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2021.11.30

IRSEM 中国の影響力作戦

2021/11/30 飛高祥吾

IRSEM 中国の影響力作戦

本年9月にフランス軍事学校戦略研究所(IRSEM)より発表されたレポート『中国の影響力作戦』 LES OPÉRATIONS D’INFLUENCE CHINOISES の概要の訳文になります。本レポートでは、沖縄や仏領ニューカレドニアに対する独立運動工作の他、中国の様々な影響力作戦が取り上げられています。全体としては、2017年以降の「愛されるよりも恐れられている」ことを重視するという中国の影響力作戦の変化をロシア化している、あるいは「マキャベリの季節」としてとらえ批評する内容です。

一論点としてお読み下さい。

 

https://www.irsem.fr/rapport.html

P15-18

 

著者

Paul Charon( IRSEMディレクター、「 インテリジェンス、予測、複合的脅威」)

Jean-Baptiste Jeangène Vilmer(IRSEMディレクター)

 

概要

長い間、中国は、ロシアと異なり恐れられることよりも愛されることを求めていると言われてきた。中国は誘惑や自分の良いイメージを世界へ投げかけること、また自分に対する賞賛が呼び起こされることを求めていると思われている。北京が誘惑したり魅了することを断念したことはなく、自らが国際基準を形成するという野心を捨てたこともない。中国共産党にとって「面目を失わないこと」はとても重要だ。しかし一方で北京はますます浸透工作や強制を前提としてきている。近年北京の影響力作戦はより強化され、その手法はモスクワで用いられているものに似てきている。マキャベリが『君主論』で示したように「愛されるよりも恐れられている方が安全である」と北京が信じているように見えるという点で、これは「マキャベリの季節」である。またこのことは中国の影響力作戦の「ロシア化」を意味している。この報告書では、最も穏健で公的な外交から、最も悪質的な干渉(秘密活動)まで、影響力についての全領域をカバーしつつ、中国の影響力作戦の進展について焦点を当てていく。この報告書は「コンセプト」、「アクター」、「アクション」、「ケーススタディー」の4つのパートで構成されており、この4つのパートは順に言及されている。

 

1.コンセプト

中国の影響力作戦を理解するための重要な概念として「統一戦線」と「三戦」がある。「統一戦線」は、内外に関わらず敵を排除することや、党の権威に異議を唱えるグループを管理すること、党の利益に奉仕するために党の周囲に連立を構築すること、又は党の影響力を外国にまでに及ぼすこと等から成る中国共産党の政策である。「三戦」とは、中国の「政治戦」の本質を表し、実際の闘争なく相手を打ち負かす非運動的な紛争という形態をとることによって中国にとって望ましい環境を作り出す。

「三戦」は平時、戦時に関係なく行われ世論戦、心理戦、法律戦(英語でlawfareと呼ばれるものと完全に一致しているわけではない)で構成されている。

ソ連から輸入されたその他のコンセプトも同じく北京が用いるレパートリーを説明するために役立つ。偽情報や偽造、サボタージュ、信用の低下のための工作、外国の政府の不安定化、挑発、偽旗作戦など社会的結束を弱めるための諸々の作戦からなる「アクティブ・メジャーズ(積極工作)」や「有用な愚か者」のリクルート、また前線組織(フロント組織)の設置などのコンセプトである。

 

  1. アクター

中国の影響力作戦を実行する主要なアクターは党、国家、軍、そして企業である。党にはまず中央宣伝部があり、イデオロギーを担当しメディアの全範囲と国家における全ての文化的生産を管理している。またその主な目標に合わせて12の部署を持つ中央統一戦線工作部や外国の政党との関係を維持する中央対外連絡部、法輪功運動を根絶するために法的枠組み外で活動するエージェントを世界中に持つ610弁公室がある。このグループには共産主義青年団も含まれる。共産主義青年団は、形式的には党組織でなく大衆組織だが若者への伝達の道であり将来の党幹部を育てる場であり、いざというときに動員される力でもある。

