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2021.09.20

ASAT(対衛星兵器)技術

2021/09/20 山下 政治

 

ASAT(対衛星兵器)技術

相模原にあるJAXA、宇宙航空研究開発機構の開発した惑星探査機「はやぶさ」はおよそ3億キロメートル彼方にある小惑星「イトカワ」まで惑星の軌道を飛び続け岩流微粒子のお土産を持って地球に帰還した。総飛行距離50億キロメートルにもおよぶ宇宙への無人飛行は7年の歳月を費やしたのだ。
これに続く「はやぶさ2」は2020年12月に小惑星「リュウグウ」から地球へ帰還。

この二つのミッション成功は世界中で広く称賛され、日本は航空宇宙技術の高さを顕示したのである。

 

「『はやぶさ2』の数あるミッションの中でも小惑星表面に弾丸を発射し瓦礫を生成し、それを回収して持ち帰るための小型キャリーオン・インパクター(SCI)の技術[1] 」は注目を浴びた。これは対衛星兵器(ASAT)に転用できる技術であるため米国がことのほか注目していたのだ。
2020年11月にASIAーPASIFIC CENTERが発表した論文ではASAT能力とは以下のような構成であると理解されている。

 

1)目標となる衛星を発見・識別する能力
2)目標を迎撃するためのビークルを発射する能力
3)打撃距離内に機動し接近する能力
4)目標を無効にしたり破壊したりする能力

 

具体的にその詳細を説明すると:
「打ち上げに成功するとすべての衛星には識別コードが割り当てられる。このため追尾は困難ではないがターゲットとなる衛星の正確な位置と正体を確認できるかが重要になる。[1] 」JAXAの認識能力は非常に高性能でこれはスペースデブリ(宇宙ゴミ)と稼働衛星を判別出来るほどの能力である。

 

次に打ち上げ能力だが日本のロケットはイプシロン、H-IA, H-IIB,これに続くH-IIIなど様々な機種があり、そのペイロード(=衛生)に応じて様々なミッション別に衛星を運ぶことに成功している。

 

そしてターゲットに接近する能力こそASATの最も重要で挑戦的なファクターだ。「この分野では日本は20年に渡る実験、開発、実績を持つ。2007年の月探査機『かぐや』は月に低高度で接近し観測を行った。『こうのとり』は6トンもの物資を積んで宇宙ステーションまで運べる無人宇宙往還機である。近距離まで安全に操縦する能力を備え、接近と操縦の精度を実証している[1]」

 

今回のはやぶさ2のミッションでは小惑星「りゅうぐう」の表面にクレーターを作る小型キャリーオン・インパクター(SCI)が行われた。「重さ2kgの弾丸を秒速2kmで小惑星に向けて発射しSCIは宇宙空間で、制御された距離で爆発させることに成功した。[1] 」ワシントンのCSIS(戦略国際問題研究所)の評価では「はやぶさ2」のSCIは質量と速度を考えるとそのエネルギー(E=MC2)は途方もない威力を持っている、としている。

 

そしてJAXAの「はやぶさ2」は前述したASATの4つの能力に必要な要素をすべて所有しているのである。

 

日本の宇宙開発は宇宙ゴミ、スペースデブリ、を回収する目的などあくまでも平和利用目的である。「はやぶさ2」の成功は世界的に広く評価され祝福されるべき事なのだがASIA-PASIFIC CENTERの論文によってこれら技術はデュアル・ユース技術でありそのまま対衛星兵器への転用が可能であることを指摘されている。
「産業スパイや悪意ある者による窃盗の格好の標的となっている。デュアル・ユース技術の世界では、先駆的に開発された偉大なイノベーションの一部が盗まれ敵対的な軍事宇宙ミッションを支援する用途に再利用されるという不幸な見通しがある。情報保護の強化を日本に強く求める[1] 」としている。

 

現在JAXAは自衛隊と連携し宇宙情報については常にモニターを怠らずこれらの情報は自衛隊を通じて米国軍とも共有している。筆者の6月の投稿「安全保障におけるアメリカの日本に対する期待」という記事の中で、
「全体として、自衛隊の強みは、米軍との高い相互運用性、防空・ミサイル防衛システム、宇宙・サイバー・電磁スペクトルという新たな領域への移行[2] 」であるとランドコーポレーションは指摘している。今後展開されるであろう宇宙空間での覇権を狙うチャイナを睨んで日米宇宙同盟軍創設も検討を切に願う。

 

 

 

参考文献

[1] Daniel K. Inouye Asia-Pacific Center for Security Studies, CONSIDERING TECHNICAL INFORMATION PROTECTION THROUGH AN EVALUATION OF ASAT TECHNOLOGY IN JAPAN

https://apcss.org/wp-content/uploads/2020/12/N2544-Nishiyama-and-Oehlers-Considering-Technical-Information-Protection-Through-an-Evaluation-of-ASAT-Techn-1.pdf

 

[2] RAND Corporation 2020, Japan’s Potential Contributions in an East China Sea Contingency
https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA314-1.html

 

画像

https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/hayabusa2/index.html

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