現在、選択的夫婦別姓制度をめぐる議論が国会でも行われており、複数の法案が提出されています。この制度については、個人の尊重などの観点から賛成の声がある一方で、家族の一体感や戸籍制度への影響などを懸念し反対する声も根強くあります。
参政党では、このテーマについてより実態に即した議論を行うため、令和7年5月に党員およびサポーターを対象としたアンケート調査を実施しました。
本報告では、その結果をもとに、夫婦別姓制度に対する意識や経験、自由記述による多様な意見を整理・分析しました。
制度の是非をめぐる議論が続くなかで、何が問題と感じられているのか、どのような生活実感の中で語られているのかを、改めて見つめ直す材料としたいと考えています。
アンケートには計12,673名からの回答があり、回答者の多くは40代~60代で、男性がやや多い構成でした。これは、子育て・家族形成を経験している層が多く意見を寄せてくれたことを示しています。
また、選択的夫婦別姓制度についてどの程度理解しているかを尋ねたところ、「理解している」31.9%、「ある程度理解している」58.2%を合わせて、9割以上の方が一定の理解を有しているとの結果が出ました。
このことから、本アンケートの回答者は、単なる印象ではなく、制度の概要を把握した上で意見を述べている層が大多数であると考えられます。
結婚に際して名字を変更した人に対し、その不便さを尋ねたところ、91.9%が「不便・不利益を感じなかった」と回答しています。
一部に「手続きが煩雑」「心理的な違和感」といった声もありましたが、それらは一時的・限定的なものであり、現行制度の大枠を否定するほどの不便さではないと感じている人が大多数でした。
現在、旧姓を通称として使用している人の多くが「職場で旧姓の方が通じやすい」(72%)と回答しています。また、資格登録や書類整合性といった実務上の理由も目立ちました。これは、「夫婦同姓であっても、旧姓が日常的に使える社会環境がすでに整ってきている」ことを示しています。
「選択的夫婦別姓制度」が導入されたとしても、実際に「別姓を希望する」と答えた人はわずか2.0%にとどまりました。87.7%が「希望しない」と明確に回答しています。これは、現行の「夫婦同姓+通称使用」で十分と考える方が多いことを示しています。
制度改正の議論において、「改姓を望まない方がやむなく事実婚を選んでいる」との主張があります。今回のアンケートでは、事実婚をしていると回答した方161名(全体の約1.3%)から回答を得ました。
事実婚を選んだ理由としては、たしかに「改姓したくなかった」という声が一定数ある一方で、自由記述からは、再婚や子どもの姓への配慮、経済的事情、価値観の違い、精神的自立への思いなど、改正の問題とは無関係な個別事情に基づく選択が目立ちました。
特に、
・再婚すると亡くなった前夫の遺族年金が打ち切られるため、生活維持のために法律婚を避けている
・再婚相手との間に子どもがいるが、子の姓を変更させたくないという配慮から事実婚を選択している
といった、現実的・生活的な要因が複数挙がっています。
注目すべきは、「制度が変わったら法律婚にするか」という問いに対し、「しない」と答えた人が約6割(96名)に上った点です。
この結果は、たとえ選択的夫婦別姓制度が導入されたとしても、すべての当事者が法律婚に移行するとは限らないという事実を示しており、「改姓の自由さえ認められれば法律婚が広がる」という単純な前提に疑問を投げかけています。
つまり、「改姓を避けたい」という理由だけではなく、「法的な結婚という枠組みそのものを望まない」層が一定数存在するという現実を、冷静に認識する必要があります。
制度導入の議論では、「夫婦別姓を望んで結婚できない未婚者が多い」との主張がなされることがあります。この点に関し、今回のアンケートでは、未婚者(離婚・死別を含む)を対象に「制度が導入された場合、結婚するなら別姓を選ぶか」を尋ねました。
その結果、「別姓を選ぶ」と答えた人は2.8%にとどまりました。「選ばない」が90.2%と圧倒的多数を占め、「わからない」(7.0%)や「その他」を含めても、実際に別姓を希望する層はごく一部にとどまることが明らかになりました。
別姓/同姓を選ぶ理由
続く質問では、「なぜ同姓あるいは別姓を選ぶのか」という理由を尋ねました。
この設問では、「同姓を選ぶ理由」として「家族は同じ姓であるべき」が80%を占め、次いで「子どもと姓をそろえたい」「親族への配慮」などが続きました。
