令和7年8月1日付で下記の通り質問主意書を提出しました。
政府からの答弁があった際には、こちらに掲載いたします。
『フェンタニルを含む薬物問題及び外国勢力による影響工作への国家安全保障上の対応に関する質問主意書』
提出者:神谷宗幣
私は令和六年四月及び十一月、フェンタニルを始めとする合成麻薬が外国勢力による戦略的な破壊工作に利用される可能性を問う質問主意書を提出した(第二百十三回国会質問第一〇四号及び第二百十六回国会質問第一号)。これに対し、政府は、我が国ではフェンタニルは麻薬に指定されており、極めて抑制的に使用され、現時点では米国のような乱用の実態はないと認識していると答弁するのみで、薬物問題を厚生労働行政の領域に押し込め、国家安全保障やインテリジェンスの観点から真剣に検討する姿勢を見せなかった。
しかし、日本経済新聞は令和七年六月、中国系組織が名古屋に倉庫拠点を設け、フェンタニル前駆体を米国向けに大量発送していた実態が判明したと報じた(以下「当該事案」という。)。これは単なる密輸事件ではなく、日本がフェンタニル密輸ネットワークの中継拠点として組み込まれていた可能性を示すものであり、政府のこれまでの答弁が事実認識として不十分だったことを証明するものである。
さらに、ジョージ・グラス駐日米国大使は、X(旧Twitter)上で「フェンタニルやメタンフェタミンといった合成薬物は、日米両国において多くの命を奪っています。そして、中国共産党はこの危機を意図的にあおっています。」と警告している。加えて、「われわれはパートナーである日本と協力することで、こうした化学物質の日本経由での積み替えや流通を防ぎ、両国の地域社会と家族を守ることができます。」とも述べ、迅速な対応を日本政府に促している。
こうした事態は、単なる密輸問題ではなく、敵対的な意図を持って日米同盟関係に不信と対立をもたらそうとするサボタージュ工作である可能性を強く示唆している。アヘン戦争から中国共産党による内戦時代のアヘン工作、北朝鮮の覚醒剤戦略に至るまで、歴史上、薬物は戦略的に用いられてきた。現代においても、米国議会やDEA(麻薬取締局)は、フェンタニル供給を「非軍事型戦争=超限戦」として捉え、中国共産党による国家戦略の一部とみなしている。
フェンタニルの流入は単なる健康問題にとどまらず、若年層の依存拡大、教育の機能不全、労働力の質の低下、治安の悪化や医療費の増大、地域社会の瓦解といった形で、日本社会の人的資本や社会統合力を根底から損ない、経済力・外交力・国際的信頼といった国益を複合的に毀損し得る。これを防ぐには、薬物問題を国家安全保障上の中核課題と位置付け、情報・治安・外交・教育・保健・税関などを統合した対応策が不可欠である。しかし、現状、政府はインテリジェンス機関(内閣情報調査室、公安調査庁、警察庁外事部門など)に対して薬物サボタージュ監視任務を明示せず、省庁間の連携組織も未整備である。過去の答弁は現実と乖離しており、政府の見解が修正されない限り、今回の事案と同様の危機が一層深刻化する蓋然性が高い。
以上を踏まえて、以下質問する。
一
日本がフェンタニル密輸の中継拠点として利用されていた可能性について、政府として調査を行っているのか示されたい。行っていない場合、その理由を示されたい。
二
政府は当該事案を単なる密輸事件として捉えているのか、見解を示されたい。若しくは、当該事案が外国勢力による意図的・組織的な活動の一部であり、日本をフェンタニル密輸の中継拠点とすることで日米間の信頼関係や安全保障に影響を及ぼし得るものとして、安全保障上の問題と捉えているのか、見解を示されたい。
また、グラス駐日米国大使は、中国共産党はフェンタニル危機を意図的にあおっていると警告し、同時に「われわれはパートナーである日本と協力することで、こうした化学物質の日本経由での積み替えや流通を防ぎ、両国の地域社会と家族を守ることができます。」とも発言しているが、こうした発言に対する政府の見解も併せて示されたい。
三
日本がフェンタニル密輸の中継拠点と認識される可能性が国際的にも高まっている中、政府はこれが日米同盟の信頼関係及び治安協力体制にどのような影響を与えると認識しているか示されたい。また、グラス駐日米国大使による警告を踏まえ、誤認や不信を回避し、日米間の信頼を維持・強化するために、どのような外交対応を行っているか、具体的に示されたい。
四
政府は、薬物を戦略的に利用した事例(アヘン戦争、中国共産党のアヘン工作、北朝鮮の覚醒剤政策等)についてどのように認識しているのか示されたい。また、前記事例の歴史的知見を踏まえ、薬物の流通が国家安全保障に与える影響をどのように捉え、現代の安全保障政策に反映させているのか、インテリジェンス機関の役割を含めて説明されたい。
五
「超限戦」という概念において、薬物・物流・情報・風評操作といった非軍事的手段による攻撃を、政府は戦略的リスクとして認識しているか示されたい。また、当該事案を「超限戦」の一形態と位置付けて分析しているか、明確に示されたい。
六
政府は、インテリジェンス機関に対して、薬物を用いた外国勢力による破壊工作に関する監視・分析・防止任務を明示的に付与しているか示されたい。付与していない場合、今後、付与する方針はあるか示されたい。
七
今後、薬物問題を国家安全保障上の中核課題として位置付け、外務、防衛、警察、厚生労働、文部科学、税関、インテリジェンス機関等を統合した国家横断型タスクフォースを創設する考えがあるか。考えがある場合、具体的な構想を示されたい。
右質問する。