皆さんは、津島市に外国人コミュニティが形成されていることをご存知でしょうか?
特にトルコ人コミュニティの存在は、日本の地方都市における多文化共生の興味深い事例となっています。近年は、埼玉県川口市から移住してきたクルド人も増加しており、新たな課題が生まれてきました。私は津島市議会議員として、現地調査や関係者への交流を重ねてきました。この記事では、津島市におけるトルコ人コミュニティの実態と今後の課題について紹介します。
2023年6月末の統計によると、日本に住むトルコ出身者は約6,070人です。多い順に埼玉県(2,186人)、愛知県(1,552人)、東京都(931人)となっています。
日本在住のトルコ出身者は、主に以下の3つのグループに分けられます。
特に最初の2つのグループは、それぞれ出身地域と現住する地域においても一定のまとまりがあり、連鎖移民的な特徴が見られます。
埼玉県川口市には多くのクルド人が居住しており、その多くは「特定活動・難民認定手続き中」または「仮放免」という不安定な在留状況にあります。仮放免とは、本来なら「退去強制令書」が出され、収容されるべき外国人を、一時的に収容施設の外で生活することを許可する制度です。
仮放免中の外国人には厳しい制約があるはずですが、実態として以下のような問題が生じています。
最近、従来は埼玉県川口市に集中していたクルド人が津島市へと移住する動きが見られます。川口市に住むクルド人が急増しているために、働き先が見つからず、津島市に住むクルド人と仲良くしているトルコ人が解体系の仕事先を紹介しているようです。
その背景には、近年のトルコ人若年層の職業多様化があります。クルド人は、トルコ人の若者が嫌がるような仕事も積極的に引き受けるので、トルコ人経営の下請け業者がクルド人に現場作業を依頼する機会が増えてきているのです。
これまで住み分けられていたトルコ人コミュニティとクルド人コミュニティが同じ地域で共存するという新たな状況が生まれていますが、両者の関係は複雑な歴史的背景があります。
トルコ人とクルド人の関係は第一次世界大戦後に複雑化しました。
1920年のセーヴル条約でクルディスタンの独立が一時認められましたが、1923年のローザンヌ条約でその権利は否認され、以降「クルド人問題」として独立・自治を求める運動が続いています。
トルコ建国の父アタテュルクは「トルコ人の兄弟」としてクルド人に手を差し伸べましたが、世俗化政策やクルド語使用禁止など厳しい同化政策もとり、これに不満を持つクルド人は反乱を起こし、現在ではPKK(クルド労働者党)などによる独立運動が続いています。
さらに、現在のトルコでは、エルドアン大統領が「脱アタテュルク」を掲げ、近代化と世俗主義を推進したアタテュルクの路線から離れ、トルコを100年前のイスラム国家に回帰させようとする政策を進めています。
これにより、トルコ国内では世俗派と保守イスラム派の間で非常に危険な緊張状態が続いています。
こうした母国の政治的・宗教的な対立構造も、津島市に暮らすトルコ人コミュニティに少なからぬ影響を与えている可能性があり、多文化共生を進める上での懸念材料となっています。津島市は、今後の共存のあり方を考えなければなりません。
津島市には、日本有数のイスラム教施設が集中しています。
注目すべきは、これらのモスクがいずれも元パチンコ店を改装して作られたことです。
2022年3月に元パチンコ店を改装して建てられた「津島アヤソフィヤジャーミィ」と、わずか170メートル離れた場所に位置する「アハマディア・ムスリム協会」(2015年に同じく元パチンコ店を改装)があります。
こうした「元パチンコ店改装型モスク」が二つも近接して存在している例は全国的にも非常に珍しいと思います。
しかし、この二つの宗教施設は性格が大きく異なります。
津島アヤソフィヤジャーミィは、主流派イスラムの伝統的なモスクで、主にトルコ系の人々が集まります。このモスクの関係者の多くは日本語を話せないため、地域社会との交流はやや限定的です。
一方、アハマディア・ムスリム協会は、1889年にインドで発祥した比較的新しい宗教団体の拠点です。協会の代表は日本に帰化しており、流暢な日本語を話します。日本人との交流を重視し、地域社会との共存を積極的に推進しています。子ども食堂の運営やボランティア活動にも熱心で、地域貢献度が高いのが特徴です。
これら二つの宗教施設の存在は、中東の複雑な宗教事情が津島市という地方都市に持ち込まれていることを示しています。アハマディア・ムスリム協会は自らを「真のイスラム教」の信奉者であると主張していますが、主流派イスラム教からは異端視されており、両者の間には溝があります。同じ地域に共存しながらも宗教的には相容れない関係にあり、この緊張関係が津島市に根付いています。
津島市は、日本の多文化共生政策の最前線として注目すべき特徴を持っています。元パチンコ店を改装した二つの宗教施設の共存、そして近年のクルド人流入という動きは、日本社会が直面する多様な外国人コミュニティとの共生の縮図といえるでしょう。
埼玉県川口市の事例から学べることは多く、とりわけ仮放免状態のクルド人が住民票を持たないまま県境を越えて移動している問題は、制度と現実のずれを示しています。住民票がなくても教育や医療が受けられることについては、人道的な配慮と同時に、それに伴う行政負担の問題も見過ごせません。
津島市は今、問題が深刻化する前の段階にあります。また、多文化共生の新しいモデルを作る機会も得ているとも言えます。
歴史的に対立してきたトルコ人とクルド人、さらに異なるイスラム教の宗派間の潜在的な緊張関係も考慮しながら、平和的に解決できる環境を整えることができれば、日本全体の外国人問題に大きな示唆を与えることになると思います。
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野口 こうき
Noguchi Koki
所属議会
津島市議会議員(愛知県)
経歴
岐阜大学大学院工学研究科 卒業
プライマル株式会社 勤務
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