選に敗れたペトリが離党、党大会後1週間で党員21,000人のうち10%弱が離党したといわれる。こうした中でAfDは愛国、ナショナル保守主義の傾向を強めていく。この頃、財政危機に再度陥ったギリシャへの金融支援を巡る関係諸国の合意が得られ、この問題が一応解決に向かっていた時期でもあり、また大量の難民(89万人)が押し寄せた年でもあった。難民の受け入れを巡っては好意的なドイツ市民が歓迎の意を示す一方、各地で難民受け入れ反対運動も展開された。難民収容施設への襲撃・放火が後を絶たず、難民たちも収容先でトラブルを起こした。有名なものは2015年大晦日のケルンにおける女性への集団暴行事件である。この年の前後にはパリやブリュッセルなどでコンサートホールやレストランを襲撃する前例のないテロが発生しており、これらにイスラム系移民や難民の関与があったことが彼らへの国民的反感を高め、AfDを躍進へと導いたと言える。①
 
2. 14の綱領
2016年の党大会にて議決された綱領は14のテーマからなる。ここに特質的な部分を抜粋する。太字は綱領原文中も太字の重点政策、カッコは綱領カテゴリーを示す。
 
ヨーロッパを中央集権的な連邦国家にしてはならない(2.ヨーロッパとユーロ)
これが実現出来ない場合、欧州連合(EU)からのドイツの脱退、あるいはEUの民主的な解散と欧州経済共同体の再確立を目指す
 
大量移民の代わりに子供を増やす(6. 家族と子供たち)
専業主婦への差別をやめよ
中絶を人権であると宣言したりするあらゆる試みに反対
 
ドイツ語は、他の多くの国の例にならい、国家言語として基本法に明記されなければならない
AfDは、誤解された「国際化」という意味で、ドイツ語が英語に取って代わられたり、「ジェンダー化」されたりすることを懸念している。政治的に「正しい」言語要件を断固として拒否する (7 文化、言語、アイデンティティ)
イスラム教はドイツのものではない
公共放送受信料の廃止
 
“ジェンダー研究 “はもういらない(8 学校、大学、研究)
 
法的に拒否されたすべての亡命希望者は、自発的に対応する出国要請に応じない限り、直ちに国外に退去させなければならない。国外退去を要求された外国人には、滞在のインセンティブを与えてはならない(9 移民、統合、亡命)
 
社会制度への直接移民の受け入れ禁止
 
官僚主義を排除し、国家補助金を削減し、中小企業を強化する(10 経済、デジタル社会、消費者保護)
 
飲料水を守れー市民の意思に反して民営化するな
 
中低所得者に経済的救済を提供するために低い税金を使用する、よりシンプルで公平な税制に賛成である(11. 財政と税金)
家族に対する税負担の軽減
 
気候保護政策:迷走を止め、環境を守れ(12.エネルギー政策)
省エネ条例と再生可能エネルギー法の廃止
バイオエネルギー:補助金廃止、優先給電停止
電力供給が十分に確保されていない限り、現在も稼働中の原子力発電所の運転期間を暫定的に延長
風力エネルギーの無秩序な拡大を阻止する
 
医療と農業における遺伝子組み換えの使用は、明確に定義された枠組みの中で、届出機関による慎重な審査の後にのみ認可されるべきである。遺伝子組換え飼料や食品、あるいはそれらに由来する製品は、表示されなければならない。(13.自然と環境、農業と林業)
地域に根ざした近代的な農場発がん性物質の可能性があると分類されているグリホサートの植物保護への使用に反対
農村地域の強化
持ち家を促進し、土地譲渡税の軽減や、非営利の住宅協同組合や住宅協会の強化など②
 

この様に列挙するだけで、AfDの抱える問題意識がいかに日本のそれと共通課題を持っているかが浮き彫りになる。移民や気候変動、エネルギー問題だけでなく、公共放送料金問題や飲料水を巡る公共事業民営化問題、少子化問題まで焦点が当てられているのである。そしてその総括的課題として欧州という総体の向かうグローバリズム全体主義をいかに食い止めるか、という問題提起がなされているのである。
 
これら現代ドイツの抱える病巣を詳(つまび)らかにする政党AfDがドイツの社会に「公式」に受け入れられているのかといえば、実態としては真反対の現実がある。危険な極右として迫害される政党AfDの受難については頁を改めて説明していきたい。
 

① Etappen der Parteigeschichte der AfD bpb Bundeszentrale für politische Bildung
② AfD Programm für Deutschland (Grundprogramm Alternative für Deutschland)
 
〈参考〉
◯ AfD https://www.afd.de/
◯ Wikipedia: Alternative für Deutschland

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