国家には特に2つの組織が影響力作戦に関与している。主要な文民情報機関である国家安全部と台湾についてのプロパガンダを担当する台湾事務弁公室の2つの組織だ。

人民解放軍では、情報分野の能力と任務を担当する戦略支援部隊、特にその中のネットワークシステム部が該当する。この領域で主要なアクターとしてより正確に特定されるのは311基地である。311基地は福州市に本部を置き「三戦」戦略の実施に専念している。311基地は、カバーとなる民間のメディア会社や実際にはトレーニングセンターである偽装ホテルを経営している。

最後に、企業は官民を問わず重要な役割を果たしている。影響力作戦が誰に、いつ、どのような影響を与えているかを知り、その有効性についてデータを集めるためにだ。建物や海底ケーブル等のインフラストラクチャーはデータ収集のために使用される。またWeChat、Weibo、TikTokなどのデジタルプラットフォーム、BeidouやHuaweiなどの企業、データベースなどの新技術は、研究者が中国の「テクノ権威主義」または「デジタル権威主義」と呼ぶものや外国での影響力作戦の材料や準備のための大枠を提供する。実際には、古くから人間による諜報(ヒューミント)を担当する中国人民解放軍総参謀部第二部についてもここに加える必要があるが、ソースが不足しているため本報告書では取り上げていない。

 

  1. アクション

北京によって行われる外国に対する影響力作戦のアクションには主に2つの目標があり、この2つは互いに排他的ではない。1つは、中国「モデル」、伝統、博愛、力といった4つの物語を証言することで中国についてのポジティブな語りを形成し、外国の聴衆を誘惑し魅了することである。もう1つはより重要な浸透と強制である。浸透とは、敵対する社会にゆっくりと入り込み党の利益に反する行動をとる傾向を妨げることを意味する。強制には、党の利益を脅かす全ての国家、組織、企業、個人に対する体系的な制裁政策となる「懲罰的」また「強制的」な外交の緩やかな拡大が対応する。通常どちらも周辺に展開する曖昧な仲介者を介して行われる。アクションは特に以下のカテゴリーを対象として行われる。

 

– 華僑の移住(ディアスポラ)。北京に対して権力への挑戦を表明させないために管理すること(国際NGO団体フリーダム・ハウスに従えば北京は「世界で最も洗練されグローバルかつ包括的な」国境を越えた抑圧キャンペーンを行っている)と中国の利益のために動員することの2つが目標となる。

 

– メディア。北京の明確な目標に「新世界のメディア秩序」の確立がある。そのために中国政府は2008年以来、年間13億ユーロを投資して世界での中国のイメージをより適切に管理することに努めてきた。中国の大手メディアは、いくつもの言語で、またいくつもの大陸で、また中国でブロックされているものも含む全てのSNS(Twitter、Facebook、YouTube、Instagram)でグローバルな存在感を示している。そして多額の資金の投資を通じてオンラインの視聴者数を人為的に増加させている。北京はまた、中国共産党の事実上の準独占状態によって外国の中国語メディアやメインストリームのメディアを管理しようとしている。最後に一党制はコンテンツの容器の管理にも関心を持っていてテレビ、デジタルプラットフォーム、スマートフォンなどグローバルな情報のサプライチェーンの各段階に影響を与えている。

 

– 外交。これには2つの要素がある。1つ目は国際的な組織や規範への影響力だ。北京は古典的な外交努力だけでなく秘密裏の影響力工作(経済的、政治的圧力、選考、強制、汚職)を展開し影響力を強めている。2つ目は「戦狼外交」と呼ばれる外交で、中国外務省の報道官や十数人の外交官の態度がますます攻撃的になることを意味している。攻撃は古典的なものから比較的新しい形のものまであり、特にソーシャルネットワークを利用して罵詈雑言、諫言、脅迫などを堂々と行うことが特徴だ。全体として中国外交におけるこのような攻撃的な変化は逆効果であり、近年の世界における中国のイメージを急激に悪化させている。しかしこの変化は間違いなく持続されるだろう。この戦略の目標は相手の心と精神を征服することにはなく北京を喜ばせることにあるからだ。

