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宮城知事選挙と途上国のZ世代抗議活動

フィリピンのデモで掲げられたワンピースの旗/ガーディアン

令和7年11月3日  藤野 はるか

10月26日投開票の宮城県知事選挙で、参政党が政策覚書を締結して支援した和田政宗候補に投票した有権者層は、いわゆるZ世代(1996年~2010年生まれ)を含む若者世代だった。X上で拡散されているNHKの出口調査(1)によると、和田氏に投票した割合がもっとも高かった年齢層は18歳から29歳である。水道民営化、イスラム教徒受け入れを想定した土葬推進など、現職の政策に最も反発したのは、宮城県のZ世代有権者だったといえる。

Z世代といえば、数か月前から海外の途上国でもたびたび話題になっていた。大統領が国外退去を余儀なくされたマダガスカルをはじめ、ネパール、フィリピン、インドネシア、ケニア、ペルー、モロッコでは、格差拡大、経済の停滞、政権の腐敗に怒りを募らせたZ世代が抗議活動を行っているのだ。彼らのシンボルが日本の漫画「ワンピース」であることも共通している。(2)「ワンピース」といえば、参政党の神谷代表が2010年に立ち上げた龍馬プロジェクトのキャッチコピーが「ワンピースのような政治をしよう!」であること(3)も興味深い。「ワンピース」には、国籍や民族を問わず、政治に不満を持つ若者を引き付ける何かがあるのかもしれない。一方で、多くの途上国で同じような抗議活動が起きているのは、裏で何者かが操っている可能性も否定できないことにも留意する必要がある。

ところで和田候補に投票した宮城県のZ世代も、世界各国で政府に対する抗議活動を行っているZ世代も自分たちの生きづらさの原因が行き過ぎた「グローバリズム」であることにはまだ気づいていないようだ。宮城県知事選にまつわる報道も海外Z世代の反政府デモを報じているメディアもそれには触れていない。オールドメディア自身がグローバリズム推進者であるため、もしかしたら視聴者にそれを気づかせたくないのかもしれないが。

アムネスティ・インターナショナルが行ったインタビューで、マダガスカルのZ世代(匿名の20歳男性)は「沈黙することは私たちを迫害する者を利し、それを可視化することは私たちを守ることになる」と答えている。(4)彼らが自分たちを苦しめている「迫害者」の黒幕がグローバリズムだと気付いたときこそ、世界の政治は一気にターニングポイントを迎えるかもしれないし、日本ではZ世代の高市早苗政権への期待が一気にしぼむかもしれない。なぜなら高市総理も残念ながらグローバリスト陣営の一員だからである。

高市総理は10月24日の所信表明演説で、台湾の半導体大手TSMC誘致を高く評価し、「世界の投資家が信頼を寄せる経済を実現することで、世界の資本が流れ込む好循環を生み出す」ことを掲げ(5)、同日開催の英・仏両政府主催の「ウクライナに関する有志連合オンライン首脳会合」では、今後もウクライナ支援を続けると明言した。(6)これらは「反グローバリズム」の参政党から見れば、いずれも典型的なグローバリズム推進政策である。

選択的夫婦別姓、国旗損壊罪法案、靖国参拝や皇統継承への考え方など、日本の国柄を大切にするという点で、高市総理は参政党と共通点も多い一方で、グローバリズムへの向き合い方では大きな隔たりがある。今夏の参院選で参政党は「日本人ファースト」を掲げたことで、これまでなかなか争点にならなかった外国人問題を争点にすることができた。高市総裁率いる自民党と戦うであろう次回の衆院選では、参政党は「グローバリズム」を争点に高市政権との違いを有権者に示すことになるかもしれない。

宮城県知事選挙で和田政宗候補が現職に一歩及ばなかったのは、非常に残念だった。しかし、マダガスカルのZ世代が言うように、宮城県のZ世代の投票行動は現職のグローバリズム推進政策に反対する多くの県民の存在を可視化し、今後はこれらの政策への一定の抑止力を持つことになるだろう。その意味において、宮城県の将来に希望をもたらしたことは間違いない。私たちは微力であっても、無力ではないのである。途上国のZ世代が掲げるワンピースの旗もそのことを雄弁に語っている。

【参照記事】
(1)https://x.com/TetsuNitta/status/1982402875272974562
(2)‘Gen Z’ protesters lead global wave of generational discontent | AP News
(3)龍馬プロジェクト全国会 公式サイト
(4)The Gen-Z Movement: This is why we’re risking our lives to protest – Amnesty International
(5)令和7年10月24日 第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ
(6)高市内閣総理大臣のウクライナに関する有志連合オンライン首脳会合への参加について(結果概要)|外務省

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