令和7年 9月28日
シンガポール在住 大下千恵
昨今日本では外国人技能実習生、外国人労働者受け入れについて様々な問題が湧き上がってきています。シンガポールでも街中のあちらこちらにたくさんの外国人労働者が見受けられます。シンガポールやドバイは外国人労働者を受け入れたことで急激な経済発展を遂げたとプラス面だけ語られますが、果たして政府は何の規制もせず無秩序に外国人労働者を受け入れているのでしょうか。当地シンガポールの外国人労働者受け入れ事情についてご紹介します。
シンガポールでは外国人労働者の受け入れに関して厳格な規制が設けられています。その中で重要な役割を果たしているのがMOM (Ministry of Manpower:人材省)です。MOMはシンガポール全体の労働・雇用政策を所管しています。その中の一つの役割としてシンガポールで働く外国人労働者の就労ビザの審査、発行を一元管理しています。
シンガポールで労働を希望する外国人は学歴、仕事内容、月額給料に応じてスキル別に分類されビザの種類が決定し待遇が変わります。*(1)
ビザの種別によって一つの会社で雇える外国人の数には上限(Quota:クォータ)があり、シンガポール人社員の数に応じて外国人労働者の人数が決まります。また、外国人を一人雇うごとに「外国人雇用税(Levy:レビー)」を国に支払う義務があります。そのため、企業は無制限に外国人を雇うことができない仕組みになっています。
更にここ数年で学歴、給料の条件が上がってきているのでビザ取得がますます難しくなってきています。
SG$1≒110
(1)EP保持者の世帯者にはDependent Pass(DP)のビザが付与。DP保持者の就労は不可
(2)Spass保持者は$6000以上の収入で家族帯同可
(3) 中国、マレーシア、インド、バングラデシュ、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、タイなど
(4) バングラデシュ、カンボジア, インド、インドネシア、フィリピン、など
シンガポールの人口構成(2024年6月時点)
総人口:約 6.04 百万人(604万人)
シンガポールの人口の30%近くは外国人労働者を含む非居住者です。外国人労働者は金融業やオフィス関連業務のみならず、シンガポール人が敬遠しがちな職種、特にサービス業や建設業に多く見られます。人口の3割が外国人とはかなり割合が高いように見えます。しかし政府は無秩序に外国人労働者を受け入れているわけでなく明確な政策と厳格なルールに基づいて受け入れをしていることを忘れてはいけません。*(2)
1.労働者数の制限
シンガポールは「Singapore Core」ポリシー*(3)を徹底し、雇用主にシンガポール国民の雇用を義務付け、外国人比率の上限を設定しています。
先述した通り、雇用主が採用できる外国人労働者の割合には上限(Quota)があり、業種ごとに細かく規定されています。そして雇った外国人の人数ごとに外国人雇用税 (Levy)を雇用主から徴収します。これは安い外国人労働力に依存しすぎないようにするための仕組みです。QuotaとLevyの1つの例として、製造業の場合1つの企業で100人のシンガポール人の雇用があると、最大15人(15%)までのSpass保持者の雇用が可能です。同時に雇用主は毎月一人の外国人労働者ににつき雇用税$650が徴収されます。
違反時のペナルティとしては雇用主には罰金、懲役、外国人労働者には国外退去命令が下されます。
2.健康診断義務化・宿泊先の規制
3.就労範囲の厳格な制限
4.行動規範と法的制約
5.雇用主側の責任
上記のルールは雇用や景気の動向、またシンガポール国民と外国人の摩擦などが発生した場合においてはシンガポール政府は即座に外国人受け入れ人数を制限し、自国民ファースト優先の政策に舵をきるバランスのとれた柔軟な対応をすることが多いです。そのため、シンガポールで働く外国人やその雇用者の多くはいつ変わるかもしれないビザのルールを常に注視している必要があります。
シンガポールも日本と同様に高齢化と出生率の低下の問題を抱えています。その状況下においてシンガポールは国家的な戦略として外国人労働者を厳格なルールのもとに受け入れ、自国の労働力不足解消、経済発展のために上手に活用しています。そして外国人労働者を「移民」ではなく「一時労働力」と明確に区別し、家族同伴制限や社会保障の限定(医療・福祉は雇用主負担)を設けています。低技能労働者は短期的な「出稼ぎ」として扱われ、高技能やシンガポール社会への貢献度が高い外国人には永住権取得の道を開き、優秀層を取り込むというシンガポールならではの政策で人口減少対策、労働力不足問題に取り組んでいます。
日本も労働力不足で外国人労働者のニーズが叫ばれています。しかし現状のように厳格な制限やルールもなく無差別に受け入れるといことは日本という国のありようを大きく変えてしまう危険性があります。欧州などの事例を見ていると一度安易に外国人を大量に受け入れてしまうと元に戻すことは容易ではないです。日本は今からでも遅くはありません。諸外国の成功例、失敗例から学び一度立ち止まって受け入れ再検討するよう強く願います。
参考文献
(1) https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits
(2) https://www.population.gov.sg/our-population/population-trends/overall-population/?utm_source=chatgpt.com
(3) https://www.mom.gov.sg/about-us/cos2022/upgrading-capabilities-of-local-workforce?utm_source=chatgpt.com
(4)https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/work-permit-for-foreign-worker/housing/pre-entry-housing-check-for-cmp-work-permit-holders?utm_source=chatgpt.com
https://www.straitstimes.com/singapore/manpower/construction-firm-fined-156000-for-housing-foreign-workers-in-unhygienic-living
(5) https://www.mom.gov.sg/passes-and-permits/work-permit-for-foreign-worker/sector-specific-rules/work-permit-conditions?utm_source=chatgpt.com