軽井沢町、町民約2万人のこの町に、年間800万人もの観光客が訪れ、1万6000軒を超える別荘宅が点在しています。夏の避暑シーズンや大型連休ともなれば、観光客と別荘利用者が一斉に訪れ、町の道路はたちまち渋滞。町民の日常生活にまで支障をきたす場面も多く見られます。
「東京から新幹線を使って1時間で軽井沢に着いたのに、駅でタクシーに乗るまでに1時間待たされる。」との観光客の声もありました。
そこで軽井沢町は深刻な交通課題に対し新たなチャレンジを始めました。それが「日本版ライドシェア」です。
「日本版ライドシェア」とは、2024年4月に東京都内で初めてサービスが開始され全国の町にも徐々に広がりを見せている新しい制度です。国土交通省の認可を受けたタクシー会社が運行管理を行い、2種免許を持たない一般ドライバーが自家用車を使って有償で乗客を運ぶ仕組みです。これにより、公共交通の補完やタクシー不足の解消が期待されています。
町は日本版ライドシェアと合わせて、これまで町内タクシー会社で導入がなかったタクシー配車アプリも導入し利便性向上とデータによる分析を取り入れることや、繁忙期に周辺地域からのタクシー応援を受けるなど、様々な施策を組み合わせて交通課題解決に取り組んでおり、一定の成果を上げています。
さらに、町民の交通弱者(75歳以上の高齢者や免許返納者、妊産婦など)向けには、デマンドタクシー実証運行という取り組みも始まっています。これは登録制で、町独自のタクシーチケットを利用すれば、自宅を起点とした町内移動が格安で可能になる制度です。例えば、通常2,000円未満の運賃が500円、2,000円以上なら1,000円で済む仕組みです。平日8時半~16時という利用時間の制限はあるものの、交通弱者の外出支援策として町民から一定の評価を受けています。
軽井沢町の魅力は豊かな自然にあります。そのため、あえて街中ではなく、木立の中に佇む山中の住居を選ぶ人も少なくありません。こうした立地特性から、いわゆる『コンパクトシティ』のような都市設計には向かず、日常の移動手段として車を持たない町民にとっては、タクシーが重要な“生活の足”となっているのが現状ですが、こうした複数の施策により、慢性的なタクシー不足は着実に改善の兆しを見せています。
一方で、ライドシェアの全面解禁には私は慎重な立場を取っています。海外、特にアメリカでは、異業種プラットフォーマー(Uberなど)によるサービス運営の中で、ドライバーによる性犯罪が年間3,000件近く発生しているという報告もあります。日本での導入にあたっては、ドライバー登録時の犯罪歴チェックの制度化など、安全性の担保が不可欠です。
実際、軽井沢町におけるライドシェア導入については、私は議会でいち早く取り上げ、一般質問にてその安全性や運営体制について町に質しました。その結果、「現時点で犯罪歴のチェックを行う法的根拠はないが、今後警察と相談しながら対応を検討する」との答弁を得ることができました。
このように、新しくて便利そうなものを無条件に取り入れるのではなく、今まで地域で培われてきたタクシー会社の運行管理ノウハウを活用しつつ、安全性と利便性のバランスをとって進めることが大切だと考えます。軽井沢町のライドシェアは、元町職員など地域にゆかりのある人が多くドライバーを務めており、信頼性の高い体制で運用されている点も評価できます。
日本版ライドシェアが持つ可能性は大きく、うまく制度設計すれば、地域の移動課題の解決や、柔軟な働き方の支援につながる施策になるはずです。だからこそ、安全性や既存企業との調和という視点を忘れず、慎重かつ確実に前に進める必要があると、私は考えています。
今後も町議会議員として、その進捗状況をしっかり注視しながら、軽井沢の安心・安全な交通環境を守れるよう、引き続き取り組んでまいります。
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小林 天馬
Kobayashi Temma
所属議会
軽井沢町議会議員(長野県)
経歴
明治大学商学部商学科 卒業
金融業界向けITソリューション会社 勤務
Instagram:https://www.instagram.com/tenma_kobayashi/
ホームページ:https://kobayashitenma812.wixsite.com/my-site