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2022.08.16

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

 

2022/08/15 橋本 秀行

 

過去約20年間の各国の米国債購入額から日本と中国のみを抜粋したものが下記図表①である。中国が日本の米国債購入額を追い越したのは、※リーマンショック後の2009年以降である。

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

出所:米国財務省/最新のデータが2022年5月であったため、各年の数値も5月の数値

 

前述したように、2008年9月に起きたリーマンショック以降、アメリカは大胆な金融緩和政策(QE)を3回(1回目:2008年11月-2010年6月、2回目:2010年11月-2011年6月、3回目:2012年9月-2013年12月)行い、中国は経済成長率を維持するために、当時の換算レートで約57兆円の景気刺激策(積極財政)を発表した。その間、日本、中国ともに米国債の購入額を一気に増やしているのが図表①からも確認できる。

 

唯、2019年以降、中国は段階的に米国債の購入額を減らしていき、最新データである2022年5月時点の米国債購入額がついに1兆ドル(約100兆円/1ドル100円換算)を下回った。日本経済新聞によると、この背景には『政治的対立がある。米国に覇権争いを挑むなか、ドルへの依存を下げようとしてきた。直近では米国の対ロ制裁も影響しているとの見方がある。米国はロシアの外貨準備を凍結するなど、ドルの利用を封じる措置を取った。中国人民銀行(中央銀行)や中国財政省は4月22日、国内外の銀行幹部を集めた。台湾有事などで米国主導の制裁を受けた際に海外資産をどう守るべきかを議論した。関係者によると、政府側の出席者がドル建てに偏った海外資産を円建てやユーロ建てに分散する可能性に言及した。中国の外貨準備は16年時点で6割をドル建てで運用していた。19年9月から金の保有量は変わっていないため、米国債を減らした分を円建てやユーロ建て資産に切り替えている可能性がある。』また、日本経済新聞を含む既存メディアはあまり報道しないが、中国の独自決済(送金)システムCIPSとロシアの独自決済(送金)システムのSPFSとの連携を視野に入れているから、米国債購入を減らしていっているとも考えられる。両国の独自決済の連携とはつまり米国債を外貨準備金として持つ必要性がなくなることを意味する。

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

出所:米国財務省/米国 国勢調査(2002年-2020年までの数値を図式化)

 

図表②を見ると、中国から米国への輸出総額と中国の米国債の購入額には明確な相関性があることがわかる。つまり、米国に輸出して儲けた分を米国債購入に充てていた可能性がある。しかし、2019年以降中国は米国債の購入額を段階的に減らしているのにも関わらず、図表③のとおり、2021年以降(バイデン政権以降)逆に米国への輸出総額は増やしている。したがって、バイデン政権下では、中国は今後も米国債購入額を減らしつつも米国への輸出総額を増やしていく可能性がある。

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

出所:米国 国勢調査(2022年は季節変動を除いた推計値)

 

次に、図表②と同じ定義で日本から米国への輸出総額と日本の米国債購入額に相関性があるのかどうかを示したのが図表④である。結論からいえば、中国のケースとは異なり、日本の場合にそれらの数値に相関性は見いだせなかった。つまり、米国への輸出で儲けた分を米国債購入に充てているとはいえない。

 

日本の場合、安全保障を米国に委ねてしまっている関係もあり、米国債の購入・売却を独自で行っているとは言えず、むしろ、米国の要請次第で購入・売却額も増減しているのではないかと推測している。例えば、2009年2月当時麻生内閣で財務大臣であった中川昭一氏によるIMFへの最大1000億ドルの資金支援の原資は米国債売却からといわれていた。唯、そのあとの中川氏の酩酊会見から急死までの流れと、当時のIMFの専務理事であったストロスカーン氏の失脚の流れを見ても、現状日本が米国の断りもなしに自由に米国債の売買を出来るとは考えにくい。

米国の国債購入から読み解く各国の思惑② ~日本・中国~

最後に、中国の米国債の購入額・時期などからも中国の動き(戦略)を垣間見ることが出来た。実際、中国は米国債の購入額を段階的に減らしながらも米国への輸出総額は増やすというしたたかな動きをしている。一方、日本には独自の動きがあるとはいいがたい。したがって、日本が独自の動きを実行していくためにも米国に頼らない独自の安全保障を構築していく時期に来ていると改めて筆者は強く感じている。

 

 

※リーマンショック: アメリカの大手証券会社・投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)(2008年9月15日)が引き金となった世界的な金融危機および世界同時不況。世界のほとんどの国の株式相場が暴落し、金融システム不安から国際的な金融収縮が起きた。株価暴落による逆資産効果は世界最大の消費国アメリカで深刻な消費減退を招き、対米輸出不振を通じて、アメリカばかりでなくヨーロッパ、日本が第二次世界大戦後初の同時マイナス成長に陥った。経済外交の舞台が主要8か国・地域(G8)会議から、中国、インドなど新興国を含む20か国・地域(G20)会議へ移行する契機となった。

 

【参照URL】

U.S. DEPARTMENT OF THE TREASURY :

https://home.treasury.gov/data/treasury-international-capital-tic-system-home-page/tic-forms-instructions/securities-a-us-transactions-with-foreign-residents-in-long-term-securities

【参考URL】

1.United State Census Bureau-Foreign  Trade in Goods with China

https://www.census.gov/foreign-trade/balance/c5700.html

2.日本経済新聞WEB版 「中国の米国債保有、12年ぶり1兆ドル割れ 金融も分断」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN190180Z10C22A7000000/

  1. JETRO「2021年の米中貿易、輸出入額ともに過去最高、半導体の輸入も増加 」

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/8f530d7e9147b49a.html

4.日本経済新聞 WEB版「支持者つなぎ留め急務 「人気者」ストロスカーン氏失脚で」

https://www.nikkei.com/article/DGKDASGM1700Z_X11C11A0EB1000/?unlock=1

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