2021.09.25
「斜めに考える人」は危険人物か？
～マスク発砲事件考察～
2021/09/25 吉岡綾子
「未接種者（の支払い）はますます高額になる！（*1）」
こんな見出しが街ゆく筆者（ドイツ在住）の目に留まった。街の随所に設置された新聞販売所にでかでかと紙面トップの文字が踊る。
ワクチンパスポートが導入され３Gルール（２度のワクチン接種者、回復者＝回復証明＋追加ワクチン接種者、２４時間限定の陰性証明保持者のみ学校やレストラン、美容院などの施設使用が許される）が比較的すんなり許容されたように見えるドイツの街角でのことである。これまで街の至る所にあったPCR検査場は次々に解体され（写真参照。オクトーバーフェスト会場であるテレージエンヴィーゼはPCR検査場であった。現在解体中）10月から有料化される。検査に行くのはワクチン未接種者のみだ。
さらに追い討ちをかけるように翌日、次なる見出しが街に映し出された。
「未接種者の隔離義務期間には就業補償金が出ない！（*2)」
陽性反応で病欠した場合、又は出張などで隔離義務が生じた場合にこれまで出ていた隔離期間の就業補償を11月から打ち切るという内容だ。
ワクチン未接種者には極めて生活しづらい日々が訪れた。筆者の周囲のワクチン反対論者も次々に降参、ワクチン接種をしている。「旅行に行きたいから」「家族と孤立するのは嫌だから」、、、それも至極まっとうな市民の判
断と言える。だが接種は任意だったはずだ。医療上の理由がある、または自らの意志でワクチン接種を選ばなかった人々、、ミュンヘンに暮らすわずかな未接種者は実に日陰モノの生活を強いられている。僅かとはいえ人口の
30%以上を占めるはずだが、、、。ワクチン接種を自らの意思で拒否するもの、コロナパンデミックの行動制限に異議を挟む者を揶揄するあだ名がある。それがクヴェアデンカー（Querdenker＝斜めにものを見る人）であ
る。
「あなた、まさかクヴェアデンカーじゃないでしょうね？」
いつの間にかドイツの社会ではこのようにレッテル貼りされた危険思想の持ち主にされているのがクヴェアデンカーたちなのである。
そんな折、衝撃の事件が起こった。日本でも報道された「マスク拒否者によるバイト店員射殺事件」である。新聞報道によれば(*3)、ガソリンスタンド（ドイツではコンビニエンスストアの役割）でマスク着用していない客とア
ルバイトの店員が口論。一度引き返した犯人が再び同店を訪れもう一度口論、所持していた拳銃で相手を射殺、のちに自首とのことだ。
筆者がこの報道に接する読者に強調しておきたいことは、この事件を「日本的」な視点で理解しないでほしいということである。
まずドイツでは「マスクは強制力を伴った義務」であるということだ。
日本でならば入店の際にマスクをする・しないで口論になることもあるだろう。だがドイツではありえない。マスク着用義務は1年以上継続している。
罰金は高額だ。この犯人の男性がマスクを着用せずにこの1年半以上を生き抜いてきたなどあり得ない話なのだ。事件が起こった当日に限ってこの犯人は、マスク着用義務の閉塞感に耐えかねてふらふら出かけていったというのだろうか？
そしてこの店員は口論などする必要はなかったのだ。マスク着用拒否の男性に注意しても甲斐がないならば警察に電話すればいいのだ。これも日本人には信じ難いかもしれない。ドイツではこういったケースでは躊躇なく警察を呼ぶ。２０歳の若いバイト学生はそういった社会経験が不足していたのかもしれない、、それも一つの解釈だ。
もう一つ。ドイツはアメリカではない。一般のドイツ市民は拳銃など誰も保持してはいない。なぜ、どこからこの犯人は拳銃を入手したのだろう？
拳銃を持っている人など普通の人の訳が無い！マフィアか何かに決まってる！この発想は日本と同じである。
各新聞メデイアはQuerdenkerがいかに危険で一般市民に危害を加える可能性があるかについて、これまでに行われたコロナ関連のデモについて一斉に非難を浴びせかけている。
筆者は今回の発砲事件について各種報道を検証してみたが公式報道以上の情報を得ることはできなかった。二人の憎悪を煽る別の要素はなかったのか？
口論の最中に侮蔑的発言はなかったのか、そもそもなぜ犯人は拳銃を所持していたのか？
全ての他の要因を剥ぎ取られた状態で「マスク拒否者はすぐにキレて拳銃を発砲する」というプロパガンダを世界中に発信されてはドイツ中の30%の市民の居場所がますます狭くなるばかりなのである。
