2020.11.23
RECP、TPPを基軸に、 ベトナムの内需を取込め!
2020/11/23 橋本 秀行
経済産業省によると、「2012年11月に交渉を開始した地域的な包括経済連携(以下、RCEP)は、2020年11月15日に、インド(注1)を除く15カ国間で署名された。」署名国は、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)。「本協定は、世界のGDP、貿易総額及び人口の約3割、我が国の貿易総額のうち約5割を占める地域の経済連携協定となる」
RCEP以前に、中国はASEAN10カ国と中国-ASEAN自由貿易協定(以下、ACFTA)を2002年11月に調印(2003年7月発行)。その後、次々と付帯協定(注2)の調印・発行を行っていった。また、韓国は、2005年2月からASEAN10カ国と韓国-ASEAN自由貿易協定(以下、AKFTA)の協定交渉を開始し、2010年1月までに、中国と同じような過程で次々と付帯協定を終結していった。
一方、我が国は、2005年4月にASEAN10カ国と日・ASEAN包括的経済連携協定の交渉を開始し、韓国に遅れる事6ヶ月、2010年7月に、10カ国全ての国々と同協定を終結した。唯、日本-ASEAN間の協定は、物品の関税撤廃やサービス・投資の障壁削減・撤廃を中心とした中国・韓国-ASEAN間の協定(FTA)とは異なり、人材交流拡大を含む各産業分野での協力や知的財産制度、競争政策の調和を含めた協定(EPA)となっている。
上記協定を前提に、今回のRCEPは署名されたという背景があり、今後中国・韓国と我が国の間で、人材交流拡大を含む各産業分野での協力や知的財産制度、競争政策の調和に関しての齟齬や主導権争いが新たに発生する可能性は否めない。外務省によると、その一方で、「工業製品の分野で、中国及び韓国における無税品目の割合が上昇(中国:8%→86%、韓国:19%→92%)していく事も頭の片隅に入れておきたい」
唯、本記事では、中国・韓国と我が国との関係に焦点を当てるのではなく、当該2カ国、特に韓国が投資に力を入れているベトナムに焦点を当てていきたい。ベトナムは、TPP、RCEP両協定に署名している国々(シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、日本除く)の中で一番人口(2019年時点で約9,600万人)が多いだけでなく、平均年齢も29歳と若く、2030年までには人口が1億人を超えると予想されている。
また、車購入率が増えていく指標とされる1人当たりのGDP3,000ドルを2022年辺りには達成できる可能性があり、2019年時点の車保有率(約5%/日本約75%)からしても、今後まだまだ同比率が伸びていく可能性は非常に高いと考える。加えて、人口も2050年ぐらいまで伸び続けるとの予想もあり、その人口ボーナスを背景とした経済成長の果実をまだ取込める余地はあると考えられる。
一例を挙げると、ホンダ・ベトナム(HVN)の二輪車(バイク)市場のシェアが、2019年時点で約80%と、独占的な地位を確保している。しかし、上述したように、今後本格的な車社会になったときの対応が求められる。また、ベトナム人の平均所得が高くなっていくことにより、今後も内需拡大が見込まれる。その内需拡大の取込を見込んで、サービス業に属する日系企業(セブンイレブン、ローソン、イオン、サッポロ、日清、モスフードサービス(予定)等)が近年ベトナムに進出しているが、ホンダのように独占的な地位を獲得出来るかは現状不透明である。
一方、日本資本とは関連がない、韓国資本のロッテリアは、2018年の時点で約150店舗、同じく韓国資本のGoGi house(焼肉屋)も、約110店舗をベトナムで展開している。その背景には、ベトナムに居住している韓国人が、同国に居住している日本人(約2万2,000人/2018年時点)の約8倍に当たる17万2,684人(2018年時点)いることを頭の片隅に入れておきたい。VIETNAM NEWSによると、これは、「米国(254万6952人)、中国(246万1386人)、日本(82万4977人)、カナダ(24万1750人)、ウズベキスタン(17万7270人)に次いで韓国人の居住者が多いことを示している。」
また、JETROによると、「サムスン・ベトナムの輸出額(2018年)は600億ドルを超えており、これは、ベトナムの輸出総額約2,355億ドルの約4分の1を占める。同社はベトナム南部(ホーチミン市)1カ所の家電生産工場に加え、北部2カ所(バクニン省、タイグエン省)にスマートフォンの生産工場を構える。スマートフォンなど携帯電話機は輸出総額の約2割を占め、ベトナム最大の輸出品目となっている。」
実際、筆者自身、2014-2016年の2年間ベトナム・ハノイに駐在経験があり、
その間、ベトナム経済のリサーチをしていたが、上述したロッテグループやサムスン・LG等の製品・サービスまたは、店舗などをベトナム2大都市(ハノイ・ホーチミン)で見かけることが多々あり、家電量販店などで、サムスン・LGのブースの隣にSONYやTOSHIBAのブースが併設されていると、「日本がんばれ!」と、エールを送らずにはいられなかった。
多くの日本人は、中国・韓国、またはアメリカと我が国との関係性には興味があるが、その他の国の内情や実態に関してあまり関心がないように見受けられる。唯、菅内閣初の外遊先がベトナム・インドネシアであったこと、また、上述したとおり、まだまだベトナムは経済発展の余地が有り、内需を取込める可能性が高いので、各協定(RECP、TPP)のデメリットだけに焦点を当てるのではなく、メリット部分を最大限に活かして、今後中長期的にベトナムの内需を取込むべきだと考える。
出典 :ベトナム・新聞「青年」、阮記者(ベトナム)、2020/10/11
https://thanhnien.vn/tai-chinh-kinh-doanh/viet-nam-chuan-bi-ky-hiep-dinh-rcep-1302728.html/ (一部参照)
【参考URL】
1.ASSOCIATION OF SOUTHEAST ASIAN NATIONS「SUMMARY OF THE REGIONAL COMPREHENSIVE ECONOMIC PARTNERSHIP AGREEMENT」
https://asean.org/storage/2020/11/Summary-of-the-RCEP-Agreement.pdf
2.経済産業省「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」
https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/epa/rcep/index.html
3.JETRO「外国直接投資の選別を強化するベトナム」
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/ad1668d1337249d8.html
4.VIETNAM NEWS 「ベトナムの居住韓国人17万人以上、中国からの工場移転など、2年前に比べ約40%増加」
https://www.vinahanin.com/index.php?mid=lifenews&document_srl=389395&m=0
5.経済産業省「医療国際展開カントリーレポート新興国等のヘルスケア市場環境に関する基本情報ベトナム編」
6.ASIA「ホンダ、19年の二輪市場でシェア79%」
7.ストラテ「ベトナムのファストフード業界 2020年最新情報」