こんにちは!佐賀県武雄市議会議員の朝長勇です。
前回の私のブログでは保育園での偉人伝活動を取り上げて教育のあり方について問題提起をしました。
今回は保育の現場が抱える深刻な課題について皆さんにお伝えし、ともに考える機会にしたいと思います。
平成22年、日本政府は「新成長戦略閣議決定」の中で保育を雇用労働施策の一部「育児サービス」と位置づけ、成長産業とみなして規制緩和による新たな仕組みを次々と閣議決定していきました。
その結果、現代の保育制度は、子育て支援の名の下に、本来あるべき親子の絆を危機に陥れています。保育園の現場からは「このままでは親が育たない」という悲痛な叫びが聞こえてきます。半袖短パンで元気に走り回る子どもたちの背後で、制度に翻弄される園長や保育士たちの苦悩とは。現場の声から、日本の保育の未来を考えます。
令和7年2月、宮沢賢治の偉人伝を実演するために福岡市内の保育園に伺いました。この保育園は肉や乳製品などを使わない伝統的な和食での給食を実施していることや、幼児の段階から着替えや挨拶などの礼儀作法を身に付けさせるなど、小学校入学までに自分のことは自分でできるように育てるという信念に基づいて運営されています。偉人伝の取り組みも伝統的な情操教育の一環として年に数回のペースで実施されており、保護者からの評価も高く区域外からの入園希望者も多いそうです。
この日はいつも以上に冷え込む朝でしたが園児たちは半袖・短パンの薄着で元気に運動場を駆け回っていました。そして事務室で待機していると4人の園児たちが私を迎えに来てくれました。「おはようございます!偉人伝の準備ができました。よろしくお願いします!」とあいさつをして私の荷物を受け取り教室まで案内してくれるのです。
年長組と年中組でそれぞれ実演をするのですが、年中組はまだまだ隣の子にちょっかいを出したり、そわそわしたりで落ち着きません。ですがこの時期の幼児の成長は目覚ましく、年長になると30分の話をしっかり集中して聞けるようになっています。
この大切な幼児期をどう過ごすかが子どもの未来を大きく左右することは想像に難くありません。
宮沢賢治の童話や「雨ニモマケズ」を園児と一緒に唱和して楽しい時間を過ごした後、園長と懇談する機会を得ました。冒頭で私の方から「保育行政の現場がおかしくなっていませんか?」と問いかけると、「そうなんですよ!話そうと思えば何時間でもお話しできます!」と堰を切ったように園長が話を始められました。そしてその表情は険しく、何とかして欲しいという悲痛な憂いが伝わってきました。
こんな背筋がゾッとするようなお話でした。みなさんは保育の現場で起こっているこんな実情をご存知だったでしょうか。男女共同参画や女性の社会進出が叫ばれ、育児を「サービス」と位置づけて「いかに子どもを預けやすい環境を作るか」が子育て支援であるかのような「勘違い」に起因する制度設計がこの状況を招いた本質的な原因であると感じます。
今回、園長にこの話を伺ったのは「ママがいい!」という本を読んだことがきっかけでした。本当に日本でそんなことが起こっているのか、現場の生の声を聞きたかったからです。
著者は音楽家・作家であり埼玉県の教育委員長も経験された松居和氏です。
松居氏は1954年東京生まれで1970年代後半に渡米し、1988年にはアメリカにおける学校教育の危機、家庭崩壊の現状を報告したビデオ「今、アメリカで」を制作して日本に持ち込み公開されています。その動機は、これがいつか日本の現状になるかも知れないという危機感だったそうです。このビデオの反響は予想以上で特に保育園の園長からの反応が大きかったそうです。
そして今まさに、松居氏の憂いが日本で現実のものとなってしまっています。「週末子どもを親に返すのが心配です」、「せっかくお尻がきれいになったのに、月曜日、また真っ赤になって戻ってくる」、「こんな親たちを作り出しているのは私たち(保育士)ではないか」そんな声が保育の現場から聞こえてくるようになったとのことです。
はしがきにはこんな記述があります。『仕組みで子育てをしようとすれば、家庭崩壊が進む。「エンゼルプラン」や「子育て安心プラン」などと美しい言葉の裏で、保護者から親として育つ機会を奪い、母親をパワーゲームへと引き込み、保育がビジネス化されていく。・・・現場で保育観について私に目を輝かせて教えてくれた園長たちが、最近疲れ果て、精神的に追い詰められている。・・・保育のあり方を、いまいちど幸福のモノサシで計ってほしい』と。
そしてこの危機的な現状を打開するための大きな希望の光はまさに「子どもたち」そのものであるともおっしゃっています。一日保育者体験で子ども時代を思い出し、人生観が変わる保護者もいる。保育の現場を体験した多くの親たちが保育園に対する感謝の気持ちを感想文に書いてくれる。
「幼児という存在がそうさせるのだ」と。
この本は下記の六章から構成されています。
第一章 子どもを犠牲にして進められる保育政策
第二章 ビジネス化する保育
第三章 母子分離の悲劇
第四章 ひずみ―悲しき虐待
第五章 幼児の力による親心の回復
第六章 親を支える保育現場の努力と祈り
落ち着かない幼児への薬剤投与の問題なども書かれており、甘えん坊だった問題児が薬を飲まされ、「抱っこはもういい」と虚ろな目で拒絶された時の保育士の悲しみはいかばかりか。感性のある保育士が使い捨てにされていくと嘆かれています。
私のつたない文章では伝えきれないのが歯がゆいですが、多くの人に是非とも知って欲しい内容ばかりです。
昔から「子は宝」「人づくりは国づくり」などと言われますが、日本の実情は全く反対の方向に進んでいるのではないでしょうか。そんな保育現場の実態を多くの人に知ってもらいたい。関係のない人はいないはずです。子どもたちを市場原理の矢面に立たせるようなことがあってはならない。
前述したように保育者体験をすることで育児に無関心だった父親や地域の中学生たちが大きく変わっていくそうです。家庭内暴力が止まったり、お遊戯会では強面の嫌がるお父さんがウサギになる。幼児にはそんな不思議な力が備わっています。
幼児とのやりとりは、弱いものに頼られることで人間たちに、自分の本質は「善」である、ということを思い出させてくれる。本来の自分の姿に嬉しくなるのだ。と自らの体験を踏まえて松居氏はおっしゃっています。
今一度、保育のあり方を見直して法律や制度を改善し、幼児たちの不思議な力も借りながら日本の未来をともに切り拓いていきましょう!
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朝長 勇
Isamu Tomonaga
所属議会
武雄市議会議員(佐賀県)
経歴・政治目標
昭和42年6月20日佐賀県武雄市生まれ。平成2年3月九州大学経済学部卒業。福岡で5年間システムエンジニアとして民間企業に勤務後、実家に戻り家業の土木建設業に従事。平成22年4月 武雄市議会議員初当選。教育再生、金融リテラシー向上による地域活性化(貧困の連鎖解消)を目指す。