2021.04.24
日英同盟とクアッド
2021/04/24 池田みえこ
2006年安倍前首相が4か国戦略対話を提示したのが契機となった、自由で開かれたインド太平洋戦略であるクアッド(Quad:日米豪印)は現在、各国から注目を浴びている。
4月5日から3日間、インドのベンガル湾でフランスと海上合同軍事訓練を開始した際、韓国の東亜日報は「クアッド、フランスと海上軍事訓練『勢力拡大本格化』」で、「 クアッドに属する4か国が、加盟国ではない他の国と一緒に訓練するのは初めてである。オープン性と拡張性を強調し、クアッドを拡げようとする米国の「クアッドプラス」構想が本格化したという分析が出ている。 」と報じた。
https://www.donga.com/news/Inter/article/all/20210405/106258499/1
また同月7日同誌の「欧州で拡がりを見せているクアッド、韓国参加の機会は閉ざされたか」では、「ドイツは今年の夏に、(クアッドを)サポートするためインド・太平洋地域の偵察護衛(フリゲート艦)一隻を派遣するという立場である。また英国政府は、先月発刊した報告書において『今後、地政学的中心が、インド・太平洋地域に移行するだろう』とし、『対中国の対応能力を向上させる』」ことを明らかにした。
https://www.donga.com/news/Politics/article/all/20210407/106282713/1
今年に入り韓国メディアは、連日クアッドの動向を見つめている。
2月5日朝鮮日報の「日英同盟119年ぶりに復活か、『中国を牽制、力を集めよう』」では、1902年日英同盟の復活というタイトルを付けて次のように解釈している。
「119年前、同盟を結んだイギリスと日本が最近急速に密着して準同盟関係に発展している。 1902年ロシア南下を防ぐ目的で同盟国になった二つの国が、中国牽制と経済的な理由を媒介に結束するようだ。日本は対中牽制のための友軍を得たことになり、英国はブレクジット(Brexit・英国の欧州連合脱退)後の、国際的な影響力を補うという利害関係が一致した。」
またこの 「日英同盟の復活」は、「英国が最初に主導」したという。
「英国のキャメロン政権は、2015年から戰後初めて日本がオーストラリア、ニュージーランドのように『価値観を共有する国』であると手を差しのべた。中国の牽制のため欧州諸国の支援が必要な日本は、英国の手を固く握った。また同年、両国では2 + 2会議が初めて開催され、安全保障・経済面で協力することになる。 2018年には日本国内で初めて、両国軍が共同訓練を実施した。イギリス軍が国連制裁による北朝鮮船舶の監視活動に参加したのも、この時からである。」とし、「英国は欧州連合脱退を決定した後「アジア回帰」を決定し、日本との関係を改善している。昨年、両国はコロナ事態の中でも、自由貿易協定(EPA)を締結した。」と、時系列をもって2国間の接近過程を伝えている。
そして「両国にとって重要な多国間協力体においても、お互い支援し合う現象が目立つ。日本は中国に対抗する米国・日本・オーストラリア・インドの4カ国の安全保障協力会議(クアッド)を英国を含めてクインテット(quintet・5人組を意味する)に拡大することを支持している。英国は、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと機密情報を共有するファイブアイズ(Five Eyes)に属しているが、日本が参加しシックスアイズとして改編されることを願っている。」と言及している。
https://www.chosun.com/international/2021/02/05/PWTJFKLZAFHE5N46EW4R6IYGNU/
今から約100年前、日英同盟の締結は世界を驚かせた。
明治維新からわずか50年で近代化を成し遂げ、日の沈まない大英帝国と「同盟」を結んだ当時の日本は、地図上では極東の列島に過ぎなかった。当時イギリスにとって対ロシアの代理戦争役であった日本は、その後も西欧列強たちに引きずられ第2次世界大戦の敗戦にまで至ってしまう。そしてその後遺症が、現在においても続いている。
しかし今回のクアッドや日英同盟の復活といわれているこの現状は、あの時とはまったく違う。
地政学的にシーパワーである日本は、同じシーパワーであるアメリカ・オーストラリアやインド(大陸側がヒマラヤ山脈で遮られているので、ラウンドパワーよりはシーパワー的)やイギリスと共に、対ラウンドパワーである中国などを牽制するために、最も適切な同盟国であるといえるのではないだろうか。 特に日米同盟だけに依存しがちな日本にとって、多国間との関係性構築はありがたい。
何よりもこの自由で開かれたインド太平洋戦略構想であるクアッドは、「日本発」であるということである。本文初頭でも言及したように、安倍前首相の提案からこの動きのすべてが始まった。きっと世界全体を俯瞰した大戦略構想があるのだろう。
そしてまた、個性的な国々をアンダーテーブルで上手にコントロールし、取りまとめることができるのは、調和を重んじる国である日本しかない。特に国際金融社会の中で、疲労しつつあるアメリカやイギリスとその他の国々の調整役となって、世界の「バランサー」としての位置を確保していくために、今後日本は重要な役割を果たしていくに違いない。
長い歴史の中で私たちが教えられてきたことは、先人たちはあらゆる危機をも乗り越えてきたということである。そんな命のバトンを受け継いだ私たち一人ひとりのDNA中には、その先人たちの熱い想いが脈々と流れている。今私たちにできることは、決して現状を憂いだり悲観することではなく、この美しい国日本を強く、賢く守り抜いて、未来の子どもたちにこれら全てを引き継いでいくことだろう。世界にはない日本だけが持つ「シラス国」としての在り方を、個人においても国家においても、今こそ世界に顕していきたい。
フリー画
https://www.photo-ac.com/main/detail/4603098?title=Quad&searchId=1894838757