2024.03.08
東京都の太陽光パネル義務化条例について|青木 ひとみ
こんにちは。新宿区議会議員の青木仁美です。
東京都では、令和4年(2022)年12月に新築住宅への太陽光パネルの設置を義務づける条例が可決されました。戸建て住宅を含む新築建物に太陽光パネルの設置を義務づけたもので、義務の対象は大手住宅メーカー(都内に供給する年間の延べ床面積が2万平方メートル以上)50社程度であり、都内の新築住宅の半数強になるとみられています。
戸建て住宅に対する設置の義務化は全国初となります。
開始時期は令和7年(2025年)4月です。義務の対象はあくまで住宅供給メーカーですが、当然その設置費用は購入者が負担することになるでしょう。住宅購入者にとってメリットはあるのでしょうか。
・太陽光パネル設置費用は回収できるのか
太陽光パネルで発電した電力は自宅で使用することができますし、電気が余れば電力会社が買い取ってくれます。そのため、国土交通省の試算によると、設置費用は15年で元が取れるそうです。
キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志氏がこの国土交通省の試算を検証しています。それによると、確かに150万円の太陽光発電システムを購入したとしても元はとれそうですが、それには条件があります。
太陽光発電には南向きでほどよい傾斜の屋根にパネルを設置するのがよいのですが、東京都内の住宅事情でそのような理想的な条件の住宅がどの程度あるでしょうか。また、元が取れたとしても、その費用は誰が払うのかというと、結局は国民が負担することになるのです。
それが固定価格買取制度(FIT制度)です。
FIT制度とは、再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定期間、国が決めた価格で買うことを約束する制度であり、そのコストは再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)として国民が負担しています。
みなさんの月々の電気代にも再エネ賦課金が上乗せされていると思います。ご自宅の電気代の明細をぜひご確認ください。
この図は我が家のある月の電気料金の明細ですが、使用電力量×単価が再エネ賦課金として加算されています。強制的な徴収ですから税金のようなものといってもよいでしょう。
国民の負担によって、太陽光パネルの設置費用の元が取れるというからくりです。
平成12年(2000年)に始まったこの制度は年々単価が上昇し、総額は年間2兆円を超えています。
個人宅の太陽光パネルであれば、まだ住民の利益になるものですが、私たちから集めた再エネ賦課金がメガソーラーなどを運営する一部の業者に流れています。外資系企業が設置したメガソーラーであれば、国民から徴収したお金がどんどん海外に流れているということです。
このような構造を維持し続ける再生可能エネルギー推進は考え直す必要があります。
・太陽光パネルの問題点
これ以外にも、太陽光発電にはいくつかの問題点があります。
・環境負荷や安全性に関する問題
太陽光パネルには製造方式によって、鉛、セレン、カドミウムなどの有害物質が含まれていると言われています。適切に管理しないと、これらの有害物質が環境に出てしまう恐れがあります。そうなると土壌や水質の汚染などにつながります。
また、令和6年1月1日に発生した能登半島地震を受けて経済産業省も注意喚起をしていますが、水害などで浸水した際、太陽光パネルには感電の危険があります。災害時などに二次被害を起こす恐れのある太陽光パネルの導入は慎重に進めなければなりません。
・電力の安定性に関する問題
電力の品質は電圧と周波数で決まります。品質の良い電気を提供するためには電圧と周波数を一定に保つ必要があります。
そのためには需要量と供給量のバランスが大事なのですが、再生可能エネルギーは自然の力に頼るため、供給が不安定になります。太陽光発電は、曇りの日や夜間は発電量が不足するので、その分を他の発電方法で補わなければなりません。風力発電も同様に、風のない日は発電してくれません。そのため必ずバックアップの発電方法が必要となり、自然エネルギーは必然的に二重投資となります。
・ウイグル人の強制労働の問題
世界の太陽光パネルの8割が中国で生産されていて、そのうちの半分がウイグルで製造されているといいます。
ウイグル地区では中国共産党による人権侵害が行われているとの報告があります。これに対して国際的な非難が高まっていて、米国では法律が制定され、ウイグルで製造された製品や部品の輸入を禁止しています。EUも輸入禁止に向けて法制化を進めているところです。
そのような状況下で太陽光パネルの設置を推進することは、ウイグルでの強制労働など人権侵害に加担することになってしまいます。
このように、さまざまな問題を抱えた再生可能エネルギーを過度に推進することに私たちは反対しています。
行政にも慎重な態度を求めています。
・新宿区議会での一般質問
東京都の設置義務化条例により、今後新宿区内でも太陽光パネルを設置した住宅やビルが増えていくことが予想されますので、令和5年第4回定例会で太陽光パネルの環境負荷と安全性について質問しました。
国として推進しているような政策を区議会の中で変えていくことはなかなか容易ではありません。新宿区の計画にも地球温暖化対策が組み込まれていて、「ゼロカーボンシティ新宿」の実現を目指して区内のCO2排出量46%削減を目標にしています。
上記のような再生可能エネルギーの問題点を指摘しても実のある答弁は得られないので、現実的に対策が必要となりそうな廃棄とリサイクルの問題や、災害時の安全対策について質問しました。
区としても2030年頃から太陽光パネルの大量廃棄が発生すると言われていることは把握していて、計画やルール作りなどの対策が必要であることは認識しているようでした。
ただし現在のところは具体的な方針は決まっておらず、東京都の動向なども注視しながら研究を進めていくとのことでした。
一部の太陽光パネルはリサイクルも難しく、特殊な廃棄物となるため、取り扱いには注意が必要です。撤去作業にも電気工事の資格が必要など、費用がかさむことが考えられます。
しっかりと情報を周知し、備えておかないと対応できなくなります。
今後、区で制定しているマニュアルや計画などの改定時に、廃棄ルールや周知方法を取り入れるよう働きかけを続けます。
今回の答弁では、太陽光パネルの環境負荷や廃棄、リサイクルに関しては問題意識をある程度共有できました。再生可能エネルギーの推進を止めることはなかなかできませんが、本質的な問題を指摘しながらも、現実に起こりうる事態への対策も進めていきたいと思います。
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青木 ひとみ
Aoki Hitomi
所属議会
新宿区議会議員(東京都)
経歴
関西学院大学文学部哲学科 卒業
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