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2021.05.26

【東アジアに集結する多国籍チームの目的は?(後編)】

2021/05/26 台湾軍事ニュースネット

前編では過去半年間の動きとして日米同盟の動向、クアッド参加国の動向、欧州NATO軍・ファイブアイズ参加国の動向、ASEAN諸国の動向などをここで紹介した。後編ではここ一ヵ月間の欧州勢、とりわけ大きな動きのあったフランスとイギリスを軸に紹介したい。また周辺状況ではあるが、米韓首脳会議で再確認された韓国の立ち位置にも少し触れておきたい。そのあとこれらの事象に対して中国人民解放軍の反応と習近平政権の考えられる選択肢に関して議論していきたい。

ここ一か月の動き

積極的なフランスの動きとその目的:

昨年末(2020年)から原子力潜水艦と支援船を東アジアに派遣してきて、米軍や自衛隊と日本近海で演習を行っていたフランス軍の動きを記憶されている方もいるかと思う。(参考資料;22)

そのフランスが今年の春に大型の強襲揚陸艦とフリゲート艦を再び派遣してきていて、日本の沖縄や佐世保に寄港した。佐世保寄港の目的は日米豪の海軍・海自とARC21という日本の水陸両用部隊や米国海兵隊員と離島防衛の演習を行うことであった。(参考資料:23)

またフランス軍は水陸両用作戦の演習だけでなく、在日米軍や陸上自衛隊と東富士演習場で史上初の日本での陸上演習も行っている。(参考資料:24)

今回フランスが極めて積極的と言えるほど東アジアに強い軍事力を派遣して来ている理由と目的を、フランス太平洋軍の司令官(少将)は次のようにインタビューに答えている(要約)。
・フランスは太平洋地区に領土を持つ国家
・フランスの権益を守るのが目的
・ヨーロッパの国で唯一太平洋に軍事力を持つ
・航行の自由作戦には参加しないが、国際的に定められた水域を自由に航行するのは権利
このような考えで今回軍事力を派遣してきている。(参考資料:25)

イギリス空母発進とその目論見:

一方イギリスの空母クイーン・エリザベスは、エリザベス女王臨席のもと母港のポーツマスで出発の式典を行った。英メディアの記事によると、空母打撃群は日本、韓国、シンガポールを含む40ヶ国を訪問し、地中海での仏空母シャルルドゴールとの並走を含め70の活動を計画している、とのことだ。(参考:26)

EUを離脱した英国は経済低迷の続くヨーロッパを離れ、再びグローバル国家として成長しようとしていると思う。そのために環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)への参加申請も既に行っている上、クアッドへの参加希望も明確にしている。またインドにおけるコロナ蔓延の為オンライン会議になったとはいえ、ジョンソン首相は自らの初の外遊先にインドを選んでいる。つまり経済成長の軸足を中国・ヨーロッパから、インド・日本・太平洋に移そうとしているのがはっきり感じ取れる。(参考資料:26、27、28)

米韓首脳会議:

アメリカのバイデン大統領と韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領による首脳会談の共同声明で、両国は南シナ海での航行の自由や人権の重要性に言及したが、中国を名指しせず刺激することを避けた。これは米国の韓国に対する諦めにも近い配慮からであろう。この米韓共同声明に比べると、一ヵ月前の日米首脳会談の共同声明は、南シナ海での中国の不法な海洋権益に関する主張や活動への反対を表明し、香港や新疆ウイグル自治区の人権状況に対して深刻な懸念を示しているので、他の西洋先進国よりは弱いが、それなりに頑張っている印象だ。筆者としては、アメリカは韓国に対して不満であるが、きついことを言って敵側に追いやるよりも、できる範囲で味方側の周辺においておけば良いという考えだろうと推測している。もちろん韓国のクアッドへの参加要請もなかった模様だ。多分元から誘う気もなかったけどブラフで使ったかも知れないと観測している。

中国の動き

中国の政治的反発:

このような西側先進国の中国に対する動きに対して、中国は敏感を通り越して過敏に反応している。またその表現方法は直接的で威圧的で、戦狼外交そのものである。4000年の知恵を持つ国がなぜこのような自国を不利にする表現をするのか、理解に苦しむ。

