2022.12.10
設置期限切れになったベルリン=ミッテ区の慰安婦はどこへ?
2022/12/10 吉岡綾子
結論を先に述べると依然、まだそこにある。
こじれにこじれ続けたベルリン慰安婦問題は2022年9月28日に設置期限の最終期限を迎えた。そして期限は過ぎた。だが依然としてそれはそこにある。ミッテ区のホームページにも公式決定の通達は無くただ時が流れているのみだ。
2020年9月以来、二転、三転とその処遇を巡って物議を醸し出したベルリンの慰安婦像。
まずはその経緯を振り返ってみよう。
【ベルリン=ミッテ区慰安婦像の経緯〜2020年】
ベルリンに本部を置く市民団体であるコリア協議会が、ドイツにおける3体目となった「平和の像」という名の慰安婦像をを建立し公開した。銅像が設置されるやいなや、日本政府は直ちに憂慮を表明。設置と同時に日本国民や市民団体から銅像の一時的な許可を与えたベルリンのミッテ区に、数多くの反対書簡や嘆願書が送られた。
2020年10月、茂木敏充外相(当時)は直接ドイツの外相に銅像撤去への支持を要請。加藤勝信官房長官も、韓国との関係を前向きに再構築する必要があるとし、茂木外相の主張を再度強調した。これらの反発を受け、ミッテ区の議会は当初1年間の仮展示許可を撤回し、銅像の撤去を要求した。
「『平和祈念像』とその碑文によって、政治的・歴史的に複雑な2つの国家の対立が取り上げられたが、それはドイツで折り合いをつけるにはふさわしくないものである。ミッテ地区には100カ国を優に超える国々の人々が住んでおり、彼らは寛容でオープン、平和的で尊敬に満ちた態度で互いに交流している。この一体感を損なわないために、区役所は許認可機関としての役割を果たし、国家間の、特に歴史的な紛争に加担することは基本的に控えなければならない」
シュテファン フォン ダッセル(ミッテ区区長)*1
すぐにドイツの韓国人コミューニティと韓国社会で大きな反発が起こる。ドイツの女性解放論者たちはこうした圧力に屈し、29人の区議員のうち24人が2021年9月28日まで平和の像を存置する決議案に賛成票を投じた。しかし、その期限が近づくと、当局は特別許可を与え、展示期間をさらに1年延長したのだ。
【2022年の動き】
コロナ禍で硬直していた本件だが、2022年に入ると動きが見られた。ドイツ・エルマウで開催されたG7サミットに合わせるように韓国から来た「慰安婦詐欺清算連帯」が少女像の撤去を要求する集会を開いたのだ。彼らはたった4名だったが抗議演説活動を開始した。これは世界各国で建立された慰安婦像の経過としては初めて起こった新しいムーブメントと言って良い。慰安婦像は日本に対する辱めであるだけでなく、韓国自体の評判を落とすものだという主張をする人々が韓国から現れたのである。
たった4人だが、幅2メートルのバナーと小さな撮影隊を従えている。韓国人の活動家でYoutuberのJoo Oksoonと彼女の支援者チームは、韓国語で長い演説をし、嘘つきには「燃える硫黄」を与えると脅すポスターを掲げ、日曜日にモービットの平和の像に対する抗議活動を開始している。”慰安婦 “は “戦争における性犯罪の被害者 “ではないと平和祈念像の横や後ろに貼られた横断幕に書かれている。「慰安婦詐欺」の中止を要求する団体である。この像の支持者は「嘘で大韓民国の評判を落としている」と主張した。*2
それに対して当の韓国協会は100名規模の反対デモを向かい側で行った。
口笛、拍手、スローガンが絶え間なく響く集会。参加者は、韓国からの小グループのスピーチをかき消そうとしている。Omas gegen Rechts(右翼に反対するおばあちゃんたち)やJapanese Women’s Initiative Berlinのバナーもあり、IG Metallも参加している。”My Body, my Peace “と若い女性がマイクで唱和する。そして、韓国語で「聞こえない」と叫び、傍観者たちにも同じように、銅像のそばにいる4人のデモ参加者に向かって叫ぶようにと頼む。*3
つまりドイツTZ誌の記事によれば4人対100人という圧倒的な勢力差で慰安婦設置継続を望むグループは対抗した。そこに日本の女性解放運動家も加わっていたらしいことも窺える。
日曜日の反対デモは、韓国協会が現在動員している1週間にわたる行動の幕開けである。彼らは、6月30日まで毎日、銅像の見える範囲での集会許可を登録した。韓国学会のナタリー・ジョンファ・ハンは、追悼集会と音楽・美術プログラムで、歴史修正主義者に対抗しようと考えている、と言う。また、今後1週間は毎日集会を開催すると発表している。「このグループには、歴史学の教授も2人いる」とハン・ジョンファは言う。「彼らはTwitterやYoutubeを通じて、日本の右翼から多くの励ましを受けている。」*4
さて韓国本国は2020年の設置当初から現在に至るまで様々な変化を迎えている。注目すべきは2019年に韓国で出版され異例のベストセラーになったという李栄薫(イ・ヨンフン)著の「反日種族主義」に代表される反日を是としない、フェアな歴史を正視しようという運動が出てきたことだ。6月の抗議運動はこの流れである「国家基本問題研究所」のメンバーによるものだ。*5
同時に当時の大統領文在寅(ムン・ジェイン)の支持率がガタ落ちしたこと、今年に入って保守党から尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領が選出されたことなども慰安婦像問題を揺るがすファクターになり得る。
日本側の動きとしては2020年に続き21年の延長決定時も政府として抗議、2021年の”4月末の首脳会談では岸田首相がオラフ・ショルツ首相に像の撤去を要請した という。ショルツ氏は、少し苛立ったような顔をしたが、「それは地区の問題だ」と言ったという。*6
【そして現在】
ドイツの新聞にはこの慰安婦問題はほとんど顔を出さない。全国各紙をあまねく検索して時折見かけるという頻度だが、論調は二つに割れたままだ。
慰安婦像:ベルリン・ミッテに建立したのは間違いだった
韓国の慰安婦像の許可期限が迫っている。そろそろ、設置の仕方が間違っていたことを認めるべきだ。*7
今後どうなるかはまだわからない。ベルリン・ミッテ区議会は、区役所に許可の延長を要請したという。この延長は、「『戦争的紛争における女性に対する性的暴力』というテーマを全面的にカバーする記念碑が建立されるまで」有効であるべきだ。現在、上院事務局との調整が行われている。*8
決着がつかない=設置状態継続というのは未決着を意味しない。元の状態、つまり未設置の状態に戻すことが未決着なのではないのだろうか?この状態を「なあなあ」と呼ぶのではないのだろうか?
韓国側にも変化のあったこの2年間を日本側も無駄にしてはいけない。地球の裏側のドイツの首都で場外乱闘を起こす二つの韓国勢力。巻き込まれ事故に遭っている日独両国はなぜ沈黙しているのだろう。
*1. 08.10.2020 ベルリン市ミッテ区ホームページ プレスリリース
*2 22.06.2022 TAZ “Streit an der Friedensstatue” https://taz.de/Trostfrauen-Mahnmal-in-Berlin/!5860795/
*3 同上
*4 同上
*5 19.07.2022 JINF https://jinf.jp/weekly/archives/38517
*6 産経新聞2022年5月17日https://www.sankei.com/article/20220510-MW2XXJQC6BLVBGIT4TOGB4LJF4/
*8 12.11.2022 HNA Kassel Samstag(紙面のみ)