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2021.09.12

混迷を深めるアフガニスタン情勢、タリバンは全土支配を確立できるか?

2021/09/01 台湾軍事ニュースネット

 

混迷を深めるアフガニスタン情勢、タリバンは全土支配を確立できるか?

 

日本の自衛隊機がアフガニスタン在住の邦人及び日本大使館などのアフガニスタン人スタッフの救出に派遣されたことは記憶に新しいと思う。残念ながら派遣の時期を逸したこと、現実に合わない法体系や、テロが横行する現地の事情のため成果は上げられなかった。日本人にとってなじみが薄いアフガニスタンの、列強とかかわってきた歴史的経緯、地政学的意味から始まって、今回のあっけないカブール陥落と今後を論じてみたい。

 

歴史的背景

帝国の墓場:

ツイッターアカウント’ian bremmer’の漫画(参考資料:1)が端的に近代アフガニスタンの近代史を示している。最初に登場したのは19世紀後半のイギリスだ。中央アジアに進出したロシアから当時植民地であった英領インド(今のパキスタンを含む)を守るため戦争を起こしアフガニスタンを保護国としたが、20世紀初頭にアフガニスタンが英領インド帝国に攻め込んで独立を認めさせている。

 

次のプレーヤーはソ連だ。アフガニスタンでの新ソ連政権の崩壊とそれが自連邦の中央アジアの国に波及することを恐れたソ連が1978年にアフガニスタンに侵攻したが、激しい反発に遭い多くの死傷者を出し1989年に撤退している。(参考資料:2)

 

3番目に登場したのは米国だ。2001年に米国で発生した9.11同時多発テロ、ワールドトレードセンターへの旅客機の突入事件などがアフガニスタンに拠点を置くアルカイダによるものだと断定し、アルカイダを支援するタリバン政権を崩壊させ、アフガニスタンに「民主政権」を作り経済的・軍事的に支援してきた。しかし20年以上に渡って巨額の支援をし、多くのアメリカ人の兵士の命を失ってもアフガニスタンは安定しなかった。そのため当時のトランプ大統領は「我々の国民を帰国させるべきだ」と訴えタリバンと交渉を始め、その路線を継いだバイデン大統領が9月に撤退することを決めた。(参考資料:3)

 

’ian bremmer’の漫画に’Next up, China’と書かれているように、次に登場するのは中国かもしれない。ウイグル人が住む新疆ウイグル自治区とアフガニスタンは細い回廊で領土を接している。また一帯一路政策の要パキスタンなどでプロジェクトを進める中国にとって非常に関心の高い国だと言える。(参考資料:4)

 


地政学的見地

民族の十字路:

アフガニスタンは海のない内陸国で南をパキスタン西はイランに接している。北は北東から反時計回りにタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンと国境を接している。前述したように中国の新疆ウイグル自治区とは東側の細い回廊で直接接している。インドとは国境を持っていないがタリバンの友好国パキスタンを挟んで面している。

 

古来この辺りは「民族の十字路」といわれ東西にシルクロードに沿って移動するトルコ系・イラン系民族と、中央アジアの内陸部からインド洋に出ようと南北に移動する民族の交わるところであった。

 


今回の事態

アメリカの決意:

トランプ大統領が撤退の方針を決めそれを引き継いだバイデン大統領が今年4月に「9月11日までにすべての米兵を撤退させると発表した」。(参考資料:5)この発表は唐突なものであったし4月から9月まで半年もないので実現性に疑問を抱く人も多かったが、圧倒的な軍事力を過信するアメリカは、スケジュールが遅れれば延長すれば良いと思っていたふしがある。

 


中国の動き:

今回の中国の動きの中で一番興味深いのは王毅外相が天津でタリバンの幹部と会談しそれを公表したことだ。(参考資料:6)。この時筆者は中国がタリバンに武器と資金の援助をする代わりに新疆のウイグル族を助けない、自分の勢力範囲で中国人相手のテロを起こさない、インドでテロを起こしてヒマラヤ国境に割けるインドの兵力を弱めるという取り決めがなされたと分析していたが、実際はカブール陥落を早めるという話し合いもなされたかもしれない。

 


あっけないカブール陥落:

筆者がアフガニスタンからの米軍の撤退が速いペースで進んでいるのを感じたのは、8月11日に横須賀基地を母港とする空母ロナルドレーガンが、アフガニスタンの南のインド洋で発見された時だ。その時は、「9月11日を撤退期限としているのにずいぶん早い行動だな」と思っただけだった。(参考資料:7)

 

その次の関連記事は、なんと国連代表団がアフガニスタン北部のマザーシャリフから脱出したという緊迫したものだった。(参考資料:8)マザーシャリフはカブールから300kmほど離れているので、事態は急を告げているがまだ数か月は持つだろうという印象だった。また8月12日に米国での報道の「カブールが90日以内に陥落の恐れ」という情報を時事通信が流したので、その時は米軍が撤退するとアフガニスタン政府軍の命は3か月しか持たないのかというのが正直な感想だった。(参考資料:9)

 

ところが「90日以内」の記事の3日後にBBCが「アフガニスタン首都も掌握 ガニ大統領は出国」という速報を流した。(参考資料:10)あっけない陥落であった。このあっけない陥落の裏には米国とタリバンの密約など色々な説があるがそれについては別の記事で分析してみたい。

 


アフガニスタンは安定するのか?

