Newsニュース

2025.6.09

無痛分娩のリスク説明と妊婦への情報提供に関する質問主意書

令和7年6月4日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。

『無痛分娩のリスク説明と妊婦への情報提供に関する質問主意書』

提出者 吉川りな

 近年、無痛分娩を実施する医療機関の割合は増加傾向にあり、令和二年度には二十六%、令和五年度には三十四・一%に達している。全分娩に占める割合も、同期間に八・六%から十三・八%へと増加し、無痛分娩は、出産における選択肢の一つとなりつつあると考える。

 一方で、出産雑誌や妊婦向けサイトでは、「痛いなら無痛分娩」といった単純化された表現が散見され、妊婦へのリスク説明は十分とは言い難い。硬膜外麻酔による無痛分娩では、微弱陣痛や回旋異常、吸引分娩や鉗子分娩、緊急帝王切開といった副次的リスクがあり、更に、麻酔によって痛みの感覚が鈍くなることで、異常の早期発見が遅れ、重大な合併症や死亡に至る事例も報告されていると承知している。

 こうしたリスクがあるにもかかわらず、実際の事故事例や後遺症に関する情報は十分に共有されておらず、「いいもの」「安心な選択肢」といった印象ばかりが先行している状況があるように思われる。国として、無痛分娩の利点とともにリスクに関する正確な情報提供を徹底し、妊婦が納得して選択できる環境整備が必要であると考える。

 更に、無痛分娩に用いる硬膜外麻酔は高度な専門知識と管理を要し、本来は麻酔科専門医による実施が望ましいとされる。フランスやアメリカでは、麻酔科医の常駐やいわゆるオンコール体制が整っているが、我が国では、そのような体制がなく、硬膜外麻酔の実施を麻酔科専門医に限定していない。麻酔手技の誤りによる事故も報告されており、事故防止のためには、実施基準の厳格化や専門人材の確保が急務であると考える。

 また、自治体レベルでは東京都が無痛分娩への補助制度を打ち出しているが、制度面の整備が国として十分になされないまま、特定の選択肢が「推奨」として受け止められることに懸念がある。フランスのように制度が整っていても、無痛分娩を選ばない女性が一定数存在するように、本来は各人が納得して選択できる環境こそが重要であると考える。

 以上を前提に、政府に対し質問する。

 
無痛分娩に伴うリスクについて、妊娠中の方々への情報提供は十分とは言い難いと考える。こうした現状を踏まえ、更なる周知・啓発の徹底に向けた具体的な取組を強化すべきではないか。

 
硬膜外麻酔を使用した分娩の全件数及びそのうち吸引分娩や鉗子分娩などの機械的分娩に至った過去五年間の件数について、政府が把握するところをそれぞれ可能な限り示されたい。

 
現行制度において、硬膜外麻酔を麻酔科専門医以外の医師が実施できる点について、どのような課題があると認識しているか。政府の見解を示されたい。

 
無痛分娩の安全性向上に向けて、実施基準の厳格化や麻酔科専門医の関与を含めた制度の整備について、現在どのような検討が進められているか示された上で、麻酔手技の誤りや体制の不備による後遺障害や死亡事故の事例も報告される中、政府として、安全対策をどのように講じていく考えか、見解を伺う。

 
硬膜外麻酔により感覚が鈍化した結果、異常の早期発見が遅れ、重大な結果を招いたとされる事例や、その他の無痛分娩に起因する医療トラブルについて

  1. 政府はどのような方法で実態を把握しているか。
  2. こうしたリスクや重篤な合併症・事故の事例について、妊婦やその家族に対してどのように情報提供しているか。単なる選択肢提示にとどまらず、適切なリスク周知が不可欠と考えるが、現状の課題と併せて政府の認識を伺う。
  3. 無痛分娩に伴う医療事故リスクの軽減に向けて、政府としてどのような取組が必要と考えるか。

 
出産費用の保険適用が進められる中で、診療報酬の抑制により、無痛分娩を安全に実施するための麻酔体制の維持が困難になる懸念がある。また、採算性の問題から、地域の産科医療機関が縮小・統廃合され、出産医療の一極集中や空白地域の拡大につながりかねない。これらは、妊婦の選択肢を狭め、少子化対策に逆行するおそれがあると考えるが、政府の認識を伺う。

 
出産における満足度は、母親の心身の健康や次回の妊娠・出産への意欲に大きく影響するとされている。無痛分娩を選択したにもかかわらず、予期しない対応や不十分な説明により「満足できる出産ではなかった」と感じる事例も報告されている。医療的選択肢の充実に加え、適切なリスク説明、専門職による支援、制度設計などの総合的対応が不可欠ではないかと考えるが、政府の政策的視点と今後の取組をそれぞれ示されたい。

 
「無痛分娩」という名称は、痛みを完全に除去するかのような誤解を招きやすいと考える。この点、令和七年五月十二日の参議院決算委員会において、福岡資麿厚生労働大臣は、既にメディアや妊産婦、医療関係者に広く定着している旨答弁し、名称変更には慎重な姿勢を示した。しかし、厚生労働省は平成三十年四月二十日付の通知(医政総発〇四二〇第三号・医政地発〇四二〇第一号)において、無痛分娩は、完全な無痛ではなく痛みの軽減が目的であると明記している。また、医療現場では「和痛分娩」との表現も用いられており、「除痛」といった医学的に妥当な用語も存在すると承知している。

  1. こうした実態と名称のズレが誤解を生む以上、通知の趣旨を踏まえた周知とともに、表現の見直しも検討すべきではないか。
  2. 無痛分娩は、いまだ普及の途上にあり、誤ったイメージが定着する前に対応する必要があると考える。政府として、この名称を使い続けることの是非について、見解を伺う。

 右質問する。



totop