例えば今年4月に開催された日米首脳会議後の共同声明に対して、在米中国大使館は17日、共同声明が台湾や香港、東シナ海などの問題に懸念を示したとして「中国の根本利益に関わる問題で、干渉することは許されない」と反発する報道官の談話を発表した。「自国の根本利益だから干渉するな」問答無用という論理を見る限り、国際社会の一員として生きていく気はないというようにとらえざるを得ない。(参考資料:30)

また3月にビデオ会議で開催されたクアッド首脳会議にも反発しており、中国外交部の趙報道官は、「冷戦の心理状態とイデオロギー的偏見」に主導されていると論評。この集団は「小さな派閥を形成する」のではなく、地域国間の「連帯と協力」を促進すべきである、と参加国のアメリカ、インド、日本、オーストラリアを名指しせずに付け加えた。抑制が効いて参加国を名指ししないのは良いとして、この声明をもとに何らかの話し合いを始める手がかり感じられない。中国国内向けの論争のロジックを使っているように感じられる。(参考:31)

日本や米国に対する中国の態度はまだ抑制が効いていると思うが、それが中国との対決姿勢を強行に出しているオーストラリアに対しては遠慮のないもので、英国のメディア・デイリーメールは、「中国警告:北京は南半球に届く弾道ミサイルを持っている。「取るに足らない」国が中国の問題に干渉するなら、オーストラリアは「最初の目標」になるだろう」と、中国の官製メディア環球時報の報道を伝えている。これは脅迫以外のなにものでもなく、時期も豪海軍が5月17日に東シナ海の米仏日との演習を完了した日に発表されている。もちろんこれは国内向けという意味が強いのだろうが、国際的にどのような波紋を呼ぶかという推測もできないほど外交が劣化しているとしか言いようがない。(参考:32)

中国の国内法整備では先日の海警法の改正(改悪)は広く知られているが、「海上交通安全法」の変更も進めている。これは、中国の海事当局が「脅威」があると判断した外国船に、領海からの退去を求めることを可能とする内容だ。尖閣諸島における中国公船の活動強化につながる恐れもある。(参考:33)

中国の軍事的反発:

中国包囲網に対して政治的に強いメッセージを発表している中国だが、軍事的にどのような行動をとっているか、見ていきたい。

まず、中国にとって「虎の子」の空母を使って、宮古海峡で第一列島線を突破させている。しかも合計6隻で空母打撃群もどきを編成している。なぜここでもどきという言葉を使ったかというと、空母を防衛するのに必要な防空能力をもったイージスミサイル艦や海中を守る潜水艦にのみならず、水平線の向こうの敵を感知する早期警戒管制機も連れていない。厳しい言い方をすると、空母打撃群ごっこをしているわけだが、軍事的事情を分からない人に対しては十分威嚇効果はあるだろう。(参考:34)

また中国の官製メディア、環球時報は人民解放軍海軍南部戦区の遠征部隊の訓練の様子を伝えている。それによると、人民解放軍は海軍だけでなく、陸軍、空軍、ロケット軍、戦略的支援部隊の合同で水陸両用揚陸演習を行ったことを述べている。071型水陸両用揚陸艦が海軍の海兵隊員を乗せた726型エアクッション型揚陸艦(LCAC)送り出し、それを空軍のSu-30戦闘機とH-6K爆撃機が支援したと強調している。このような統合的に離島攻撃・防衛の訓練を行っていることを誇るように、その様子をCCTVの番組で放送している。(参考:35)

人民解放軍は近代的な戦争だけでなく毛沢東・朱徳のゲリラ戦理論を海上に展開した、海上民兵を使い、フィリピン海のスカボロー礁周辺を占拠させ、密漁させている。海上民兵の実際は人民解放軍海軍の退役軍人で構成され、軽武装もしている。しかし表面上は漁船・漁民の顔をしているので、海上民兵を攻撃すると、「民間人を攻撃した」と非難するという卑怯な手である。(参考:36)

つまり、人民解放軍としては一歩も引かないという形を見せている。ただこれがチキンレースのポーズなのか、超限戦で多国籍軍を崩壊させる自信からきているものか、見分けるのは難しい。

習近平政権は多国籍軍にどう対応するのか?