 

– 経済。中国への経済的依存が作戦の主な手段としてしばしば使われる。中国の経済的威圧は様々な形をとる。中国市場へのアクセス拒否、禁輸措置、貿易制裁、投資制限、特定の地域が依存している中国の観光割当、大衆によるボイコット組織などだ。北京は自分たちの市場へアクセスするための条件として検閲を前提とする傾向をますます強めている。そして多くの企業がそのプレッシャーに屈している。

 

– 政治。対象となる社会に浸透し公共政策の決定メカニズムに影響を与えることを目的としている。影響力のある政党や政治家と直接的な関係を維持することで、標的となる企業へ潜入したり公式か非公式に関わらず支援を集めたり野党や「引退した」政治家を利用して政権内で起こる障害を回避することを可能としている。また北京は選挙干渉を行っている(中国は過去10年間、7か国で少なくとも10の投票に干渉したと報告されている)。

 

– 教育。党の影響力の主な対象の一つである大学を通じた教育がまず第一に挙げられる。その主な手段は財政的依存であり、関係する施設で自己検閲を生み出す。外国のキャンパスで中国の学生や教師、大学の管理者に対する監視と脅迫を通してコースの内容、教材、イベントのプログラミングを変更する。自己検閲を扇動し、批判的な研究者を罰しつつ中国研究を形作っていく。また一党制は大学を知識と技術を収得するためにも使う。それは共同研究プログラムなど合法的な公の手段で行われることもあれば、盗難や諜報など違法で隠匿された手段を通して行われることもある。軍民融合の文脈では、一部の共同プログラムや欧米の数十の大学に籍を置く研究者が、知らず知らずのうちに北京のための大量破壊兵器を製造し、中国国民を弾圧するための監視技術の開発に協力している。2020年と2021年にはいくつかのスキャンダルが明らかになった。

最後に教育の分野では中国の影響力のためにもう1つ重要なアクターがいて、それは大学と関わっている。中国語及び中国文化を教えるという名目の下で世界中に設立されているクラスや孔子学院は、一部の機関の依存度を高めて服従させ、学問の自由を損ない、時に諜報活動に利用されることがある。

 

– シンクタンク。この分野での中国の戦略は二重であり、北京は海外に中国のシンクタンクの支部を設立することとそれをそれ自体がシンクタンクでもある現地の中継所として活用することを目標としている。パートナーとしては現地のアイデア市場で中国のシンクタンクの共鳴板として機能する潜在的なパートナー、中国共産党と普段から一緒に仕事をする同盟者、中国共産党と共通の世界観を持ち利害が一致している共犯者の3つの形態がある。

 

– 文化。第一に映画やテレビシリーズ、音楽や書籍など、誘惑の強力な媒体である文化製品の生産と輸出による。ハリウッドを例にとると外国の文化作品、特に映画に影響が及んでいる。北京を怒らせず、そして巨大な中国市場へのアクセスを維持するために、アメリカの多くの映画会社が自己検閲を行い、シーンをカットしたり修正したりし、またしばしばやり過ぎに見えるほど中国のキャラクターに「良い」役を与えたりしている。中国市場へのアクセスの拒否は一党制に批判的なアーティスト全てに対して広く行われている慣行である。また他の種類の圧力によって北京はアーティストに作品を修正させたり、世界に向けて作品を発表している人たちにそれを止めさせたり、あるいは中国の検閲官の仕事をさせたりしている。

 

