令和7年6月2日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『ハーバード大学の留学生受入れに係る安全保障上の懸念に関する質問主意書』
提出者 神谷宗幣
我が国においては、近年、国際的な学術・研究交流の促進を目的として、世界有数の高等教育機関であるハーバード大学を始めとする外国大学からの留学生や研究者の受入れを積極的に進めている。文部科学省は、こうした動きをグローバル人材の確保とイノベーション推進の一環として推奨し、大学や研究機関への外国人留学生・研究者の受入れを拡大する方針を明確にしている。
文部科学省は令和七年五月二十七日、トランプ政権によるハーバード大学の留学生受入停止措置を受け、学び続けることができない留学生が出る事態となった場合における当該留学生の受入れなどの支援・検討を国内の各大学に対して文書で依頼した。これを受け、京都大学は同日、ハーバード大学での学修が困難となった留学生や若手研究者について、受け入れる方針を明らかにし、「具体的な検討を始めている」としている。
しかし、米国においては、こうした留学生・研究者の受入れが国家安全保障上の深刻なリスクをはらむことが既に明らかとなっている。とりわけ、トランプ政権下では、ハーバード大学等の中国籍の学生・研究者による機微技術の窃取、軍事転用可能な研究成果の流出、スパイ行為が問題視され、ビザ発給の制限や国外退去処分が実施された。
このような事態の象徴と言える事例が、ハーバード大学化学・化学生物学部の学部長であったチャールズ・リーバー教授の逮捕・有罪判決である。同教授は、中国政府が主導する「千人計画(Thousand Talents Plan)」の一員として中国・武漢理工大学から高額な報酬と研究資金を受け取り、その事実を米政府及び所属大学に隠蔽し虚偽申告を行ったとして、二〇二一年に有罪評決を受けた。これは、先端研究分野において、「学術交流」の名を借りた国家レベルの情報収集活動が実在している脅威を示す象徴的な事例である。
「千人計画」は中国共産党が推進する国家戦略であり、海外の最先端科学技術を獲得するために高額な報酬と資金援助を提示して、海外在住の中国人研究者や外国人研究者を組織的に取り込む制度である。参加者は、中国の軍事機関や政府研究機関との連携が求められることも多く、軍民融合政策との一体的な運用が進められている。この制度に関与した研究者の中には、米国で情報漏洩やスパイ活動などにより摘発・起訴された者も少なくない。
以上のように、ハーバード大学出身者を含む外国人留学生や研究者の受入れに当たっては、表向きの学術的価値に注目するだけではなく、その背後に潜在する国家戦略やスパイ行為、技術流出リスクに対する現実的な懸念にも正面から向き合う必要がある。
しかし、文部科学省は、これらの懸念に対する十分な検証や安全保障機関との連携体制を明示しないまま外国大学からの留学生や研究者の受入れを推進しており、拙速との疑念を拭えない。安全保障上のリスクが払拭されない限り、拙速な受入拡大は我が国の安全保障及び技術的優位性を損なうおそれがあるため、政府としては慎重な検討と対応が求められる。
以上の点を踏まえ、以下質問する。
一
米国が、ハーバード大学等に在籍する外国人留学生(特に中国籍)に対して、ビザ発給の制限や強制退去処分を行った背景について、政府の見解を示されたい。
二
我が国において、ハーバード大学等の外国大学出身の外国人研究者を受け入れる際、「千人計画」等の国家的計画への関与の可能性について、どのように把握しているか示されたい。また、安全保障上のリスクや国家計画への関与の可能性等に関する情報共有体制は存在するか示されたい。
三
現在の高度人材ポイント制及び研究機関における在留資格制度において、国家安全保障や研究成果の軍事転用防止の観点から、どのような審査・評価が行われているか、具体的に示されたい。
四
外国人研究者の受入れに際し、当該人物の所属機関や母国との関係性(例えば、中国人民解放軍や中国科学技術部との関係性等)を踏まえたリスク評価はどのように行われているか示されたい。また、その評価の法的根拠を明らかにされたい。
五
今後、外国人研究者の受入れに関しては、米国や豪州が導入しているような安全保障上のセキュリティークリアランス制度(security clearance)の導入を検討すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
右質問する。