一方、「別姓を選ぶ理由」としては、「自分の姓に愛着がある」「改姓の手続きが面倒」などが挙がったものの、回答全体の中ではごく少数にとどまりました。
また、自由記述からは、「同姓」を選ぶ理由として、制度的・文化的背景に根ざした声が多数寄せられました。
「結婚して同じ姓になることに特別な意味がある」
「家族が一体であることを実感できる
「日本の戸籍制度や文化に即した自然な形」
といった意見のほか、
「通称使用で十分対応できており、不便を感じない」
「旧姓使用ができる環境が整っている中で、法改正は不要」
とする現状肯定の声も多く見られました。
一方、別姓希望の少数意見では、「キャリアの継続性」や「アイデンティティの維持」を理由に挙げる例が見られましたが、それ以上に目立ったのは、「自分の姓を守りたい」「親から授かった姓を捨てたくない」といった感情的・個人的な動機が中心であり、法制度としての整備の必要性とはやや距離があるようにも読み取れました。
■まとめ
これらの結果から見えてくるのは、制度を整えれば多くの未婚者が別姓を選ぶという仮定には根拠が乏しいという現実です。
むしろ、現在の同姓制度に対して「不便を感じない」「変更の必要を感じない」とする声が多数を占めており、制度導入の必要性や効果については、より慎重な議論が求められる段階にあるといえます。
選択的夫婦別姓制度の導入をめぐっては、「現行の夫婦同姓制度が不便であり、時代に合っていない」との批判がしばしばなされます。そこで、今回のアンケートでは、現在の夫婦同姓制度についてどのように感じているかを尋ねました。
その結果、最も多かった回答は、「特に不便は感じない」89.2%でした。次いで、「制度がわかりやすい」が48.7%。一方で、「改姓に不便・不利益がある」「同姓に違和感がある」「旧姓使用に手間がある」といった否定的な回答はいずれも1桁台にとどまっており、現行制度に対する肯定的な評価が圧倒的多数を占めました。
また、自由記述では、同姓制度に対する実務的な評価だけでなく、家族・地域・歴史との結びつきを重視する声が多数寄せられました。
たとえば、
「今を生きている私がどこの誰か、確認がとてもシンプルにできる」
「○○さんちのおじいさん、お孫さん、という呼び方が自然に通じる」
「家族同姓であることで、子どもとの一体感や、子育てへの責任感が生まれる」
「家族の名前に恥じない生き方をしようという気持ちが、子どもの非行の抑止にもなる」
「先祖代々の姓を受け継ぐことに重みがある」
「日本の家制度や戸籍制度に根ざした自然な仕組みだと思う」
といった意見には、制度の効率性以上に、家族や地域共同体のあり方を大切にする価値観がにじんでいます。
また、「夫婦同姓制度のおかげで、私たちが『家族』として社会の中で自然に受け入れられている」という安心感を挙げる声も多く、現行制度が日常生活における信頼や一体感の基盤になっていることがうかがえます。
また、「20年前は不便だったが、今は旧姓使用も含めて支障を感じていない」といった声もあり、制度が徐々に現実に即した形へと進化してきたことを評価する意見も見られました。逆に、「同姓に違和感を持つ」「改姓がアイデンティティの喪失になる」といった否定的な意見も一部ありましたが、全体から見ればごく少数派にとどまっています。
■まとめ
この結果は、現行の夫婦同姓制度が、多くの人にとって「わかりやすく」「不便が少ない制度」として受け入れられていることを示しています。とりわけ、家族の一体感、社会的な信頼、文化的な継承といった深い価値観の下で支持されている制度であることが、自由記述からも明らかになりました。
こうした実感に根ざした意見の重みを軽視することなく、人々が日々の暮らしの中で何を大切にしているのかを丁寧に見極めたうえで、制度全体の見直しは慎重に検討すべきです。
夫婦同姓制度をめぐる議論では、「同姓は時代遅れ」との批判がある一方で、日本の家族観や文化において『家族は同じ姓であるべき』という価値観が根強く存在しているのではないかという問題提起もあります。
この点について、今回のアンケートでは、「家族は同じ姓であるべき」という考え方にどの程度共感するかを尋ねました。
その結果、「強く共感する」87.6%、「ある程度共感する」11.3%と、実に98.9%が何らかの形で共感を示しており、ほぼ全員が家族同姓の意義を肯定的に受け止めていることが明らかになりました。この傾向は、先に見たQ5(夫婦同姓制度に不便を感じないという回答89.2%)や、Q4-2(同姓を選ぶ理由として「家族は同じ姓であるべき」が80%)と一貫しており、「同姓であることが家族の一体感や責任感、安心感につながる」とする共通認識が広く共有されていることを裏付けています。