これでアフガニスタンが安定すればまだそれなりに納得できるのだが、ひょっとしたら長い混乱した内戦の始まりなのかもしれない。前述の「民族の十字路」でも触れたがアフガニスタンは複数の民族が複数の言語を話し複数の文化を持つ国だ。最大の民族パシュトゥーン族ですら40%程度の割合しかない。タリバンも一枚岩ではなく各地の伝統的族長が力を持っておりその集合体だというのが実情だ。タリバンが有利ならタリバンの看板、国軍が有利なら国軍の看板を掲げるフランチャイズのような族長支配の地方政権の寄せ集めだ。

 

もうすでに北部パンジール州では反対の火の手が上がっている。(参考資料11)。これが全国に飛び火しないとは限らない。今までは米軍を追い出すことやガリ政権を崩壊させることで協力できたが、分け前の分配やどの民族がどのポストを取るか、政権の方針をどうするかなど火種は山ほどある。またIS勢力も根強く国内に残っており8月末にカブール空港で米軍兵士が13人死亡したISによるテロも記憶に新しいだろう。

 


おわりに

現時点でパキスタンと中国がタリバン政権を承認している。ロシアはカブールに大使館を残しているが政権承認は様子見だ。一番警戒しているのはインドだ。アメリカがアフガニスタンを支配している間タリバンを支援してきたのはインドの仇敵パキスタンで、タリバンの基地がパキスタンにあるのは疑いようがない。インドとしてはタリバンがインド・パキスタン国境を越えてインド国内でテロを起こすことを一番警戒している。

 

中国はタリバンの機嫌を取っているように見える。王毅外相が天津でタリバン幹部と会談したことを公開して仲の良さをアピールしているが、実はパキスタン国内での中国人に対するテロが何件も報道されている(参考資料12)。中国としては狭い回廊を通してウイグル人の住む新疆と国境を接するアフガニスタンを支配したタリバンが同じイスラム教徒のウイグル人を支援して独立戦争を起こすことを一番心配していると思う。このように事態は収束したというより混沌を深め、次の段階に入ったと言えると思う。

 

 

 

参考資料
参考資料1(英語):ツイッター:ian bremmer@ianbremmer、2021/8/12
https://twitter.com/ianbremmer/status/1425476334772441096

参考資料2(日本語):Wikipedia: アフガン戦争,
https://ja.wikipedia.org/wiki/アフガン戦争,

参考資料3(日本語):Wikipedia: アフガニスタン紛争 (1978年-1989年),
https://ja.wikipedia.org/wiki/アフガニスタン紛争_(1978年-1989年)

参考資料4(日本語):Wikipedia: アフガニスタン紛争 (2001年-),
https://ja.wikipedia.org/wiki/アフガニスタン紛争 (2001年-)

参考資料5(英語):Biden will withdraw all U.S. forces from Afghanistan by Sept. 11, 2021、The Washington Post、2021/4/13,
https://www.washingtonpost.com/national-security/biden-us-troop-withdrawal-afghanistan/2021/04/13/918c3cae-9beb-11eb-8a83-3bc1fa69c2e8_story.html

参考資料6(日本語):中国の王毅外相、天津でタリバン幹部と会談、産経新聞、2021/7/28,
https://www.sankei.com/article/20210728-QKZSNTUSDVI3ZHUVLIISSM5KFA/photo/VHK73KLFUNI7JDFKZIPFFFTA5Y/

参考資料7(日本語):【米国空母ロナルドレーガンはアフガニスタン付近か?】、2021/8/11,
https://taiwannewsnet.blog.fc2.com/blog-entry-1502.html

参考資料8(英語):ツイッター:Sidhant Sibal、2021/8/10,
https://twitter.com/sidhant/status/1425041136976949249

参考資料9(日本語):アフガン首都、90日以内陥落の恐れ タリバン攻勢で想定変更―米報道、時事通信、2021/8/12,
https://www.jiji.com/sp/article?k=2021081200158&g=int

参考資料10(日本語):タリバン、アフガニスタンでの「勝利」を宣言 ガニ大統領の出国後に首都掌握、BBC、2021/8/15,
https://twitter.com/sidhant/status/1425041136976949249

参考資料11(日本語):パンジシールで戦闘再開、タリバンに抵抗の最後の州 アフガン、BBC、2021/9/02,
https://www.cnn.co.jp/world/35176124.html

参考資料12(日本語):中国人の車列狙い自爆テロ 武装勢力が犯行声明、テレビ朝日、2021/8/22,
https://www.cnn.co.jp/world/35176124.html

=====参考資料ここまで=====

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