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ドイツ徴兵制復活か?

令和8年6月1日 吉岡綾子(ドイツ在住)

【2026年は徴兵制復活イヤー?】

ドイツの巷で現在、熱く語られる話題がある。メルツ政権によって今年1月1日から施行された徴兵制新法(正確には「軍務近代化法Wehrdienstmodernesierungsgesetz」)の是非だ。特に高校生以下のお子さんを持つ家庭では議論を呼んでいる。

近い将来「赤紙」が来れば戦地へ我が子を送り出すことになるのか?
ウクライナ戦線でロシアと戦うことになるのか?
少子化で、それでなくとも数の少ない子供たちを失う日が来るのか?
戦場に送られるのはドイツ人だけで外国籍の子たちは残るのか?
これは平等なのか?
長い間、高い税金を払い続けたドイツ人家庭の子供は死地に赴き、移民の子供だけが増えていくのか?

国民にもわからないことだらけ、不安だらけの日々を余儀なくされている。

ドイツ国防相のピストリウスは「今、この歴史的フェーズほど軍事戦略が必要とされることはない」と述べた。特にロシアのウクライナに対する侵略戦争以降、「脅威は悪化し」「世界はますます予測不可能になり、また危険も増している」と。NATOからの防衛強化要請、ドイツ軍の人員不足などから「兵士・予備役増員が不可欠」との認識が高まってきたことも背景にある。ピストリウスは「ドイツ軍に26万の現役兵士を蓄えている必要がある」と訴えた。

【政府のSNS戦略】

2011年の徴兵制の実質停止以降、ドイツ軍は志願兵を集める必要が生じた。そのため近年YouTube、Instagram、TikTok、兵士のブログその他を早い時期から活用してきた。その様子はドイツ軍ホームページから伺うことが出来る。

また学校訪問を政治教育に取り入れ、青年将校に安全保障政策に関する講義を行うことも積極的にやっているが、反対派からは「軍への勧誘」と非難され、論議を呼んでいる

【徴兵ではなく志願制なのだ!?】

昨年2025年5月6日に発足したメルツ政権は、それ以前のショルツ政権率いるリベラル連合とは明確に安全保障のベクトルを変えてきた。しかしながらこれはいわゆる「徴兵制」ではない、先ずは「志願制+義務的な登録・適性調査」にて戦力を充実させるための法改正なのだと説明されている。即ち、以下の様な手続きである。

  • 18歳の若者(2008年生まれのドイツ国籍所有者)にアンケートを送る
  • 男性は回答義務/女性は任意
  • 軍務への関心や適性を調査する
  • 将来的に健康診断を義務化

政府はまず志願者を増やそうとしている段階ではある。ただし、募集人数が目標に届かなければ「部分的徴兵」又は「抽選による徴兵」の実施が公言されている。 希望者のみによる「志願制義務」なのだという謳い文句はどこか空々しく言葉を置き換えているだけで、結局のところ徴兵へ移行するのは時間の問題に過ぎないのではないか?とティーンエイジャーを持つ家族の声が聞こえてきそうである。

施行されたばかりの徴兵新法だが、男性に回答「義務」があるとされるアンケートには果たして100%の回答が得られているのだろうか?また無回答の場合の罰則はあるのだろうか?

【強制力は?】

2026年5月末時点では、2026年1月以来の最初の集計
回答率 約72%
未回答 約28%
即ち4分の1の該当者がアンケートを無視したことになる。その後、ドイツ軍はアンケートの督促を繰り返し90%を超える回答率になったとのことだ。
この効果は有効で2026年2月時点での入隊希望者は前年度比較の20%増であった。

しかし現役兵士数は現在約18.5万人、将来目標は26万、予備兵20万人である点を考慮すると、兵力不足は圧倒的で、やはり志願制から徐々に徴兵制へと移行する未来が垣間見える。
因みに未回答者には最大1000ユーロの罰金が課されることになっているが、現在のところ徴収された例はない様だ。
志願兵の基本任期は6ヶ月。任期終了時に次期への参加希望を改めて問われ、その後9・12・18・23ヶ月などへ延長されることが想定されている。

【国籍問題】

志願兵はドイツ国籍保持者のみが対象とされる。二重国籍者もその範疇である。(現在のところ恒常的海外在住ドイツ国籍保持者は対象外とされる。)

ドイツに大量に存在する(不法を含めた)移民、またその2世3世にドイツ人はこれまで長期にわたって血税を投入してきた。その彼らはドイツ国籍を保持せぬ限り、今回のアンケートの対象者ではない。だが1950年代以降に渡ってきた労働移民、即ちガストアルバイターたちの殆どは既にドイツ国籍取得者である。戦後ドイツの経済を縁の下から支えてきた者たちは差し詰め運命共同体であると言える。

2015年以降にドイツに渡ってきた大量難民も又、同様である。ドイツの国籍取得要件は徐々に緩やかになりつつある。全ての条件を満たせば、移民は最短5年で帰化(ドイツ国籍取得)出来る。つまり2021年以前に入国した移民ならば既に「ドイツ人」になっている可能性がある、ということだ。

そして今や「移民を排除すべきではないのではないか?ドイツ軍に迎えいれるべきなのではないか?」といった議論が与党CDU/CSU(キリスト教民主/社会同盟)内部から噴き出ているに至っている。即ち「EU市民募集・外国籍者受け入れ・軍務による帰化促進」が議論される段階なのである。

【反対派・平和派の動き】

戦後粛々と平和教育のなされてきたドイツ社会で、今回の兵役復活が易々と受け入れられているわけでは勿論ない。

徴兵反対論者は「若者への負担を押し付けられる」「軍事化に反対」「教育や社会保障により多くの予算をつけるべき」と批判しており、2026年3月以来、「金曜日学校デモ」が起きている。主催者発表によれば延べ5万人もの人々がこれに参加したそうだ。「金曜日学校デモ」とは、全国の中高校生に呼びかけて金曜日に学校へ行かずにデモへ参加しようと呼びかけるイベントで、現在までにすでに数回、実行されている。中には「メルツよ、オマエが東部前線で死ね!(Merz, stirb doch selbst an der Ostfront!)」という過激スローガンを掲げる極左過激集団も混じり警察による逮捕や身元確認、捜査が実施される事態にも発展した。

【結び】

年頭より施行されたドイツ「軍務近代化法」について、その概要を述べてきた。しかし、この新法はそもそもドイツに本当に必要なのか?ドイツにおける徴兵制の歴史とこれを推進する勢力、また新興政党であるAfD(ドイツのための選択肢)は徴兵制をどの様に考えているのか、現代の戦争に人的戦力はどの程度必要なのか?といった徴兵制に関する本質的考察は次稿へ委ねることとする。

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