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2025.2.22

教科「日本語」が拓く新しい言語教育の可能性と課題|岡川たいき

ある哲学者は「世界は言葉で出来ている」と言いました。
たった一つの言葉が、私たちに生きる勇気を与えたり、思い悩む原因になることがあり、言葉は人生そのものとも言えます。
そんな「日本語」は、私たちにとってかけがえのない宝物です。この感性豊かな日本語を次世代に引き継ぎ、さらに発展させていくため、世田谷区では教育特区の認定を受け、国語とは別に教科「日本語」に取り組んでいます。本ブログでは、この新しい教科の意義と可能性、そして直面する課題と今後の展望について考えていきます。

教科「日本語」の概要

(参照元:https://www.city.setagaya.lg.jp/documents/1806/kyokanihongo.pdf

教科「日本語」は、単なる言語スキルの習得を超えた、包括的な言語教育を目指しています。その主要なねらいは以下の3点です。
1.深く考える子どもを育てる。
2.自分を表現することができ、コミュニケーションができる子どもを育てる。
3.日本の文化を理解し大切にする子どもを育てる。

特に中学校では、これらのねらいに沿って「哲学」「表現」「日本文化」という3つの領域を設定し、それぞれに特化した教科書を用意しています。この構成により、言語を通じた思考力の深化、表現力の向上、文化理解の促進を総合的に進めることが可能となっています。
今の社会は、すぐにお金になる実学とは離れている学問(例:哲学、文学、美学等)に対して、大学では予算もほとんどつかず興味を失っています。この日本語の豊かさを後世に繋ごうとしているのが、教科「日本語」です。

教科「日本語」の特徴的な学習内容

教科「日本語」では、従来の国語教育では十分に扱われていなかった以下のような学習活動に力を入れています。

  • 日本語の響きやリズムを楽しみ、その美しさを味わう
  • 論理的思考力を身につける
  • 自分の言葉で表現する力を養う
  • 文学的素養を身につける
  • 郷土に伝わる文化を理解し継承する
  • 日本の文化への理解を深める
  • 読書の習慣を身につける

これらの活動を通じて、生徒たちは言葉の多面的な側面に触れ、より深い言語理解と豊かな表現力を獲得することが期待されています。

従来の国語教育との違い

従来の国語教育は、主に文法の習得や読解力の向上に重点を置いていました。特に中学校以降では、受験対策としての側面が強く、実用的なコミュニケーション能力や創造的な表現力の育成が十分ではありませんでした。

一方、教科「日本語」は、言葉を通じた思考力の深化、自己表現力の向上、文化理解の促進など、より包括的なアプローチを取っています。これにより、生徒たちは言語をより立体的に捉え、実生活での活用や文化創造につながる力を身につけることができます。

教科「日本語」の価値

教科「日本語」の教育的価値は多岐にわたります。まず、言語を通じた思考力の深化が挙げられます。「哲学」の領域では、言葉を使って深く考える力を養い、批判的思考力や問題解決能力の向上につながります。
次に、自己表現とコミュニケーション能力の向上があります。「表現」の領域では、自分の考えや感情を適切に伝える力を育成し、他者との効果的なコミュニケーションを可能にします。
さらに、文化理解と創造的思考の育成も重要な価値です。「日本文化」の領域を通じて、生徒たちは自国の文化的背景を理解し、それを基盤に新たな文化を創造する力を養います。
これらの価値は、グローバル化が進む現代社会において、自己のアイデンティティを確立しつつ、多様な文化と交流する上で極めて重要です。

現状の課題

しかし、教科「日本語」の実施にあたっては、いくつかの課題も存在します。最も大きな問題は、この新しい教科を適切に指導できる教師の不足です。従来の国語教育とは異なるアプローチが必要となるため、教師自身の再教育や新たな指導法の開発が求められています。
また、カリキュラムと教材の更なる開発も必要です。特に「哲学」「表現」「日本文化」の3領域を結びつけ、体系的な学習を可能にする教材の整備が急務となっています。
さらに、教科「日本語」の実施方法にも改善の余地があります。

  • 暗唱偏重の問題:単なる暗唱に終始する授業は、言葉の本質的な理解や創造的な使用につながりにくい問題があります。
  • 教材選択の適切性:1年生から漢詩を取り上げるなど、生徒の発達段階や興味関心に必ずしも合致していない教材選択がみられます。
  • 日本語の本質的理解の必要性:日本語が日本人のアイデンティティ形成に果たす重要な役割について、十分な認識が共有されていない可能性があります。

改善案と今後の展望

これらの課題を解決するために、以下のような取り組みが考えられます。

  1. 教師向けの専門的研修プログラムの開発
  2. 小中学校教師によるプロジェクトチームの設立
  3. カリキュラムと内容の見直し
  4. 日本語と日本人のアイデンティティに関する理解促進

まとめ

教科「日本語」は、単なる言語スキルの習得を超えた、新しい形の日本語教育を目指しています。深い思考力、豊かな表現力、そして文化への理解を総合的に育成することで、次世代を担う子どもたちに、より豊かな言語生活と文化創造の可能性を提供します。
しかし、その実現には多くの課題が存在します。教師の育成、カリキュラムの再開発、教材の整備など、解決すべき問題は少なくありません。これらの課題に取り組みながら、教科「日本語」の理念を着実に実践に移していくことが求められています。

私たち一人一人が、日本語の持つ力と可能性について考え、議論を重ねていくことが、この新しい教育の成功につながるのではないでしょうか。言葉は私たちの思考と文化の基盤です。その言葉を豊かに育むことは、私たち自身と社会の未来を豊かにすることにほかなりません。

教科「日本語」の取り組みを通じて、子どもたちが言葉の魅力に触れ、深い思考力と豊かな表現力を身につけ、新たな文化を創造していく。そんな未来を共に築くため、私は教科「日本語」を再構築しながらも守っていきたいと考えています。


岡川 たいき
Okagawa Taiki

所属議会
世田谷区議会議員(東京都)

経歴
京都産業大学経済学部 卒業
株式会社TIPPING POINT 勤務

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