英国の報道によると今回英国が空母打撃群を派遣する費用は約4,300億円といわれている。これは日本の防衛費の1割にあたるもので、軍事費の対GDP比が高いとはいえ、日本より経済規模の小さい英国にとっても少なくない金額だ。ちょっと俗な言い方になるが、それだけの費用をかけてくるからには、なんらかの成果、それも金額に換算できる成果を期待しているはずだ。英中間の香港返還協定を反故にされて、英国が怒っているというのは事実だが、その理由だけでは動かないと思う。(参考:37)

多国籍軍が東アジアに到着して人民解放軍と対峙した時にどのようなことが起こるか、シナリオを推測してみると次のようになると思う。

【東アジアに集結する多国籍チームの目的は?(後編)】

筆者の予測だが人民解放軍側は「海上民兵の活用」、「親中派・媚中派による政治的工作」を強めるというのがあり得る線だろうか?逆に多国籍軍側がどこまでやるかという主導権を握っていると思う。今回全体を率いている英国にすれば香港の民主化で何らかの成果をあげないと、かけた費用に釣り合わないという世論が国内で沸き起こると思う。来るぞ、来るぞと言いながら、なかなか空母が到着しないのは、ウラで英中政府間が交渉しているからだと思う。

おわりに

対ソ連冷戦時代にはNATO軍の中核を担っていたドイツが、「フリゲート艦を派遣する」と言ったきりで、何ら行動に移していない。この時点で中国の影響が感じられる。もう一つ不思議に感じるのは、オランダの艦船が英国の空母打撃群に加わっていないことだ。少し前まで、英蘭の艦隊と言われていたのに、現状では英仏中心にスカンジナビア諸国を加えた形になりそうだ。これが何を意味しているのか?
国際紛争なのにまたカネの話かと言われそうだが、彼らが莫大な費用をかけて動く以上、それ以上の見返りがあることを意味している。その確信がないのに動いてしまったら、ジョンソン首相の責任につながるからそのようなことは考えづらい。英空母が、スエズ運河を超える前に動きが遅れれば、中国との交渉が難航しているということだろう。見返りが決定しても、それが直ぐに表面に出ることは無いと思うが、そのうち判明すると思うので引き続き見守っていきたい。

参考資料
参考資料22(英語):ALPACI – France Pacific Command, 2021/04/11、
https://twitter.com/ALPACIFRAPACOM/status/1381039634218508288

参考資料23(英語):日本で、フランス軍、米軍、オーストラリア軍と自衛隊が参加する、ARC21完了…仏太平洋司令部、2021/05/20。
https://twitter.com/ALPACIFRAPACOM/status/1395135659837321217

参考資料24(英語):米国海兵隊と陸上自衛隊が、東富士演習所で実弾射撃訓練…米国太平洋海兵隊TW、2021/4/23
https://twitter.com/PacificMarines/status/1385342844164984832

参考資料25(英語);東アジアに軍事力を派遣して来ている理由と目的、2021/05/11、
https://news.usni.org/2021/05/11/interview-french-indo-pacific-commander-rear-adm-jean-mathieu-rey

参考資料26(英語):エリザベス女王が、遠征に出発する空母打撃群の旗艦空母クイーン・エリザベスをポーツマス港に訪問した…英メディア、2021/05/22、
http://portsmouth.co.uk/news/defence/hms-queen-elizabeth-queen-visits-portsmouth-ahead-of-flagships-maiden-operational-deployment-with-carrier-strike-group-3246712

参考資料26(日本語):イギリスが加入申請 TPPの行方は? 2021/2/25、
https://cigs.canon/article/20210225_5643.html

参考資料27(英語);英国は中国に対抗するため、アジア版NATO参加を提案中、2021/01/27、
https://www.telegraph.co.uk/politics/2021/01/27/britain-could-join-asian-nato-proposal-expand-membership-counter/amp/

参考資料28(英語);英国首相ジョンソン氏、初の外遊先としてインドを4月に訪問 アジア回帰が明確…インドメディア、2021/03/16、
https://www.wionews.com/india-news/uk-pm-boris-johnson-to-visit-delhi-on-april-26-will-head-to-pune-too-370966

参考資料29(日本語):米韓首脳 共同声明で中国名指しせず 刺激避けたい韓国に配慮か、2021/05/22、
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210522/k10013045691000.html

参考資料30(日本語):中国、日米共同声明に反発 「干渉許さない」と不満を表明、2021/04/17
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210417/mcb2104171844002-n1.htm

参考資料31(日本語):始動したバイデンのアジア外交に中国が反発 クアッドは「アジア版NATO」、2021/03/17、
https://www.newsweekjapan.jp/amp/stories/world/2021/03/nato-25.php

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