自由記述でも、
「子どもと同じ姓であることが安心につながる」
「家族が一つの単位として認識されるために、同じ姓が必要」
「『○○さんちの家族』という自然な言葉の背景に、同姓という仕組みがある」
といった声が多く見られ、制度的な理由ではなく、日常生活の中で体感として支持されていることがうかがえます。
■まとめ
これらの結果から、夫婦同姓制度は単なる法律上の規定ではなく、家族のつながりを支える「文化的な基盤」や「社会的な実感」として根付いていることが分かります。
したがって、このような広範な価値観の存在を無視して制度変更を進めることは、社会の安定や家族の安心感を損なう可能性があるとの視点も、重く受け止める必要があります。
夫婦別姓制度をめぐっては、「子どもには影響がない」という立場と、「心理的・社会的な負担を伴う」という懸念の双方が主張されています。今回のアンケートでは、この点について具体的に尋ねました。
子どもへの影響の有無を尋ねたところ、下記の回答を得ました。
「夫婦の名字・姓が違うことにより、子どもに影響があると思うか」との問いに対しては、「影響があると思う」が96.1%にのぼりました。
「影響はないと思う」1.2%、「わからない・その他」2.7%と、影響の存在を認める意見が圧倒的多数を占めました。
具体的な影響内容として、回答者が選んだのは以下の通りです:
家族の一体感が失われ、子の健全な育成が阻害される(78.1%)
名字の異なる親との関係に違和感や不安感を覚える(68.5%)
友人などに姓の違いを指摘され、心理的負担が生じる(53.7%)
このように、子どもが周囲からの視線や自己認識の中で違和感を抱くことへの懸念が強く表れています。
また、自由記述からは、さらに多様で具体的な不安が読み取れました。
「自分の家族は一つだという感覚が揺らぎ、アイデンティティが混乱する」
「学校や病院などで、姓の違いによって本人確認が煩雑になり、緊急時に不利益が生じかねない」
「父親が子どもと別姓になったとき、本当に“父”としての自覚が芽生えるのか疑問だ」
このほか、「姓には、家族の一体感や帰属意識を育む力がある。その感覚を共有せずに育つことは、子どもの価値観形成や社会性に深い影響を及ぼすおそれがある」といった懸念の声も寄せられました。
また、「両親が対等であることを自然に認識するには、同じ姓のもとで家族が一体となっていることが重要であり、これが失われると個人主義や分断を助長しかねない」との指摘も見られました。
■まとめ
子どもへの影響については、単なる想像や理屈ではなく、多くの人が実際に具体的な懸念を抱いているということが、今回のアンケートから明確になりました。特に、家族の一体感が損なわれることや、社会生活の中での説明や確認の負担など、現実に起こりうる困難が率直に挙げられています。
夫婦別姓の議論にあたっては、こうした声を脇に置いて議論を進めるのではなく、子どもを含む家族全体の姿を正面から見つめ、慎重に検討する姿勢が必要であると考えます。
選択的夫婦別姓制度について、現行制度の維持を望むのか、それとも新たな法制度を設けるべきか。
この点について、令和3年(2021年)に内閣府が行った世論調査(家族の法制に関する世論調査(令和3年12月調査))の設問と同一の形式で、今回のアンケートでも問いかけました。
回答では、
現在の夫婦同姓制度を維持すべき:60.3%
同姓制度を維持しつつ、旧姓通称使用について法制度を設けるべき:37.3%
選択的夫婦別姓制度を導入すべき/その他:2.4%
この結果からは、97.6%が現行制度の維持を前提としており、そのうち約4割が旧姓の通称使用についての改善を支持するという構図が見えてきます。一方で、選択的夫婦別姓制度の導入を支持する声は極めて少数(2.4%)にとどまりました。
■ 自由記述に見る理由と背景
自由記述からは、以下のような声が多く見られました。
「現行制度は家族の在り方として自然で、日常生活で特段の不便も感じない」
「旧姓の通称使用で多くの実務上の問題は解決できている」
「夫婦同姓を廃止することによって、戸籍制度や家族観を支える国家的なシステムが崩れかねない」
一方で、通称使用の拡充に賛同する人の中には、「改姓手続きの簡素化が必要」「実務運用が各機関で統一されていない」といった具体的な改善要望も見られました。
