学校給食がもたらす大きな力 ~ワークショップを通じて見えてきたもの~
御殿場市議会議員 森 順
はじめに
「小・中学生の頃の学校給食の思い出は?」
これは、先日私が御殿場で行ったワークショップの冒頭で、参加者へ投げかけた質問です。
「揚げパンが美味しかった」「デザートに冷凍みかん」「ご飯とパンと麺の割合はどうだった?」「牛乳は瓶?それともパック?」等々…
年配の方からは「脱脂乳の思い出」なども飛び出し、世代を超えた給食の記憶が共有されました。
初対面で少し緊張気味だった参加者たちが、あっという間に笑顔になり、会話が弾み始めました。
さて、読者の皆さんにはどんな給食の思い出がありますでしょうか?


現在の学校給食が抱える課題
楽しい思い出の多い学校給食ですが、現在様々な課題に直面しています。
全国的に共通する主な課題は次のとおりです。
1 給食費の無償化問題
保護者の経済的負担を軽減することを主な目的として、給食費の無償化を実施する自治体が増えています。
しかし、財源の確保が負担となり、無償化できない自治体も多数存在します。
2 食材の質の問題
国産・地産地消や有機栽培など、使用される食材の品質や調達方法についての議論が活発化しています。
3 食べ残しの削減
環境問題の観点からも食品ロスを減らす取り組みが求められています。
4 多様な食のニーズへの対応
アレルギー対応や不登校児童・生徒への給食提供など、個別のニーズにどう応えるかが課題となっています。
5 各自治体の食育に対する取り組みの温度差
多くの自治体で、郷土料理の提供、地場産の材料の使用、野菜づくり体験などの様々な取り組みが実施されていますが、市区町村によって取り組む姿勢や内容に差があります。

せっかくの情報が届かない?家庭で読まれない「給食だより」
先ほどのワークショップでは、参加者がグループで話したいことや、聞きたい内容を発表し、その中で1つのテーマについて現状や課題に対する解決策を話し合いました。
その中で特に印象的だったのは、あるグループ代表として意見を発表してくださった現役の養護教諭の方からのお話です。
「栄養士の方たちが時間をかけて、丁寧に、工夫を凝らして『給食だより』を作っています。旬の食材のこと、栄養バランスのこと、健康的な食生活のヒントなど、とても役立つ情報がたくさん書かれています。でもアンケートをとると、実際には、家庭ではあまり読まれていないのです。保護者も読んでいない、子どもも読んでいない、本当にもったいない状況です。」
学校教育における「食育」は、子どもたちが食に関する正しい知識や習慣を身につけ、健康的な生活を送ることができるようにするための取り組みです。
文部科学省や厚生労働省、農林水産省などが関わり、学校給食や授業を通じて食育が実施されています。
給食だよりの発行は、その取り組みの一つであり、多くの学校で行われていますが、この事例のように有効活用がなされていないことが多いのが現状です。
話し合いの結果を行動へ
しかし、この養護教諭の方はワークショップをきっかけに、行動を起こしました。
職員会議で「各担当の先生がHR(ホームルーム)の時間に給食だよりの内容を紹介して、児童や生徒に必ず伝えること」を提案したのです。
その結果、先生方が協力してくれるようになり、食育の大切さを伝える機会・時間が増え、子どもたちも興味深く話を聞いてくれているとのことでした。
小さな一歩が大きな変化をもたらした素晴らしい事例だと思います。
学校給食が持つ未来への可能性
このワークショップを通じて改めて実感したのは、学校給食が地域、さらには日本全体を変える力を持っているということです。
単なる食事や栄養補給の場ではなく、もっと大きな役割を果たすことができるのです。
例えば、地産地消の取り組みが進めば、地元の農家さんの販路が広がり、地域の農業が活性化します。
「子どもたちのために」という想いが農家さんの生産意欲を高めるきっかけにもなります。
また、耕作放棄地の増加抑制・減少や新規就農者の増加にもつながるかもしれません。
一方、子どもたちは地元で育った「顔の見える」お米や野菜に触れることで、食材への関心を深めていきます。
さらに、それらを使った郷土料理や伝統食を学ぶことで、文化的なアイデンティティが育まれるのでしょう。
加えて、食育を通じて楽しく食事をする経験は、食の大切さを学ぶだけでなく、コミュニケーション能力の向上にもつながり、社会性の発達にも良い影響を与えます。


おわりに
ワークショップの最後に、参加者それぞれが「明日からできること」を宣言しました。
家庭でできること、学校でできること、地域でできること、小さな一歩が集まれば、大きな変化につながります。
皆さんも、学校給食について考える機会を持ってみませんか?
家族との会話のきっかけに、懐かしい給食の思い出話をしてみるのも良いかもしれません。