アメリカで深刻化している合成薬物フェンタニル。たった2mgで命を奪うその脅威は、もはや「対岸の火事」ではありません。市民の生命と健康を守る立場から、この問題を朝霞市議会の一般質問にて取り上げました。
フェンタニルは医療用に用いられる強力な合成麻薬で、その鎮痛作用はモルヒネの約100倍に及びます。わずか2mgで死に至る危険性を持つため、医療現場では厳重に管理されています。しかし一方で、違法薬物として乱用すると、強い多幸感とともに依存を引き起こし、短期間の使用であっても激しい禁断症状を引き起こす危険があります。
アメリカやカナダでは乱用が急速に広がり、年間で数万人もの命が奪われる深刻な社会問題となっています。フィラデルフィアでは「ゾンビタウン」と呼ばれる地域が生まれ、使用者が立ったまま体を折り曲げ、前後に揺れながら硬直する異様な光景が映し出されています。1回分がわずか10ドル程度で手に入ることから、強烈な依存性と禁断症状により、多くの人々が抜け出せずに苦しんでいます。
フェンタニルの脅威は、統計にも明確に表れています。公的なデータでも、2010年代後半から死者数が増加していることが示されています。最新の2024年データでは一時的に減少が見られるものの、依然として数万人が犠牲となっており、「減ったから安心」とはいえない状況です。
問題はフェンタニルそのものにとどまりません。化学構造をわずかに改変したフェンタニル類似体が各国で相次いで確認されており、国連薬物犯罪事務所(UNODC)には80種以上が報告されています。中でもカルフェンタニルは、フェンタニルよりも約100倍もの強さを持つとされ、致死量はわずか0.02mg前後とされています。わずかな量でも命を奪う新たな薬物の出現に、強い警戒が求められます。
日本経済新聞は2025年6月25日付で、中国系組織が名古屋を拠点に米国へフェンタニル前駆体を出荷していた疑いを独自スクープとして報じました。フェンタニルは無味無臭で、類似物質や前駆体の種類が多いため、世界でも特に水際対策が難しい違法薬物の一つとされています。
隣国の韓国では、若者の間でフェンタニル類似体の乱用が拡大し、深刻な社会問題となりつつあります。韓国の国立科学捜査研究院(NFS)は、フルオロフェンタニルなど新種の合成オピオイドが押収薬物から検出されていると明らかにしました。
日本でも2000年以降、フェンタニル関連の摘発は17件確認されていますが、いずれも医療用製剤の目的外使用です。密輸による乱用はまだ確認されていないものの、世界的な拡散状況を踏まえると国内への流入リスクは着実に高まっており、もはや「安全」とは言えないのが現実です。
一般質問では、市もフェンタニルの脅威を重大な問題として受け止めているとの答弁がありました。しかし現状では、国や県からの情報に依存しているのが実情です。市民を守るためには、市自身が警察や関係機関と積極的に情報を共有し、早い段階で対策に結びつけていくことが不可欠です。
フェンタニルを含む薬物問題は、子どもや青少年にとっても身近なリスクになりつつあります。市内の小中学校では薬物乱用防止教室や保健授業が実施されていますが、従来の教材だけではフェンタニルの特徴や危険性を十分に伝えることが難しいのが現状です。社会で起きている最新の事例を取り入れ、子ども達に危険性を理解させる教育内容を充実させていくことが大切です。
これまでのポスターや広報誌だけでは、フェンタニルの脅威に十分とはいえません。そのため、市には独自の啓発資料や市民講座など、実効性のある取り組みを求めました。今回の一般質問では、市長からも「国や県の資料を活用し、市民に情報を届ける」との前向きな答弁がありました。今後は、市民の安全を守るために、こうした取り組みをさらに推進していくことが求められます。
フェンタニル1キログラムはおよそ50万人分の致死量にあたり、さらに強力なカルフェンタニルでは5000万人分に相当するとされます。まさに化学兵器に匹敵する危険性を持つ薬物です。市民を守るためには、水際での対応に加え、関係機関との情報共有、教育現場での危機意識の醸成、そして市民への分かりやすい啓発が不可欠です。今後も、市民の生命と健康を守るため、この問題を継続的に取り上げ、具体的な施策につなげていきます。
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高堀 亮太郎
Takabori Ryotaro
所属議会
朝霞市議会議員(埼玉県)
経歴
1974年10月生まれ。48歳。埼玉県朝霞市出身。高校時代を陸上自衛隊少年工科学校で過ごす。中国に7年留学。上海中医薬大学で生薬の鑑定を学ぶ。中薬学部卒業は日本人初。32歳から会社経営。趣味は築古住宅DIY、歴史探究、健康。
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