また、別姓導入に否定的な理由として、「なりすましや出自の不明瞭化への懸念」「通名制度や戸籍制度の形骸化につながるのでは」といった制度的・安全保障的な指摘も寄せられています。
■まとめ
この結果は、令和3年の内閣府世論調査と同様、国民の多くが現行の夫婦同姓制度を基本としながらも、旧姓通称使用のさらなる柔軟化を望んでいる傾向を再確認するものとなりました。同時に、制度変更そのものについては、非常に慎重な姿勢が多数を占めていることが明確です。法制度のあり方を見直す際には、こうした多数の声や、同姓制度が我が国の家族や社会の秩序を支えてきたという実感を踏まえ、拙速な制度導入ではなく、現行制度を土台とした現実的な改善策を丁寧に検討する必要があります。
今回のアンケートでは、選択的夫婦別姓制度に対する自由な意見や要望を記述いただく項目を設けました。そこでは、制度導入に対する賛否だけでなく、生活上の事情、家族観、文化・国のあり方への意識、制度運用の提案など、幅広く多様な声が寄せられました。本章では、それら自由記述を大きく以下の4つの視点に分類し、代表的な意見とともに、以下まとめました。
① 制度の維持・拙速な導入への慎重論(多数)
最も多く見られたのは、現行制度の維持を望み、制度変更には慎重であるべきという声でした。
「家族は同じ姓だからこそ一体感が生まれる」
「家制度や戸籍の仕組みが崩れ、社会の安定が損なわれるのでは」
「夫婦別姓が導入されれば、家族や社会における“自然なかたち”が失われる」
こうした声は、制度の文化的な意味や生活への影響を強く意識したもので、感覚としての不安や拒否感にとどまらず、実感に基づく慎重論として述べられていました。
② 通称使用・運用改善による実質的対応の提案
「改姓の不便さは理解できるが、法改正による制度変更ではなく、運用改善で十分対応可能ではないか」という現実的な提案も多く見られました。
「旧姓使用はマイナンバーや運転免許などでかなり対応可能。あとは運用の徹底でよい」
「高市早苗氏のように、通達や省庁指導で解決できるなら、それに越したことはない」
「手間や混乱を増やす法改正より、地道な運用整備のほうが実効的」
③ 法制度の安全保障・国籍・戸籍への影響を懸念する声
一部の記述では、制度変更がもたらす国の基盤や治安への影響を懸念する声もありました。
「戸籍制度に手を入れることは、国家のアイデンティティを壊すことに通じる」
「通名制度や身元確認の制度とどう整合性を取るのか不透明」
④ 制度導入を望む立場からの要望(少数)
一方で少数ながら、制度の導入を望む声も見られました。特徴的なのは、一貫して現制度への敬意を前提にしつつ、限定的・実務的な導入を提案する意見が中心だったという点です。
「戸籍制度を維持しつつ、選択肢として別姓を設けてほしい」
「個人の事情に対応できる選択肢として、慎重に導入してはどうか」
■まとめ
自由記述では、制度の導入に対する賛否以上に、現行制度が果たしてきた役割や、変更による影響への不安が多く寄せられました。また、安易な法改正ではなく、現行制度の尊重を尊重しつつ、改善によって対応すべきだという声が多かったことも、特筆すべき傾向です。
今回のアンケートを通じて見えてきたのは、夫婦別姓の是非を論じる前に、そもそも家族とは何か、日本社会のかたちはどうあるべきかを考える必要がある、という問題意識でした。
本アンケートは、令和7年5月に実施し、1万2千人を超える党員・サポーターから回答を得ました。
選択的夫婦別姓制度についての意見は、単なる賛否ではなく、家族のあり方や社会制度、子どもへの影響、戸籍との関係など、さまざまな視点からの考えが寄せられました
多くの人が「改姓にそれほど不便はない」と答え、旧姓の通称使用を拡充すれば十分とする意見も目立ちました。
一方で、制度変更によって家族の一体感が損なわれることや、子どもが戸惑う可能性を不安視する声が多く、制度導入による影響は小さくないと考える人が多いことがわかります。
夫婦同姓制度は、我が国の家族制度や社会の仕組みに深く根ざしてきたものです。制度を変えるにあたっては、何が得られるのかだけでなく、何が失われるのかにも目を向ける必要があります。
拙速な変更ではなく、現行制度の意味を踏まえながら、必要に応じた見直しや運用改善を重ねていくことが求められます。
参政党では、この論点に関して、下記のような主張を掲げてきましたが、今回のアンケートを通じて、その方向性に共感や理解を寄せる声が多数あることが改めて確認されました。
今後も、家族の絆を大切にする社会の在り方を守るべく、現行制度の意義を伝えながら、必要な改善や運用の見直しに取り組んでまいります。