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2023.01.17

ウクライナへのレオパルド供与〜ドイツの苦渋

ウクライナへのレオパルド供与〜ドイツの苦渋

イラスト「レオパルト2」 小関恭兵

 

2023/01/17 吉岡綾子

 

 

令和5年も明けたばかりの1月16日。ドイツ国防相のランブレヒト女史が辞任、

ドイツのメインストリームメデイアは一斉にトップ記事に取り上げた。

ウクライナ危機などを巡る軽率な言動が批判を浴び(1)国内で極めて不人気に陥った挙句の辞任劇だ。後任の人事をショルツ首相は最速に行った。翌17日には首相と同じくSPD社会民主党の北部ニーダーザクセン州のピストリウス内相が就任する見通しと報じられた。(2)

 

ショルツ首相の立場としてはウクライナへの軍事支援強化の議論が活発化するドイツでこの国防相交代劇が極力影響しないようにとの配慮もあり、また失言の多かった前国防相の辞任で停滞しつつあった武器供与問題を一気に前進させる気構えなのかもしれない。

 

武器供与に関してだが、ドイツはEUを牽引する立場上、相反する二つの頸城に苦渋している。すなわちウクライナを軍事面で支援すること。ポーランドはドイツ製の主力戦車「レオパルト2」をウクライナに提供する方針を示した。実現にはドイツの承認が必要だ。しかし、「歴史の過去」を引きずる立場のドイツはおいそれと武器供与を認可するわけにもいかない。

最新の「南ドイツ新聞」では新国防相の就任を受けて以下の要約を配信した。

 

・「国防相に任命されたピストリウスは、ドイツがウクライナの戦争に「間接的に」関与していると述べている。

・ウクライナのアンドレイ・メルニク外務副大臣は、重火器の納入を要求してピストリウスを迎え入れる。

・報告書によると、ドイツの兵器産業は、ウクライナにレオパルト2戦車を以前の議論よりも早く提供する可能性がある。

・ウクライナでは、ロシアの砲撃により火力発電所に複数の被害が出たと再び報告されている。

・EUは核の脅威から身を守るために武装し、フィンランドに備蓄することを計画している。」(3)

 

各紙共にドイツが国家として今回のウクライナ紛争に関して本格的な武器供与を逡巡し国内外の批判を浴びたと報道している。しかしその理由については深く触れてはいない。

スイスの軍事評論家Dr.ダニエレ ガンツアー氏は自身の昨年度レビューで

「これまで数ある国際紛争において(第2時世界大戦の際の反省を踏まえた)ドイツは武器を『明確な殺傷能力のない』もののみの供与とすることで面目を保ってきた。明白な殺人兵器であるレオパルト2の供与は間接どころか明らかな戦争関与である。」(4)

と非難表明している。

 

現在も武器生産が禁じられているドイツで、このレオパルトを分解・再組み立てが必要とのことだがウクライナ政府は、ウクライナへの歩兵戦闘車40台の供与を発表したドイツ政府に対してレオパルトのようなもっと重量級の車両を要請していた。ドイツ軍には現在、レオパルト2は約350台しかない。ドイツの防衛・自動車企業ラインメタルのアーミン・パッパーガー最高経営責任者(CEO)は、補修を終えた「レオパルト2」戦車を早ければ来年にウクライナに引き渡すことが可能だとした一方、補修を始めるには発注の確認が必要だと表明した。その一方で少なくとも在庫の22台のレオパルト2と88台のレオパルト1を補修するには全体で数億ユーロがかかると指摘。完全に分解して組み立て直すことが必要になるためだと説明した。同社には歩兵戦闘車100台の在庫もあるが、使用できるようにするにはやはり7─8カ月の補修が必要になるという。(6)

 

武力に走るべきでない、軍備を増強することは許されないEUの大国がここにきて輸送軍備が間に合わないと世論の非難を浴びている。この明白な矛盾を唱える真の平和主義者は論壇のどこへ隠れてしまったのだろうか。

 

 

(1)日本経済新聞 令和5年1月16日

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR160430W3A110C2000000/

(2)産経新聞 令和5年1月17日

https://www.sankei.com/article/20230117-O3H7T4TPZJPXRJ44XMU6LIHLGQ/

(3)Süddeutschzeitung 17.01.2023

https://www.sueddeutsche.de/politik/ukraine-krieg-newsblog-pistorius-krieg-dnipro-1.5731440

(4)Dr. Daniele Ganser: Jahresrückblick 2022 (20.12.22)

(5)Das Bild 15.01.2023

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