2020.12.31
国防のため、売買するトルコ国籍
2020/12/31 的場 博子
トルコは、国籍を経済や国防の面で積極的に利用している。近年、外国人投資家9011人が国籍を取得した。
同国のミリイェット紙は2020年11月22日、3年間で7312人の外国人がトルコ市民になったと報じた。
このなかで、「トルコ共和国内務省住民・国籍業務総局が、2016年7月26日からこれまでに、最低32億6150万ドルの投資をした外国人投資家9011人がトルコ国籍を取得した」と発表し、「不動産業界の促進のため、2017年から2018年の間、100万ドル以上の投資をした外国人に国籍を付与する施策を行った。さらに2018年9月18日からは、法改正により下限が25万ドル以上に引き下げとなった」と報じた。
内務省は、国籍を販売しているという批判に対し、国会に宛てた手紙でトルコ国籍法第5901が外国人投資家のトルコ国籍取得を例外的に認めていることを示した。
同省の報告によると「2017年から1年間に100万ドル以上の不動産投資をして国籍取得した外国人は70名だった。内訳はイラン人が26名を占め、イエメン人6名、イラク人5名、パレスチナ出身者4名、中国、アゼルバイジャン、アフガニスタンからそれぞれ3名ずつが不動産購入し、国籍を取得した。米国、英国、カナダからの投資もあった」
過去3年間では、7312人の外国人が18億8050万ドル(約2000億円)の投資を以ってトルコ国籍を取得した事になる。
なぜ外国人がトルコに不動産投資をするのか、理由は戒律がゆるいイスラム教にあり、政教分離が行われているため、女性の服装や、アルコール販売などの制約もなく、他のイスラム教国より暮らしやすいという面がある。
わが海外情報翻訳のトルコ事情に詳しいメンバーの解説によると、トルコは国境に近い地域で不動産投資を行わせることが同時に国防にもなると言う。緊張があるギリシャ国境近隣地域の土地を富裕層に買わせて、国の盾にするという発想である。
国民に危害を与えた者の国籍を剥奪した国もある。
オーストラリア政府は刑期を終えたテロリストの国籍を剥奪した。2020年11月25日、同国内務省が行ったアルジェリア生まれでオーストラリア国籍を持つ男性への措置である。
BBCニュースによると、「アルジェリア生まれのアブドゥル・ナセル・ベンブリカは、2009年に懲役15年となり、来月に釈放可能になる見込みだ。しかし、ピーター・ダットン内務相は豪州市民の安全を守るために彼の国籍を剥奪することは『適切』だと述べた」と報じた。
オーストラリアは国連の「無国籍の削減に関する条約」の加盟国である。同条約第8条は加盟国が国民を無国籍にすることを禁じている。それでもこの措置が可能だったのは、この男性がアルジェリア国籍も有していたからだ。実はアルジェリアは自国民の国籍離脱を禁じている。
国連は、1994年に世界規模で無国籍を防止し削減するだけでなく、無国籍者の権利を守る活動を行うため条約を作った。日本はこの国連条約には加盟していない。国内には人数は把握されていないが、かなりの無国籍者がいる、と言われている。
両親のどちらかが日本人ならば、その子供は出生届を出した時点で日本国籍になるのだが、何らかの事情で出生届を出さないと、その子は無国籍になってしまう。当然、生活面で不便で、公教育を受けることができず、自分が無国籍だということが分からないまま、成人してしまったケースもある。しかし現在は救済制度がある。
ドイツでは人口減少を防ぐために、積極的に外国人に国籍取得を勧めている。ドイツに長年住み、一定の所得があるなどの条件をクリアすればドイツ国籍を取得でき、選挙権を持つことができる。第2次世界大戦以後、人種差別反対を訴える同国は多くの移民難民を受け入れている。欧州難民危機の際もドイツは受け入れを続けた。人口構成比が歪み始めているが、この動きを止めることは、大きな政治決断がなければ不可能である。
シンガポールの移民局が行った武漢コロナウィルスに対する隔離措置を違反した場合の厳しいパスポート無効措置の事例も紹介しよう。
今年3月、同国市民のパスポートを無効にする初の厳しい行政対応が行われた。ゴー・イルヤ・ビクター 氏(53歳) のパスポートを無効にした移民局によると、規則に従わない者に対して強制措置を講じることは「ためらわない」と述べた。
国籍やそのパスポートを持っていることは、その国で勝手に行動できるということではない。国民として、責任の一端を担っていることを、シンガポール移民局の厳しい措置で改めて感じる。
英国のEU離脱で、国籍に関する規則も大きく変わるもようだ。
ブレグジットに伴い、フランス国内に住むイギリス人は在留資格の取得が必要になり、2021年7月1日前に申請しなければならず、同年10月1日からは18歳以上の住民は在留許可証の所持が必要になる。フランスでは二重国籍が認められているので、フランス国籍を取得するイギリス人もいる。ただ、ブレグジットは協議中のため今後、どのような変更があるか予測できないもようだ。
これらの海外のニュースから、国籍は一線を引くことで、お互いの、またはその集団の利益を守る役割を果たしている。
日本ではここに曖昧さを感じる。日本人の多くは国籍についてふだん考えることは少ない。しかし、それは情報が少なかったためである。長年、北海道や国境の島の土地を、外国籍企業が購入している。
また、工作員や犯罪者などが、日本人の戸籍を乗っ取って、その人物に成りすます犯罪も少なくない。これに声を上げて警告する人がいてもマスメディアは報じなかったのだ。
海外では国籍に関するニュースは多い。日本国内のニュースで国籍明記すると、それが差別であるかのように指摘する風潮も気になるので、今後も国籍に関する情報を取り上げて行く考えである。
出典)
シンガポール紙のToday
トルコ紙のミリイェット
BBCニュース
https://www.bbc.com/news/world-australia-55069037
トルコのエルドアン大統領
Wilson Dias/ABr – Agência Brasil
Turkish Prime Minister Recep Tayyip Erdogan at the Third Global
Forum of the UN Alliance of Civilizations in Rio de Janeiro, Brazil.