– 情報操作。偽のアイデンティティを作り出しメディア上で党のプロパガンダを放送する。偽のソーシャルメディアアカウントを使用し、チャットルームなどで煽り(トロール)を行い、人工草の根運動(自発的で人気のある運動であるかのような偽装)を行う。世論を「誘導する」ために金銭で雇われた多数の「ネット上のコメンテーター」(誤って armée des 50 centimes / 50 Cent Party (五毛党)とラベル付けされている)を使用する。一般に中国人民解放軍または共産主義青年団の管理の下、ネット上の煽り(トロール)は防御したり攻撃し、論争を維持し、侮辱し、嫌がらせを行う。信頼性を偽装する別の方法としては金銭によって第三者にコンテンツを公開させることだ(コンテンツファーム、単発のメッセージやアカウントへの影響の購入、アカウントやページの購入、または「インフルエンサー」のリクルートなど)。2019年以降Twitter、Facebook、YouTubeは、中国による操作を受けたキャンペーンを特定することをもはや躊躇しなくなった。何万もの偽アカウントが空中に保留されていて、あるものは長期間「休止」されていて、他のものは購入されたり盗まれたアカウントである。これらのアカウントは、中国語と英語で中国のプロパガンダを繰り返したり米国を攻撃している。一部のアカウントには人工知能によって生成されたプロフィール写真がつけられている。これはソーシャルネットワーク上での中国の事業で定期的に見られる慣行である。これらのキャンペーンの重要な側面は、中国を擁護するだけで満足していないということだ。中国モデルのプロモーションには、ロシアの影響力作戦が長年そうであるように、他のモデル、特に自由民主主義モデルを貶めることが伴う。中国人民解放軍はこれらの作戦の中心にあり、ソーシャルネットワークは、しばしば抑止と心理戦を目的としてプロパガンダを拡散する「開かれた」影響力のために使用されると共に、他方で外国の標的に対する隠匿的で敵対的な作戦のためにも使用されている。

 

– 北京の影響力作戦で使用されるその他の手段。市民運動、特に独立運動(ニューカレドニア、沖縄)や平和主義運動(No Cold Warグループ)、中国人観光客、インフルエンサー、特に欧米のYoutuberや外国人学者、さらに北京が「人質外交」を実践しているため人質などが挙げられる。

 

  1. ケーススタディ

ケーススタディは同心円状に展開していく。台湾と香港は、北京の「政治戦」の第一の前線を構成していて、中国の作戦のための前哨基地、訓練場、「R&Dラボ」である。台湾や香港での作戦がさらに洗練されて世界中の他のターゲットに適用されていく。ロシアの作戦にとってのジョージアやウクライナのようである。中国の作戦の円の拡大のための最初のステップはオーストラリアとニュージーランドである。第二段階は世界の他の地域、特にヨーロッパと北アメリカとなる。本報告書では台湾、シンガポール、スウェーデン、カナダの4か国の状況と2019年に香港デモ隊をターゲットにした作戦、また2020年にCovid-19をアメリカ起源と信じさせようとした作戦の2つを紹介している。

 

最後に結論部分では、二重の意味で「マキャヴェリの季節」に戻ってくる。第一に、2017年頃からの中国の影響力作戦の「ロシア化」が確認される。この平行関係は、2018年中華民国統一地方選挙の時点ですでに引かれていて、次は2019年の香港危機の際であり、そして世界中がこの問題を意識したのは2020年のCovid-19のパンデミックの際である。このロシア化は3つの要素から展開されている。北京はいくつかの点でモスクワから刺激を受けている(中国の軍事文献では人民解放軍にとってロシアは模倣すべきモデルであると認識されている)。両者の間には明らかな違いもがあるが、ある程度の協力関係もある。

第二に、この新しい中国の姿勢の有効性の評価を目指している。特定の戦術的成功があるとき、そこには同時に戦略的失敗が存在し、影響力の分野において中国の最大の敵は中国自身であるということである。習近平の登場以降、特に近年の北京のイメージの残酷な凋落は中国に不人気の問題を引き起こしており、人口の問題も含め間接的に党を弱体化させていく可能性がある。

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